12 / 85
第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
12 マネージャーの笑顔に御用心。
しおりを挟む
アイス事件の翌朝。本日も晴天ナリ。
前田に借りたジャージは今絶賛お洗濯中。男物だし気にせず干していいかと外干ししてきた。この様子ならゲリラ豪雨でもなければ今日中には乾くだろう。
それにしても、返しに行くの憂鬱だわー。あの性悪男のことだ、きっと厭味の一つや二つや三つや四つ、平気で言うに違いない。いや、いっそ言われた方がいいかも。あの呆れたような目で黙って嘆息でもされたら、傷つきやすい私のハートはきっとひび入ってしまうことだろう。……ていうのは冗談だけど。我ながらなかなか丈夫なハートだと思うけど。でも鋼のハートとまではいかないもん、傷つくには傷つくのよ。一応。
思いながら歩いていると、背中をぽんと叩かれた。振り向くと一人の女性が立っている。
「サリーちゃん、久しぶり。おはよー」
見覚えのある容姿に、脳内検索機能を高速回転させる。検索結果が出て内心ホッとした。
声をかけてきたのは、ゲーム部門に入社していた同期のデザイナー、湯崎麗羅ちゃんだ。レイラという名前がゲームのキャラクターみたいだったのと、気さくにみんなに話しかけて飲み会の企画とかもしてくれていたので、一応覚えている。
「レイラちゃん。久しぶり」
彼女は私より二つ年下だ。赤茶色に染めた髪をくるくると巻いて、ゆるいポニーテールにしている。服はネイビーベースに白と赤がいい感じに効いていて、こだわりがありそうだと見て分かる。
「企画、採用になったんだって?おめでとー」
「ええ、とうん、ありがとう」
表情はつい苦笑になる。嬉しいけど素直に喜べない、複雑な乙女心である。乙女心とはちょっと違うって?まあそこはそれとして。
「こないだ自由人に聞いたんだー。一緒のチームになるんでしょ?SEとしては優秀らしいよ。がんばってね」
自由人?と首を傾げると、レイラちゃんは笑った。
「自由人とかフリーダムとか呼ばれてるの、知らない?前田くん」
フリーダムってなんかどっかのロボットアニメにいなかったかそんなの。自由人?マイペースってことか。
確かに人に気を遣うたちの人間ではなさそうな気はする。
「でも、サリーちゃんこっちの配属になって戸惑ってるでしょ。こっちの同期集めて飲みに行かない?私、企画するよ」
気の利いた申し出にはっとする。頬に手を添え、涙を拭うふりをしながら喜んだ。
「レイラちゃんの優しさに惚れるー!」
「でしょでしょー。この胸に飛び込んでおいで!」
早朝から、きゃー、とハグする女子のテンションについていけない男性社員があきれ顔で横を通り過ぎていくけれど、気にしない。そんな小さいことを気にするサリーちゃんではないのである。
「じゃ、またメールするねー」
レイラちゃんは爽やかな笑顔で手を振り、足早に去って行った。
そっかそっか。知り合いがいないとか文化が違うとか戸惑っているだけでいないで、少ないツテを辿ってみることもできたんだ。そんなことにも気づかないだなんて、私ってばお馬鹿さん☆てへぺろっ。
ほくほくと温かい気持ちになりながら、鼻歌すら口ずさみつつデスクへ向かうと、佐々マネに面白がられた。
「吉田さん、今日はご機嫌みたいだね」
言われてきりっと敬礼した。
「はいっ。やる気満々でありますっ」
「ふぅん」
佐々マネはにこやかに言った。
「じゃあ、今日中の仕事、これとこれとこれ。お願いねっ」
タイプじゃないおっさんに小首を傾げられても全然可愛くないんですけど!
私は思わず拳を握って小さく震えた。
前田に借りたジャージは今絶賛お洗濯中。男物だし気にせず干していいかと外干ししてきた。この様子ならゲリラ豪雨でもなければ今日中には乾くだろう。
それにしても、返しに行くの憂鬱だわー。あの性悪男のことだ、きっと厭味の一つや二つや三つや四つ、平気で言うに違いない。いや、いっそ言われた方がいいかも。あの呆れたような目で黙って嘆息でもされたら、傷つきやすい私のハートはきっとひび入ってしまうことだろう。……ていうのは冗談だけど。我ながらなかなか丈夫なハートだと思うけど。でも鋼のハートとまではいかないもん、傷つくには傷つくのよ。一応。
思いながら歩いていると、背中をぽんと叩かれた。振り向くと一人の女性が立っている。
「サリーちゃん、久しぶり。おはよー」
見覚えのある容姿に、脳内検索機能を高速回転させる。検索結果が出て内心ホッとした。
声をかけてきたのは、ゲーム部門に入社していた同期のデザイナー、湯崎麗羅ちゃんだ。レイラという名前がゲームのキャラクターみたいだったのと、気さくにみんなに話しかけて飲み会の企画とかもしてくれていたので、一応覚えている。
「レイラちゃん。久しぶり」
彼女は私より二つ年下だ。赤茶色に染めた髪をくるくると巻いて、ゆるいポニーテールにしている。服はネイビーベースに白と赤がいい感じに効いていて、こだわりがありそうだと見て分かる。
「企画、採用になったんだって?おめでとー」
「ええ、とうん、ありがとう」
表情はつい苦笑になる。嬉しいけど素直に喜べない、複雑な乙女心である。乙女心とはちょっと違うって?まあそこはそれとして。
「こないだ自由人に聞いたんだー。一緒のチームになるんでしょ?SEとしては優秀らしいよ。がんばってね」
自由人?と首を傾げると、レイラちゃんは笑った。
「自由人とかフリーダムとか呼ばれてるの、知らない?前田くん」
フリーダムってなんかどっかのロボットアニメにいなかったかそんなの。自由人?マイペースってことか。
確かに人に気を遣うたちの人間ではなさそうな気はする。
「でも、サリーちゃんこっちの配属になって戸惑ってるでしょ。こっちの同期集めて飲みに行かない?私、企画するよ」
気の利いた申し出にはっとする。頬に手を添え、涙を拭うふりをしながら喜んだ。
「レイラちゃんの優しさに惚れるー!」
「でしょでしょー。この胸に飛び込んでおいで!」
早朝から、きゃー、とハグする女子のテンションについていけない男性社員があきれ顔で横を通り過ぎていくけれど、気にしない。そんな小さいことを気にするサリーちゃんではないのである。
「じゃ、またメールするねー」
レイラちゃんは爽やかな笑顔で手を振り、足早に去って行った。
そっかそっか。知り合いがいないとか文化が違うとか戸惑っているだけでいないで、少ないツテを辿ってみることもできたんだ。そんなことにも気づかないだなんて、私ってばお馬鹿さん☆てへぺろっ。
ほくほくと温かい気持ちになりながら、鼻歌すら口ずさみつつデスクへ向かうと、佐々マネに面白がられた。
「吉田さん、今日はご機嫌みたいだね」
言われてきりっと敬礼した。
「はいっ。やる気満々でありますっ」
「ふぅん」
佐々マネはにこやかに言った。
「じゃあ、今日中の仕事、これとこれとこれ。お願いねっ」
タイプじゃないおっさんに小首を傾げられても全然可愛くないんですけど!
私は思わず拳を握って小さく震えた。
0
あなたにおすすめの小説
花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される
アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。
花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。
日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。
だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
幸せのありか
神室さち
恋愛
兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。
決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。
哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。
担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。
とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。
視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。
キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。
ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。
本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。
別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。
直接的な表現はないので全年齢で公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる