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第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。

46 狸マネージャーによる謎のフラグ。

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 決心した私は、翌日張り切って出勤した。気持ちいい一日は気持ちいい朝から!早起きして朝ごはんを食べて、会社近くのカフェでアイスレモンティーを買って、そしてデスク回りを片付けて、さあ仕事だ。ーーログイン状況見たけど前田まだっぽいからね。仕方ないよね。やっぱりあいつ遅いんだな、昨日はたまたま早かっただけだなきっと。そう思いながら、ばらばらと出勤してくる社員に笑顔で挨拶する。ほらやっぱり挨拶大事だからね。
「吉田さん、なんか今日笑顔が眩しいね」
 出勤してきた佐々マネが不思議そうに首を傾げた。私は笑う。
「何ですか、それ。私はいつもご機嫌ですよ」
「そうかなぁ。……まあ、そうか。なんか最近ちょっと元気なさそうだったから。前田くんと喧嘩してるとき以外」
 前田との喧嘩がカンフル剤?そうだったかもしれないけどあんまりうれしくない。私は苦笑を返した。
「いやー、それはあれですよ。先月彼氏にフラれたからっすよ」
 笑って言うと、周りの人が動揺したのが感じられてびびった。え?みんなさりげなく聞いてたの?うわ恥ずかしー。取り繕うように手を振る。
「あ、でももう吹っ切れてるんで。全然無問題です」
「へぇ……」
 佐々マネはわずかに目をさ迷わせた後、
「えーと、じゃあ、今吉田さんはフリーなんだ」
 何ですかその不思議な確認。
「……そうですけど」
「あ、そっかー、ふぅん。そうなんだぁ」
 佐々マネは言ってデスクにつく。え?何?何なの今の。一体何フラグ?
 私は分からないまま首を傾げた。

 昨日残業しなかった分の仕事を片付けるともう昼休み。
 昨夜はろくなものを食べなかったので、今日の昼はちゃんとしたランチをと心に決めていた私は、財布とスマホ片手に外へと出かけた。
 ランチはちょっと洒落たお店に入った。この店のランチセットにはサラダバーがついていて、パンを選べばお代わり自由。しっかり食べたいときにはよく使う店だが、オフィス街なので昼休みになったらすぐにオフィスを出ないと入れない。
 二人掛けの窓際テーブルに通されてハンバーグセットでジンジャーエールを食前に頼んだ。サラダバーからサラダをよそって席に着くと、ジンジャーエールを口にする。爽やかな甘さの炭酸を口にしていると、外からコンコンと窓をノックされてそちらを見やった。
 いつだかの爽やかリーマンが手を振って、私の向かいの席を指差し、拝むような仕種をした。店内を見回すと満席だ。相席を頼んでいるのだろうと推察して窓の外のリーマンに親指と人差し指で丸を作ると、彼は喜ぶように手を数度合わせた。
 少しすると店内にリーマンが入ってくる。待ち合わせですとか何とか言ってるんだろう。私が手を挙げると向こうも手を挙げて入ってきた。私の前の椅子を引き、苦笑する。
「助かったー。もうどこもいっぱいでさ。最近ジャンクフードばっかりだったから、今日こそと思ってたんだ」
 名前も知らない彼は、近くの会社の人間だと分かっているだけだ。ただ、先日のランチの会話から、ほとんど同世代だと分かったので、互いに少し砕けた口調になる。私は笑う。
「分かる分かる。私も同じ理由でここ来たもの」
「だよね。サラダあるし、白飯選べるし、ハンバーグは肉々しいし」
 同士と分かって顔を見合わせ笑った。リーマンはサラダを取って戻って来る。私は出されたパンを食べ終え、店員さんにお代わりを頼んだところだった。
「お代わり?」
「そう。最初から大盛りとかできないのかなぁ」
 リーマンは楽しげに笑った。
「君、見た目と話したときと、ちょっとイメージ違うよね」
「耳タコです」
 ハンバーグをつつきながら苦笑を返す。
「あ、やっぱりよく言われる?」
「しょっちゅう」
「そっか」
 リーマンは笑いながらサラダをつついた。
「……あのアイスさ」
 とは、コンビニで私がかっさらったアレだろう。
「元カノが好きで、つき合ってやってるうちに俺もはまっちゃったんだけど」
 私は何も言わずランチを口に運ぶ。
「君と二人で食べながら、昔の限定フレーバーの話をしたとき、思い出しちゃってさ」
 二人でランチしたとき、昔のフレバーについて互いに覚えているものの話をしたのだ。美味しかったもの、イマイチだったものーー
 私はふと微笑んだ。その先の展開が読めたからだ。
「図らずも、復縁のキューピッドになっちゃいました?私」
 彼は照れ臭そうに後ろ頭に手をやる。
「いやー、でも五年も経ってるからさ、馬鹿にされるかと思ったんだけど」
「むしろ復縁てそんなもんでしょう、嫌い合って別れたんじゃないなら。タイミングの問題だっただけかも」
 ま、話に聞くだけだけど、と形だけ肩をすくめる。
「おめでとうございます」
「そんな、いい歳こいて復縁でおめでとうなんて」
「だって、すごく嬉しそうだから」
 私の言葉に、リーマンはますます照れ臭そうにした。
 何となくその幸せそうな空気が伝染して、私も自然と笑顔になる。
「二人に幸あれ!」
 冗談めかしてジンジャーエールのグラスを掲げると、リーマンはありがとうと言いながらお冷やのグラスを合わせた。
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