魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ

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独占欲

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カイルに腰を抱き寄せられ、王宮の広大な庭園を歩くエリナ。
 道行く近衛騎士や女官たちが、信じられないものを見たという顔で次々と硬直していく。あの「冷酷無慈悲な第一王子」が、一人の女性を片時も離さず、守るように連れ歩いているのだから。

​「殿下………その……」

​「……黙っていろ。お前が他人の視線に無防備すぎるのが悪い」

​ カイルが不機嫌そうにエリナをさらに引き寄せた、その時だった。

​「おやおや。これはまた、珍しいものが見られたね」

​ 頭上から、軽やかな声が降ってきた。
 見上げると、庭園の大きな東屋の屋根に、一人の男が座っていた。

 緩く編んだ銀髪に、灰色の瞳。カイルの軍服とは対照的な、ゆったりとした漆黒の魔導衣を纏った男――王立魔導院の長であり、王国最強の魔導師、フェリクスだ。

​ フェリクスはひらりと音もなく地面に降り立つと、カイルの殺気混じりの視線を受け流しながら、エリナの顔を覗き込んだ。

​「へぇ……。君が、カイルが正門をブチ壊してまで略奪してきたっていう『洗濯令嬢』かい?」

​「……フェリクス。貴様、死にたいのか。その汚い顔を彼女に近づけるな」

​ カイルの周囲の空気がバリバリと音を立てる。だが、フェリクスは「怖い怖い」とおどけて見せながら、エリナに優雅な一礼をした。

​「初めまして、可憐なお嬢さん。僕はフェリクス。この野蛮な王子の唯一の友人……ってことになってる。それにしても、噂以上だ」

​ フェリクスはエリナの瞳をじっと見つめ、その口角を妖しく上げた。カイルのような圧倒的な圧ではなく、霧のように肌にまとわりつくような、不思議な魔力を感じる男だ。

​「ふぅん……面白い。これは厄介だ」

​「え……?」

​「フェリクス、それ以上は許さんと言ったはずだ」

​ カイルがエリナの前に立ちふさがり、フェリクスを遮る。

 フェリクスは肩をすくめ、カイルの肩越しにエリナへ向かってウインクをした。

​「そんなに怖がらなくていいよ。僕は君の『味方』だから。……ま、カイルみたいな不器用な男に飽きたら、いつでも僕のところへおいでよ」

​「……貴様ッ!」

​ カイルが剣の柄に手をかけた瞬間、フェリクスは「おっと、仕事の時間だ」と軽やかに身を翻した。

​「じゃあね、エリナちゃん。またすぐに会えるよ。……君のその力が、この国をどう変えるか、楽しみにしてる」

​ フェリクスは陽炎のように姿を消した。

 後に残されたのは、怒りで血管が浮き出そうなカイルと、彼の腕の中で戸惑うエリナ、そして遠くで「また面倒な奴が絡んできた……」と額を押さえるマルクだけだった。
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