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120 結婚披露宴
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結婚式に写真撮影、親族だけでの披露宴を終えた俺たちは、そろそろ着替えをと言う頃になった。
「ねえ、彩乃。してもらいなさいよ」
「え、い、いいよぉ」
彩乃は母の耳打ちに、おどおどしながら俺を見る。
「だって、後悔するわよ。チャンスは一度きりなんだから」
「で、でもそんな……」
俺は苦笑すると、二人に近づいて行った。
「……何か?」
「あ、いや、何でもーー」
「ねえ、政人くん」
戸惑う彩乃に代わり、彩乃の母がきりりと顔を引き締めた。ずいぶん真剣な面持ちに、俺も気を引締める。
何を言われるものかと覚悟したとき、
「お姫様抱っこ、してあげてほしいの」
言われて、俺は言葉を失った。
「……は?」
「や、や、やだお母さんてば!もう、ちょっ……!」
彩乃は顔を真っ赤にして、わたわたと手を振る。
「ち、違うの。いいから。忘れて!」
「だって彩乃。ウェディングドレスでお姫様抱っこして写真撮るの、夢だって言ってたじゃない」
「そ、それ言ってたの学生のときだし!」
「友達の結婚式でも見て羨んでたじゃない」
「そ、それはその、仲睦まじくていいわねってことでーー」
言いながらも彩乃は母と俺の顔を交互に見ている。俺は嘆息した。
「何だそりゃ」
「ほ、ほらやっぱり馬鹿にする!だからーー」
「夢だったんなら、さっさと言えよ」
彩乃が、え、と言うより先に、俺はその膝裏に片手を添え、抱き上げた。
きゃあ、と声が上がったのは、彩乃からではなく周囲の女性陣である。彩乃側の親戚である従姉妹二人は、彩乃よりも年下だ。
「隼人くん!カメラカメラ!」
香子ちゃんが嬉しそうに隼人の腕を叩く。隼人は苦笑しながらカメラを構えたが、妻の熱意がプレッシャーになったのかそのまま妻にそれを渡した。
抱き上げるならどう抱き上げても変わらないような気もするが、女はどうしてこの抱き方にこだわるんだろうなぁーー
思いながら、彩乃の母を始めとするカメラのシャッター音につき合う。その中で彩乃が震えていることに気づき、俺は腕の中にいるーー今妻になったばかりの彩乃の顔に目を落とした。
「ーーどうした?」
彩乃はふるふると首を振る。その仕種にふと、始めて彼女を抱いた日のことを思い出した。
「寒いか?」
ウェディングドレスは肩がむき出しになっているから冷えるかもしれない。そう思ったのだが、また彩乃はふるふると首を振った。
ーーあの日も、そうだった。
思い出して微笑む。彩乃の目が潤んだ。
申し訳程度に添えていた腕を、俺の首にしっかりと回す。
「ーーありがとう」
耳元で囁いた声は、泣きそうに震えていた。
俺は黙って抱き留める。周りがまたきゃあきゃあと騒ぎ立てるのに苦笑を返した。
「愛してる」
歓声に紛れて、一際小さな声が耳元で響く。
「バーカ」
俺も小さな声で返した。
「そういうのは、二人きりになってからにしろ」
彩乃は俺の首からわずかに離れて、ふふ、と笑った。
その唇を、すかさず自分のそれで塞ぐ。
「んっ」
驚きに見開かれた彩乃の目を見て、唇を離した。
「お姫様抱っこのお礼ってことで」
にやりと笑うと、彩乃は真っ赤な顔で睨みつけてくる。
遠くで姉が笑う声が聞こえた。ちらりと見やると、腹を抱えて笑いながら俺の目線に気づき、手を上げる。
お、め、で、と、う。
その口が、そう動いた。
俺は笑って、頷きを返す。
姉の肩を、孝次郎さんが抱いた。姉は栄太郎の肩に手を回す。栄太郎は首を傾げながら、自分の両親を仰ぎ見て、俺たちを見た。
俺の胸を、彩乃が小さく叩いた。見やると、赤面したまま潤んだ目で見上げて来る。
「も、もういいよぉ」
ーーその顔は、ベッドの上だけにしろ。
さすがにその言葉は飲み込んで、俺は彩乃をゆっくりと降ろした。自分の足で地面に立ち、彩乃はほっと息をつく。
「やっぱり、自分の足で立つのが一番だわ」
「だろうな」
俺はあまりに彼女らしい言葉に笑った。彩乃はまた俺を見上げる。
「政人はないの?自分の結婚式でしたいこと」
「俺?」
考えたこともなかった問いに、俺は首を傾げる。
が、微笑みを返して首を振った。
「もう叶ったからいいよ」
「え?あったの?何?何??」
俺は微笑んだまま、指先を口元に当てる。
「内緒」
彩乃はまた赤面した。
「何でそこで照れる」
「だ、だってあんたーーもー。無自覚すぎ。有害。危険人物」
彩乃は唇を尖らせるが、訳が分からない。俺はまあいいかと笑い、彩乃の肩に手を添えた。
「さて。もうご満足?」
「ハイ。ご満足デス」
頷く彩乃に頷き返して、俺たちは着替えに向かった。
その姿を、家族が見守る。
結婚式に夢なんて無かったがーー強いて言えば、家族みんなのこの穏やかな微笑に包まれることだ。
心からの愛を注げる相手を隣にしながら。
隣を歩く彩乃をエスコートしながら、俺はその小柄な姿を見やった。
彩乃は俺を見上げて、また嬉しそうに微笑んだ。
ーー綺麗だよ。
耳元に口を寄せてそう言うと、彩乃はまた顔を真っ赤にして、上目遣いで睨みつけてきた。
全く迫力のない目に、俺はまた笑い声をあげた。
***
不意に書きたくなったイチャイチャ話でした。
考えてみたら結婚式の様子はこっちで公開していないのですけど【物狂ほしや】に載せる訳にも行かないので後日談として投下します。
とにかくオトメな彩乃と、期待に違わない言動をしてくれる政人が書きたくなっただけです(笑)
「ねえ、彩乃。してもらいなさいよ」
「え、い、いいよぉ」
彩乃は母の耳打ちに、おどおどしながら俺を見る。
「だって、後悔するわよ。チャンスは一度きりなんだから」
「で、でもそんな……」
俺は苦笑すると、二人に近づいて行った。
「……何か?」
「あ、いや、何でもーー」
「ねえ、政人くん」
戸惑う彩乃に代わり、彩乃の母がきりりと顔を引き締めた。ずいぶん真剣な面持ちに、俺も気を引締める。
何を言われるものかと覚悟したとき、
「お姫様抱っこ、してあげてほしいの」
言われて、俺は言葉を失った。
「……は?」
「や、や、やだお母さんてば!もう、ちょっ……!」
彩乃は顔を真っ赤にして、わたわたと手を振る。
「ち、違うの。いいから。忘れて!」
「だって彩乃。ウェディングドレスでお姫様抱っこして写真撮るの、夢だって言ってたじゃない」
「そ、それ言ってたの学生のときだし!」
「友達の結婚式でも見て羨んでたじゃない」
「そ、それはその、仲睦まじくていいわねってことでーー」
言いながらも彩乃は母と俺の顔を交互に見ている。俺は嘆息した。
「何だそりゃ」
「ほ、ほらやっぱり馬鹿にする!だからーー」
「夢だったんなら、さっさと言えよ」
彩乃が、え、と言うより先に、俺はその膝裏に片手を添え、抱き上げた。
きゃあ、と声が上がったのは、彩乃からではなく周囲の女性陣である。彩乃側の親戚である従姉妹二人は、彩乃よりも年下だ。
「隼人くん!カメラカメラ!」
香子ちゃんが嬉しそうに隼人の腕を叩く。隼人は苦笑しながらカメラを構えたが、妻の熱意がプレッシャーになったのかそのまま妻にそれを渡した。
抱き上げるならどう抱き上げても変わらないような気もするが、女はどうしてこの抱き方にこだわるんだろうなぁーー
思いながら、彩乃の母を始めとするカメラのシャッター音につき合う。その中で彩乃が震えていることに気づき、俺は腕の中にいるーー今妻になったばかりの彩乃の顔に目を落とした。
「ーーどうした?」
彩乃はふるふると首を振る。その仕種にふと、始めて彼女を抱いた日のことを思い出した。
「寒いか?」
ウェディングドレスは肩がむき出しになっているから冷えるかもしれない。そう思ったのだが、また彩乃はふるふると首を振った。
ーーあの日も、そうだった。
思い出して微笑む。彩乃の目が潤んだ。
申し訳程度に添えていた腕を、俺の首にしっかりと回す。
「ーーありがとう」
耳元で囁いた声は、泣きそうに震えていた。
俺は黙って抱き留める。周りがまたきゃあきゃあと騒ぎ立てるのに苦笑を返した。
「愛してる」
歓声に紛れて、一際小さな声が耳元で響く。
「バーカ」
俺も小さな声で返した。
「そういうのは、二人きりになってからにしろ」
彩乃は俺の首からわずかに離れて、ふふ、と笑った。
その唇を、すかさず自分のそれで塞ぐ。
「んっ」
驚きに見開かれた彩乃の目を見て、唇を離した。
「お姫様抱っこのお礼ってことで」
にやりと笑うと、彩乃は真っ赤な顔で睨みつけてくる。
遠くで姉が笑う声が聞こえた。ちらりと見やると、腹を抱えて笑いながら俺の目線に気づき、手を上げる。
お、め、で、と、う。
その口が、そう動いた。
俺は笑って、頷きを返す。
姉の肩を、孝次郎さんが抱いた。姉は栄太郎の肩に手を回す。栄太郎は首を傾げながら、自分の両親を仰ぎ見て、俺たちを見た。
俺の胸を、彩乃が小さく叩いた。見やると、赤面したまま潤んだ目で見上げて来る。
「も、もういいよぉ」
ーーその顔は、ベッドの上だけにしろ。
さすがにその言葉は飲み込んで、俺は彩乃をゆっくりと降ろした。自分の足で地面に立ち、彩乃はほっと息をつく。
「やっぱり、自分の足で立つのが一番だわ」
「だろうな」
俺はあまりに彼女らしい言葉に笑った。彩乃はまた俺を見上げる。
「政人はないの?自分の結婚式でしたいこと」
「俺?」
考えたこともなかった問いに、俺は首を傾げる。
が、微笑みを返して首を振った。
「もう叶ったからいいよ」
「え?あったの?何?何??」
俺は微笑んだまま、指先を口元に当てる。
「内緒」
彩乃はまた赤面した。
「何でそこで照れる」
「だ、だってあんたーーもー。無自覚すぎ。有害。危険人物」
彩乃は唇を尖らせるが、訳が分からない。俺はまあいいかと笑い、彩乃の肩に手を添えた。
「さて。もうご満足?」
「ハイ。ご満足デス」
頷く彩乃に頷き返して、俺たちは着替えに向かった。
その姿を、家族が見守る。
結婚式に夢なんて無かったがーー強いて言えば、家族みんなのこの穏やかな微笑に包まれることだ。
心からの愛を注げる相手を隣にしながら。
隣を歩く彩乃をエスコートしながら、俺はその小柄な姿を見やった。
彩乃は俺を見上げて、また嬉しそうに微笑んだ。
ーー綺麗だよ。
耳元に口を寄せてそう言うと、彩乃はまた顔を真っ赤にして、上目遣いで睨みつけてきた。
全く迫力のない目に、俺はまた笑い声をあげた。
***
不意に書きたくなったイチャイチャ話でした。
考えてみたら結婚式の様子はこっちで公開していないのですけど【物狂ほしや】に載せる訳にも行かないので後日談として投下します。
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