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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
03 夫婦萌えもそれはそれでありだと思うの。
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鬼のような勢いで資料を作り上げて指定されたフォルダに送り込む。これまた投函気分で手を合わせてから席を立った。時間はちょうどお昼休みに入ったところだ。早く行かないとご飯を食いっぱぐれる。
スマホにメッセージが入って見やると、憧れの人からのものとわかり、はわわとなった。ニヤニヤしながら開いてみると、
【お疲れ。無理はしないように、でもがんばれよ】
って。っって!
「くうぅ~っ。これで既婚じゃなかったらっ」
いや既婚でも、奥さんがあんなに素敵じゃなかったら狙ってたかもしれない。しれないじゃない、多分そうしてた。肉食系と言うなら言え。あんな色気と男らしさを感じる人いないもん。おかげで俳優なんかそっちのけで大ファンになってしまった。その人は大学の友人の兄である。
「不倫はやめとけよー」
呟きを聞かれていたらしく、佐々マネがパソコンを見たまま言った。その眼鏡がブルーライトで光っている。なんかあれだよね、ロボットアニメのオペレータールーム思い出すよね。その反射具合見ると。
「大丈夫です、現実と夢の区別はついてます」
胸を張ったのに生暖かい目線を返された。いいじゃない、区別ついてれば。大事なことでしょ。と思いながら財布を手に部屋を出る。
【三十歳の誕生日目前に彼氏に振られ、翌日が社内プレゼンな私に励ましの言葉を!】
出勤時、憧れの人ーーもとい、夫婦に送ったのはそんな文面だった。夫婦両方と知り合いなときは、変な誤解をされぬよう、二人に送るのが私なりのマナー。でも、多分この夫婦は夫の方が筆まめなのだろう。だいたい返事は夫のマサトさんから返って来る。
【お二人のリアルタイムツーショット見れば元気になれる気がします!】
社食へと歩きつつ、鼻息荒く送り返すと、何だそりゃ、と言いつつ写真が送られて来る。次いで届いたのは奥さんアヤノさんからのメッセージだった。
【落ち着いたら遊びにおいで。悠人も健人も喜ぶから】
悠人と健人は二人の子供だ。三歳と一歳。あともう一人は欲しいのよねと笑うアヤノさんと、マサトさんは会社の同期。ランチも大概二人で出かけて、子供に邪魔されない二人の時間を楽しんでいるらしい。
写真を開くと、ランチ中らしい二人のよりそう姿があった。
ーーああ、デレる。
この二人でいるときの顔が好きなのよね。ご飯三杯いけるわ。
じゅるりと生唾を飲み込む勢いでにやける私は、お礼のメッセージを返し、またお邪魔させてくださいとニコちゃんマークとともに送り返した。
社員食堂のスパゲティにフォークをくるくる巻付けながら、私はニヤニヤと写真を眺める。スマホには、こっそり二人のフォルダを作ってコレクションしているが、まだバレてはいないはず。バレたらきっとマサトさんに呆れられ、消されることだろう。
最初にマサトさんを見たのは、何を隠そうその弟の神崎隼人、通称ざっきーの結婚式だ。私自身は、ざっきーよりも、その妻たる香子の方がつき合いが長い。高校の同級生だ。
強く見えて意外と繊細な香子と、繊細に見えて意外と図太い私は、割と相性が良かった。昨日も深夜帯にも関わらずーーそして彼女も二人の子持ちのワーキングマザーにも関わらずーー私の電話につき合ってくれた。
そんな香子は市役所勤務。ある日イベントがあるから来てと呼ばれ、行った先にいたのがざっきーとその兄であるマサトさん夫婦、そしてその子供たちだった。
元々子供と遊ぶのは得意な私はその一日ですっかり子供たちに懐かれ、マサトさんとアヤノさんにも可愛がってもらうようになった、という次第である。
ざっきーの結婚式で見かけたときにはまだ未婚だったらしいマサトさんは、その後結婚して子供ができたらより一層魅力的になった。包容力がね。滲み出てるのよ。ガキじゃない大人の魅力なの。でも時々、子供っぽく拗ねたり悪戯したりするのが、また何ともツボなんだわ、私の。
でも人のものだからね。ていうか私、アヤノさんのことも好きだからね。私より六つ年上とか信じられないくらいお茶目で可愛いの。ちょっと抜けてて、時々マサトさんが呆れてる。プリンにフォークを出されたときには結構驚いたな。本人も慌ててたけど。
でも仕事はバリバリできるんだって、マサトさんが不思議がっていた。きっと気が抜けるのよね、安心できる人の前だもん。
そんな大好きな二人に想いを馳せていたら、気分もすっかり落ち着いてきた。ていうか意識的に自分のことは考えないことにする。
「ごちそうさまでした」
スマホと空になったお皿に手を合わせ、席を立ち上がった。
デスクに向かっていたら、スマホがまたメッセージの着信を告げた。見やると高校の同級生であり、サークル仲間でもある小林幸弘からだ。
【今日から一週間旅行で日本を不在にしますんでよろしく!】
あー、そういえば結婚五年目だから海外旅行行っとくかとか言ってた気がする。彼の妻である早紀もサークル仲間で、香子とは大学での専攻も同じだ。
同時期に結婚した香子たちや、やっぱりサークルカップルの相川夫婦には二人ずつ子ともがいるけれど、幸弘たちのところはまだだ。早紀は学校の先生だからタイミングが難しいのかもしれない。
【行ってらっしゃい!】
私の返事に、幸弘は笑顔の絵を返してきた。
スマホにメッセージが入って見やると、憧れの人からのものとわかり、はわわとなった。ニヤニヤしながら開いてみると、
【お疲れ。無理はしないように、でもがんばれよ】
って。っって!
「くうぅ~っ。これで既婚じゃなかったらっ」
いや既婚でも、奥さんがあんなに素敵じゃなかったら狙ってたかもしれない。しれないじゃない、多分そうしてた。肉食系と言うなら言え。あんな色気と男らしさを感じる人いないもん。おかげで俳優なんかそっちのけで大ファンになってしまった。その人は大学の友人の兄である。
「不倫はやめとけよー」
呟きを聞かれていたらしく、佐々マネがパソコンを見たまま言った。その眼鏡がブルーライトで光っている。なんかあれだよね、ロボットアニメのオペレータールーム思い出すよね。その反射具合見ると。
「大丈夫です、現実と夢の区別はついてます」
胸を張ったのに生暖かい目線を返された。いいじゃない、区別ついてれば。大事なことでしょ。と思いながら財布を手に部屋を出る。
【三十歳の誕生日目前に彼氏に振られ、翌日が社内プレゼンな私に励ましの言葉を!】
出勤時、憧れの人ーーもとい、夫婦に送ったのはそんな文面だった。夫婦両方と知り合いなときは、変な誤解をされぬよう、二人に送るのが私なりのマナー。でも、多分この夫婦は夫の方が筆まめなのだろう。だいたい返事は夫のマサトさんから返って来る。
【お二人のリアルタイムツーショット見れば元気になれる気がします!】
社食へと歩きつつ、鼻息荒く送り返すと、何だそりゃ、と言いつつ写真が送られて来る。次いで届いたのは奥さんアヤノさんからのメッセージだった。
【落ち着いたら遊びにおいで。悠人も健人も喜ぶから】
悠人と健人は二人の子供だ。三歳と一歳。あともう一人は欲しいのよねと笑うアヤノさんと、マサトさんは会社の同期。ランチも大概二人で出かけて、子供に邪魔されない二人の時間を楽しんでいるらしい。
写真を開くと、ランチ中らしい二人のよりそう姿があった。
ーーああ、デレる。
この二人でいるときの顔が好きなのよね。ご飯三杯いけるわ。
じゅるりと生唾を飲み込む勢いでにやける私は、お礼のメッセージを返し、またお邪魔させてくださいとニコちゃんマークとともに送り返した。
社員食堂のスパゲティにフォークをくるくる巻付けながら、私はニヤニヤと写真を眺める。スマホには、こっそり二人のフォルダを作ってコレクションしているが、まだバレてはいないはず。バレたらきっとマサトさんに呆れられ、消されることだろう。
最初にマサトさんを見たのは、何を隠そうその弟の神崎隼人、通称ざっきーの結婚式だ。私自身は、ざっきーよりも、その妻たる香子の方がつき合いが長い。高校の同級生だ。
強く見えて意外と繊細な香子と、繊細に見えて意外と図太い私は、割と相性が良かった。昨日も深夜帯にも関わらずーーそして彼女も二人の子持ちのワーキングマザーにも関わらずーー私の電話につき合ってくれた。
そんな香子は市役所勤務。ある日イベントがあるから来てと呼ばれ、行った先にいたのがざっきーとその兄であるマサトさん夫婦、そしてその子供たちだった。
元々子供と遊ぶのは得意な私はその一日ですっかり子供たちに懐かれ、マサトさんとアヤノさんにも可愛がってもらうようになった、という次第である。
ざっきーの結婚式で見かけたときにはまだ未婚だったらしいマサトさんは、その後結婚して子供ができたらより一層魅力的になった。包容力がね。滲み出てるのよ。ガキじゃない大人の魅力なの。でも時々、子供っぽく拗ねたり悪戯したりするのが、また何ともツボなんだわ、私の。
でも人のものだからね。ていうか私、アヤノさんのことも好きだからね。私より六つ年上とか信じられないくらいお茶目で可愛いの。ちょっと抜けてて、時々マサトさんが呆れてる。プリンにフォークを出されたときには結構驚いたな。本人も慌ててたけど。
でも仕事はバリバリできるんだって、マサトさんが不思議がっていた。きっと気が抜けるのよね、安心できる人の前だもん。
そんな大好きな二人に想いを馳せていたら、気分もすっかり落ち着いてきた。ていうか意識的に自分のことは考えないことにする。
「ごちそうさまでした」
スマホと空になったお皿に手を合わせ、席を立ち上がった。
デスクに向かっていたら、スマホがまたメッセージの着信を告げた。見やると高校の同級生であり、サークル仲間でもある小林幸弘からだ。
【今日から一週間旅行で日本を不在にしますんでよろしく!】
あー、そういえば結婚五年目だから海外旅行行っとくかとか言ってた気がする。彼の妻である早紀もサークル仲間で、香子とは大学での専攻も同じだ。
同時期に結婚した香子たちや、やっぱりサークルカップルの相川夫婦には二人ずつ子ともがいるけれど、幸弘たちのところはまだだ。早紀は学校の先生だからタイミングが難しいのかもしれない。
【行ってらっしゃい!】
私の返事に、幸弘は笑顔の絵を返してきた。
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