73 / 85
第三章 アラサー女子よ、大志を抱け!
73 意外な形で告げられた大手。
しおりを挟む
ジェラートを食べ終えて店を出た私たちは、弟たちとの集合場所である駅へ向かって歩いていた。
「そういえば、今日の待ち合わせ、早かったね」
前田は時間ぴったりか、一分二分だったら遅刻する電車でやって来るのがいつものパターンだ。私が問うと、前田はああ、と言った。
「本屋に行ってたから」
「本屋?」
「うん。新刊出てた」
私が眉を寄せると、前田がわずかに首を傾げる。
「吉田さんのとこにあったでしょ。漫画」
「あああ。あれ」
そもそもまだ連載しているということすら知らなかった。
「え、あれって私たち高校生くらいのときからある気がするけど、まだ続いてたの?」
「うん、そうかもね。新刊が最終刊だよ」
「ははー」
そうなんだ、と私が言うと、うん、そう。と前田が返してくる。ジェラート屋さんを出るとき自然と繋ぎ合った手はしっかりと互いの指を絡めていたけど、弟との待ち合わせ場所にした駅が近づくにつれて、どちらからともなく手を離した。
「こんにちは、弟の達哉です。姉がお世話になってます」
待ち合わせ場所に先に現れたのは達哉だった。前田の顔を見て、にこやかに会釈する。
「勝哉は?」
「もうちょっとしたら来るって。先に店入っててもいいよって。行く?」
「じゃ行こうか」
弟と私が話していると、前田が不思議そうに首を傾げた。
「少しだけなら待てば」
「あいつのちょっとはいつになるかわからないの」
「そうそう」
前田は、そういうことなら、と私たちに合わせて歩き始めた。
「前田さん、姉とは同期なんですってね。同期って何人くらいいるんですか?」
話し始めた達哉に、前田は答えながら微妙な表情をしている。
「どうしたの?」
私が問うと、
「いや、さすが吉田さんの弟だなって」
「は?」
「コミュニケーション能力が高い」
私は噴き出した。
「自分がコミュ障な自覚あるのね」
前田は拗ねたように唇を尖らせる。
「コミュ障じゃないSEなんてハイスペックすぎる」
確かにそうかもしれないと笑うと、達哉は私たちの顔を目を輝かせて見比べていた。
「やっぱり、彼氏なんじゃん」
嬉しそうに言って、達哉は笑った。私たちが何も言えないでいる内に、達哉は踊り出しそうなくらいひょうきんに笑う。
「なーんだ、ほーらね、やっぱりそうじゃん。あー、よかった。前田さんいい人そうだし、俺らも話合いそうだし、安心したわぁ。母さんも父さんも喜ぶぞー」
私たちの距離感に、関係を察したらしい。まあそれはいいとしても。
いやいやいや、おい。何を言ってるの、君は。
あまりに気の早いことを口走る達哉に、私の顔が段々血の気を失う。
「え、だって人には早く結婚の決意を固めろとか言いながら、自分は日和ってるの?」
「そ、そういうんじゃないけど、私たちはまだーー」
つき合い始めて一ヶ月かそこらで、そんな、重い話できるほど心が強くはない。
前田が引いたらどうしよう。いろんな意味で泣いちゃうかも。
わたわたしながら前田の方を見やると、前田はちょっとご機嫌斜めになっていた。
た、達哉め!
思ってフォローしようと口を開きかけたが、前田はふいっと顔を背ける。
「弟に会うって聞いて、何にも考えずに来る訳ないでしょ」
不満げな声が小さく呟く。
ーーえ?
「吉田さんは、そんないい加減な気持ちだったわけね」
え?え?ええ?
「ま、待って、前田」
「何」
「それってーーそれって」
期待しちゃっていいの。
不機嫌そうに私を見返していた目は、期待に満ちた私の目をとらえて、気まずげに反らされた。
「その話は……また今度」
「えー!えー!聞かせてよー!ねぇねぇ聞かせてよぅ!」
袖を引いたり裾を引いたりしてみたが、前田は振り向きすらしなかった。達哉は大ウケしながら私たちの先頭を歩いていった。
「そういえば、今日の待ち合わせ、早かったね」
前田は時間ぴったりか、一分二分だったら遅刻する電車でやって来るのがいつものパターンだ。私が問うと、前田はああ、と言った。
「本屋に行ってたから」
「本屋?」
「うん。新刊出てた」
私が眉を寄せると、前田がわずかに首を傾げる。
「吉田さんのとこにあったでしょ。漫画」
「あああ。あれ」
そもそもまだ連載しているということすら知らなかった。
「え、あれって私たち高校生くらいのときからある気がするけど、まだ続いてたの?」
「うん、そうかもね。新刊が最終刊だよ」
「ははー」
そうなんだ、と私が言うと、うん、そう。と前田が返してくる。ジェラート屋さんを出るとき自然と繋ぎ合った手はしっかりと互いの指を絡めていたけど、弟との待ち合わせ場所にした駅が近づくにつれて、どちらからともなく手を離した。
「こんにちは、弟の達哉です。姉がお世話になってます」
待ち合わせ場所に先に現れたのは達哉だった。前田の顔を見て、にこやかに会釈する。
「勝哉は?」
「もうちょっとしたら来るって。先に店入っててもいいよって。行く?」
「じゃ行こうか」
弟と私が話していると、前田が不思議そうに首を傾げた。
「少しだけなら待てば」
「あいつのちょっとはいつになるかわからないの」
「そうそう」
前田は、そういうことなら、と私たちに合わせて歩き始めた。
「前田さん、姉とは同期なんですってね。同期って何人くらいいるんですか?」
話し始めた達哉に、前田は答えながら微妙な表情をしている。
「どうしたの?」
私が問うと、
「いや、さすが吉田さんの弟だなって」
「は?」
「コミュニケーション能力が高い」
私は噴き出した。
「自分がコミュ障な自覚あるのね」
前田は拗ねたように唇を尖らせる。
「コミュ障じゃないSEなんてハイスペックすぎる」
確かにそうかもしれないと笑うと、達哉は私たちの顔を目を輝かせて見比べていた。
「やっぱり、彼氏なんじゃん」
嬉しそうに言って、達哉は笑った。私たちが何も言えないでいる内に、達哉は踊り出しそうなくらいひょうきんに笑う。
「なーんだ、ほーらね、やっぱりそうじゃん。あー、よかった。前田さんいい人そうだし、俺らも話合いそうだし、安心したわぁ。母さんも父さんも喜ぶぞー」
私たちの距離感に、関係を察したらしい。まあそれはいいとしても。
いやいやいや、おい。何を言ってるの、君は。
あまりに気の早いことを口走る達哉に、私の顔が段々血の気を失う。
「え、だって人には早く結婚の決意を固めろとか言いながら、自分は日和ってるの?」
「そ、そういうんじゃないけど、私たちはまだーー」
つき合い始めて一ヶ月かそこらで、そんな、重い話できるほど心が強くはない。
前田が引いたらどうしよう。いろんな意味で泣いちゃうかも。
わたわたしながら前田の方を見やると、前田はちょっとご機嫌斜めになっていた。
た、達哉め!
思ってフォローしようと口を開きかけたが、前田はふいっと顔を背ける。
「弟に会うって聞いて、何にも考えずに来る訳ないでしょ」
不満げな声が小さく呟く。
ーーえ?
「吉田さんは、そんないい加減な気持ちだったわけね」
え?え?ええ?
「ま、待って、前田」
「何」
「それってーーそれって」
期待しちゃっていいの。
不機嫌そうに私を見返していた目は、期待に満ちた私の目をとらえて、気まずげに反らされた。
「その話は……また今度」
「えー!えー!聞かせてよー!ねぇねぇ聞かせてよぅ!」
袖を引いたり裾を引いたりしてみたが、前田は振り向きすらしなかった。達哉は大ウケしながら私たちの先頭を歩いていった。
0
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される
アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。
花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。
日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。
だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
幸せのありか
神室さち
恋愛
兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。
決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。
哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。
担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。
とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。
視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。
キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。
ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。
本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。
別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。
直接的な表現はないので全年齢で公開します。
【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。
実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。
それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。
ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。
目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。
すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。
抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……?
傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに
たっぷり愛され甘やかされるお話。
このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。
修正をしながら順次更新していきます。
また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。
もし御覧頂けた際にはご注意ください。
※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。
家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~
チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。
そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。
ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。
なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。
やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。
シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。
彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。
その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。
家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。
そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。
わたしはあなたの側にいます、と。
このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。
*** ***
※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。
※設定などいろいろとご都合主義です。
※小説家になろう様にも掲載しています。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる