期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

文字の大きさ
47 / 85
第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。

47 蒔いた種が意図せぬ育ち方をしていると気づいた日。

しおりを挟む
 そんなランチタイムを過ごした今日ーー
 午後に入ると、やたらと男性社員に声をかけられる気がするのは気のせいか。
 廊下ですれ違ったり、うちの課に用があって訪ねて来た男性社員が、日頃のやりとりにプラスして一声かけていく。もちろんセクハラみたいなことはないけど、あからさまなので戸惑いが隠しきれない。
 どういうこと?と怪訝な顔の私に、隣のなっちゃんは笑っている。
「サリーちゃんに憧れてる人たくさんいたみたいだから」
「は……?」
 って、何で?
 フツーに仕事して、フツーに過ごしてるだけだったはず。今までもこれからも。何のモテ期?むしろ何かのドッキリ?
 ただただ首を傾げつつ、所用あって総務課に足を運んだ。
「サリーちゃん、今フリーだって噂あっという間に広がっちゃったみたいよ」
 総務課にはメイちゃんがいて、私の用が終わるとこっそり耳打ちしてくれた。私は思わず眉を寄せる。
「うちの会社、人の不幸を喜ぶ社風があったっけ?」
「違うでしょう」
 メイちゃんが笑っている。
「サリーちゃんがフリーなら、アタックすればワンチャンあるかも、って思ってるんじゃない?」
 ワンチャンって。大学生か。
 私は浮かぶ苦笑を禁じ得ない。
「私も、私がサリーちゃんと同期だって知ってる人から合コン頼まれちゃったしーー」
「何それ」
 私はますます苦笑を強める。学生時代ならともかく、社内でそんな状態では、仕事がしにくい。
「いっつも笑顔で挨拶してるから、気になってたらしいよ」
 ーー自分で蒔いた種でしたか。すみません。
 えええ、でも挨拶が大事って育てられたもん。そうでしょ?みんな笑顔で挨拶、するでしょ?
「で、どうかな。人材課の人なんだけどーー」
「あっ」
 メイちゃんの言葉を遮って、私は廊下に走り始めた。
 今通り過ぎたのはーー
「前田」
 仏頂面が振り返る。その横には同期の尾木くんがいた。そのことに気づきちょっと戸惑う。
「何か用?」
 塩対応は相変わらずだ。甘さの欠片も感じられないが、ここで引いては女がすたる。ーーと心中では力みつつも、
「用というか何というか」
 口から出たのは曖昧な言葉で、その上自信なく口元にこもった。気持ちは強気だけど態度が軟弱になってしまうオトメな私。
 前田は面倒くさそーに、大変面倒くさそーに、嘆息した。
「端的にお願い」
 それはきっと私が端的な表現が苦手なのを知ってて言ってる。
 うう、私、ちょっと泣きそう。
 尾木くんが、私と前田を交互に見ながら戸惑っている。
「ええと……俺、いない方がいい感じ?」
「ごめんね、ありがとう」
 と私が言うのと、
「いいんじゃないの、いても」
 前田が言うのが重なった。
 尾木くん、大混乱。あああ、ごめんね、ごめん。
「……やっぱり後日にします」
 わたわたしている尾木くんの姿に、私が諦めたとき、前田がまた深々と息を吐き出した。
「いつも笑顔で愛想のいい、社内外から引く手数多の吉田さんが、俺に個人的な用があるとは思えないけど」
 前田の目が冷たい。感情を押し隠したようなそれを見て、気づく。今までの目の温かさに。前田は呆れた顔でごまかしていたけど、その目はいつも温かかかったんだ、と。
「システム課の先輩からも言われたよ。紹介してってさ。気になる人がいたら、俺でも尾木ちゃんでも、いつでも言って」
「な、何ーー」
 こんなに、散々、人のことを翻弄しておいて。
 紹介する、だと?他の男を?前田が?
 私の中で、何かがぷつりと切れた。
「そんなの、私が何かしたんじゃないのに!どーして私が突き放されなきゃいけないわけ!?」
 言いながら、悔しくて悔しくてーー頬を涙が伝った。
「馬鹿前田!血も涙もない冷徹男!あんたなんか豆腐の角に頭ぶつけて死んじゃえばいい!わからんちん!鈍感!えーと後は……後は……」
 ネタが切れたが気持ちは収まらない。モヤモヤしたままきっと前田を睨みつけた。
「謝ろうと思ったのに!忘れてたこと、謝ろうと思ったのに!研修で言ったこともーーちゃんとリセットしてから、向き合おうと思ったのに!もー知らない!知らないったら知らない!好きにすればいいわ、前田なんか!前田なんかっっ!!」
 散々クヨクヨした分、爆発すると勢いが止まらない。私はそれでもまだ悔しくて、思いっきり口を横に開き、いーっ、と歯を剥き出して走り去った。

 その後で、我ながら言動が幼稚過ぎると底無しに後悔することになったのだが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!

有賀冬馬
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!? 「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。 でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした! 「君がいたから、この国は守られていたんだよ」 えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!? 竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート! そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...