期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

文字の大きさ
46 / 85
第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。

46 狸マネージャーによる謎のフラグ。

しおりを挟む
 決心した私は、翌日張り切って出勤した。気持ちいい一日は気持ちいい朝から!早起きして朝ごはんを食べて、会社近くのカフェでアイスレモンティーを買って、そしてデスク回りを片付けて、さあ仕事だ。ーーログイン状況見たけど前田まだっぽいからね。仕方ないよね。やっぱりあいつ遅いんだな、昨日はたまたま早かっただけだなきっと。そう思いながら、ばらばらと出勤してくる社員に笑顔で挨拶する。ほらやっぱり挨拶大事だからね。
「吉田さん、なんか今日笑顔が眩しいね」
 出勤してきた佐々マネが不思議そうに首を傾げた。私は笑う。
「何ですか、それ。私はいつもご機嫌ですよ」
「そうかなぁ。……まあ、そうか。なんか最近ちょっと元気なさそうだったから。前田くんと喧嘩してるとき以外」
 前田との喧嘩がカンフル剤?そうだったかもしれないけどあんまりうれしくない。私は苦笑を返した。
「いやー、それはあれですよ。先月彼氏にフラれたからっすよ」
 笑って言うと、周りの人が動揺したのが感じられてびびった。え?みんなさりげなく聞いてたの?うわ恥ずかしー。取り繕うように手を振る。
「あ、でももう吹っ切れてるんで。全然無問題です」
「へぇ……」
 佐々マネはわずかに目をさ迷わせた後、
「えーと、じゃあ、今吉田さんはフリーなんだ」
 何ですかその不思議な確認。
「……そうですけど」
「あ、そっかー、ふぅん。そうなんだぁ」
 佐々マネは言ってデスクにつく。え?何?何なの今の。一体何フラグ?
 私は分からないまま首を傾げた。

 昨日残業しなかった分の仕事を片付けるともう昼休み。
 昨夜はろくなものを食べなかったので、今日の昼はちゃんとしたランチをと心に決めていた私は、財布とスマホ片手に外へと出かけた。
 ランチはちょっと洒落たお店に入った。この店のランチセットにはサラダバーがついていて、パンを選べばお代わり自由。しっかり食べたいときにはよく使う店だが、オフィス街なので昼休みになったらすぐにオフィスを出ないと入れない。
 二人掛けの窓際テーブルに通されてハンバーグセットでジンジャーエールを食前に頼んだ。サラダバーからサラダをよそって席に着くと、ジンジャーエールを口にする。爽やかな甘さの炭酸を口にしていると、外からコンコンと窓をノックされてそちらを見やった。
 いつだかの爽やかリーマンが手を振って、私の向かいの席を指差し、拝むような仕種をした。店内を見回すと満席だ。相席を頼んでいるのだろうと推察して窓の外のリーマンに親指と人差し指で丸を作ると、彼は喜ぶように手を数度合わせた。
 少しすると店内にリーマンが入ってくる。待ち合わせですとか何とか言ってるんだろう。私が手を挙げると向こうも手を挙げて入ってきた。私の前の椅子を引き、苦笑する。
「助かったー。もうどこもいっぱいでさ。最近ジャンクフードばっかりだったから、今日こそと思ってたんだ」
 名前も知らない彼は、近くの会社の人間だと分かっているだけだ。ただ、先日のランチの会話から、ほとんど同世代だと分かったので、互いに少し砕けた口調になる。私は笑う。
「分かる分かる。私も同じ理由でここ来たもの」
「だよね。サラダあるし、白飯選べるし、ハンバーグは肉々しいし」
 同士と分かって顔を見合わせ笑った。リーマンはサラダを取って戻って来る。私は出されたパンを食べ終え、店員さんにお代わりを頼んだところだった。
「お代わり?」
「そう。最初から大盛りとかできないのかなぁ」
 リーマンは楽しげに笑った。
「君、見た目と話したときと、ちょっとイメージ違うよね」
「耳タコです」
 ハンバーグをつつきながら苦笑を返す。
「あ、やっぱりよく言われる?」
「しょっちゅう」
「そっか」
 リーマンは笑いながらサラダをつついた。
「……あのアイスさ」
 とは、コンビニで私がかっさらったアレだろう。
「元カノが好きで、つき合ってやってるうちに俺もはまっちゃったんだけど」
 私は何も言わずランチを口に運ぶ。
「君と二人で食べながら、昔の限定フレーバーの話をしたとき、思い出しちゃってさ」
 二人でランチしたとき、昔のフレバーについて互いに覚えているものの話をしたのだ。美味しかったもの、イマイチだったものーー
 私はふと微笑んだ。その先の展開が読めたからだ。
「図らずも、復縁のキューピッドになっちゃいました?私」
 彼は照れ臭そうに後ろ頭に手をやる。
「いやー、でも五年も経ってるからさ、馬鹿にされるかと思ったんだけど」
「むしろ復縁てそんなもんでしょう、嫌い合って別れたんじゃないなら。タイミングの問題だっただけかも」
 ま、話に聞くだけだけど、と形だけ肩をすくめる。
「おめでとうございます」
「そんな、いい歳こいて復縁でおめでとうなんて」
「だって、すごく嬉しそうだから」
 私の言葉に、リーマンはますます照れ臭そうにした。
 何となくその幸せそうな空気が伝染して、私も自然と笑顔になる。
「二人に幸あれ!」
 冗談めかしてジンジャーエールのグラスを掲げると、リーマンはありがとうと言いながらお冷やのグラスを合わせた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される

アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。 花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。 日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。 だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

わたしの愉快な旦那さん

川上桃園
恋愛
 あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。  あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。 「何かお探しですか」  その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。  店員のお兄さんを前にてんぱった私は。 「旦那さんが欲しいです……」  と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。 「どんな旦那さんをお望みですか」 「え、えっと……愉快な、旦那さん?」  そしてお兄さんは自分を指差した。 「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」  そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

処理中です...