期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

文字の大きさ
24 / 85
第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。

24 炸裂する腐女子の妄想と母からの緊急指令。

しおりを挟む
 ーー一体、何だったんだろう。
 ファミリーデー以後、前田はやたらとよそよそしくなった。
 いや、元々好意的な対応をされていたとは思えないのだけど、やたら絡んで来たのが嘘のように事務的なのだ。
 まあジャージも返したし、問題ないといえばないか。
 そう思いながらも、気になるのは自然だと思う。
 何だったんだろう、といえば、マサトさんもだ。
「ろくでもない男とは別れて正解。いい男つかまえろよ」
 ファミリーデーの別れ際。穏やかな笑顔と、禁断の(!)頭ポンに、ほとんど魂を抜かれた私は、夢見心地で浮き立つばかりだったのだけれどーー
 考えてみれば、あれもいつものマサトさんにしてはトゥーマッチな振るまいだ。
 二人が何やら険悪な(いや、前田が一方的に噛み付いていたようにも見えるが)ムードだったことを考えると、これは何かーー
「サリーちゃん」
 社食でランチを一緒していたレイラちゃんが、真剣な顔で言ったので、私は我に返った。
「ど、どうしたの?」
「私ね、見ちゃったのよ」
「見ちゃったって?」
「例のお兄さんと、フリーダムーー」
 レイラちゃんの深刻な様子に、私はついつい飲まれる。見たって何を?私が見た場面じゃないところでも会っていたんだろうか。
 ごくり、と唾を飲み込み次の言葉を待っていると、レイラちゃんは顔を覆った。
「あれじゃ、お兄さんはやっぱり攻めだわ。総受けを想定してたけど攻守入れ代わる可能性も大ね。私としたことが見誤った!」
 ーー知るかぁああ!!
 と、叫びたい気持ちをどうにか心中に留め、私は乾いた笑いを返してごまかしたのだった。

 そうこうしていると、誕生日ももう来週だ。
 ああ、とうとう三十になってしまうーー
 思っていたとき、母からメッセージが入った。
【緊急指令!今週末、家族会議を開催します。用事の有無について返信ください。なお、重要度の低い用事は後日に延期する手筈をお願いします!】
 ーーって何だこれ。
 娘の私もときどき戸惑うくらい、うちの両親は茶目っ気のある人たちだ。とはいえここまでガチ?なのも珍しい。本当に何か大事なことがあるのだろうか。
 思いながらスケジュールを思い出した。特に予定は無いはずーーそう、彼氏がいたときにはいつもそのくらいの時期に誕生日を祝ってもらっていたけれど、今は残念ながらその彼氏がいないのであるから用事もない。
 苦笑しながら私は了解と返した。
 もし、本当に重要な話だったとしてーー
 私は考えて、はっとした。
 ーーもしかして、弟の結婚が決まったとか?
 私には、二歳離れた弟が二人いる。一卵性双生児で、名前は達哉と勝哉。
 え?どこかで聞いた気がするって?それを言っちゃあおしまいよ。
 ちなみに私はミナミと名付けられずに済んでよかったと心から思っているが、これは母が阻止してくれたらしい。グッジョブ、母上。
 でも、二人の弟はよくこう言っていた。
「姉さんの結婚が決まったら自分も考える。だって姉さん、焦っちゃうでしょ?焦ってろくでもないの連れて来られたら嫌だし」
 姉のことをよく理解してくれている弟たちである。
 ーーってことは、結婚はないか。
 思いながらも可能性は捨てきれない。そわそわした気持ちで週末を迎えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される

アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。 花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。 日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。 だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~

チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。 そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。 ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。 なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。 やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。 シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。 彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。 その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。 家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。 そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。 わたしはあなたの側にいます、と。 このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。 *** *** ※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。 ※設定などいろいろとご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

Fly high 〜勘違いから始まる恋〜

吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。 ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。 奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。 なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。

処理中です...