不器用な氷の王子は幼馴染を離さない。元婚約者は勝手に破滅中!

ムラサメ

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第三話

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馬車が隣国の国境を越え、アルフレッドの居城へと滑り込む。

石造りの重厚な門が開いた瞬間、私は自分の目を疑った。

​「……えっ?」

​深夜にもかかわらず、城の入り口には眩いばかりの魔導灯が灯り、数百人の騎士たちがビシッと整列していた。そして、彼らが掲げている横断幕には――。

​『祝・エルナ様ご入国! 我らが主君の悲願達成!』

​「…………アルくん? あの横断幕、何かしら」

​「……っ、見なくていい! 騎士団の連中が勝手にやったことだ!」

​アルフレッドは顔を真っ赤にして、私の視界を大きな手で塞ごうとする。

彼は、冷徹で非の打ち所がない「氷の王子」として私を迎え入れたかったらしいが、部下たちの浮かれ具合がそれを台無しにしていた。

​「アルフレッド殿下! おめでとうございます! 五年前から維持し続けていた『エルナ様専用離宮』が火を吹く時が来ましたな! さあ、専属の料理人百名が、エルナ様の好物を並べて待機しておりますぞ!」

​「黙れ、騎士団長! 誰が今それを言えと言った! 斬首にするぞ!」

​アルフレッドが必死にかっこつけて一喝するが、耳が林檎のように赤いので全く威厳がない。

……五年前から離宮を? 私が婚約破棄されるのを、そんな前から確信して準備していたの?

​「エルナ、まずは……その、飯だ。お前は昔から、集中すると食事を抜く癖があるからな」

​彼は私を抱き上げたまま、大広間へと向かった。

扉が開くと、そこには深夜とは思えない光景が広がっていた。長いテーブルの端から端まで、私の好物である温かなスープや、香ばしい肉料理、色鮮やかなタルトが、湯気を立てて並んでいる。

​「……アルくん。これ、本当に料理人が百人もいるの?」

​「……お前の好みを網羅しようとしたら、自然とそうなっただけだ。……偶然だ」

​「たった一人の食事に、百人は偶然じゃないわよ」

​私が呆れながらも一口スープを運ぶと、彼は隣で「……味はどうだ? 」と、そわそわしながら覗き込んでくる。

かっこいい王子様として余裕を見せたいはずなのに、私の反応一つに一喜一憂しているのが丸分かりだ。

​食後、さらに彼は私を「離宮の最上階」へといざなった。

​「次は風呂だ。疲れているだろう?」

​案内された浴室は、もはや一つの部屋だった。

大理石の浴槽には、私が昔「好きだ」と言った珍しい品種の薔薇が、溢れんばかりに浮かべられている。

​「……ねえ、アルくん。この薔薇、この国では冬に咲かないはずじゃ……」

​「……魔導師に命じて、温室の温度を維持させただけだ。……別に、大した手間ではない」

​「嘘おっしゃい。顔が『頑張った』って書いてあるわよ」

​「……っ! 余計なことは言わなくていい! 早く入れ!」

​彼は私を浴室へ押し込むと、扉のすぐ外で「……何かあったらすぐに呼べ。俺が……いや、侍女を突入させるからな」と、落ち着かない様子で警護を始めた。

​薔薇の香りに包まれながら、私は思う。

エドワード様は、私が何を好きで、何のために働いているか、一度も聞いてくれなかった。

でも、アルくんは――。


​お風呂から上がると、アルフレッドは脱衣所の前で、石像のように固まって待っていた。

湯上がりの私を見た瞬間、彼は「……っ。……問題ない。今の俺は、非常に冷静だ」と、あらぬ方向を向いて告げた。
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