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6years after2*初夏の夜(『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』公開記念)
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子ども三人を二人がかりで寝かしつけて、気づくと彩乃も眠っていた。子どもたちと並んで眠る無垢な顔を見て、ついつい笑みがこぼれる。
彩乃の髪を撫で、額に唇を寄せると、彩乃が身じろぎした。
「ん……」
「あ、ごめん。いいよ寝てて」
「……起きるもん……」
言いながら眠そうにしている。
「一緒にお茶飲むんだもん……」
俺は笑って頭を撫でた。
「あ、そう。じゃおいで」
「ん……」
やっぱり半分寝ぼけながら、彩乃がもぞもぞと起き出してくる。
へばりつく子どもたちをそろりと剥がして立ち上がると、まさに彩乃がいた空間だけがぽっかりと空いている。
「いつになったら一人で寝てくれるかなぁ」
「さあな。お前はいつ一人部屋になったの?」
「えっ……あっ、高校生」
「マジか」
リビングへ向かいながら笑う。
「じゃあ、中学まではそのつもりでいないとな」
「えええええ」
彩乃は眉をハの字にして見せた。
「ちなみに政人は?」
「俺ぇ? 小学校のときじゃねぇかな」
「早っ」
「だって隼人いたし」
七つ下の弟と母を奪い合う気もなく、そもそも姉の監視下にあってはそんな状況でもなかった。オムツも変えさせられたし、男同士だからとトイレトレーニングにつきあわされもした。そういう経験は幸い、今の子育てに生かされている。
「そっかぁ。一人っ子だとそういうの、ずるずるになっちゃうよねぇ」
自分が大人になって考えてみれば悪いことしたなぁ、と彩乃がぼやく。俺はその横顔を見ながらまた笑った。
「何飲む? ハーブティ?」
「うん。ノンカフェインがいいから」
リビングに彩乃を残し、湯を沸かしにキッチンへと立つ。
お湯を沸かしながらコップや茶葉を準備していると、彩乃がぺたぺたと歩いてきた。
かと思うと、俺の背中にへばりつく。
「どうした?」
こういうとき、無意識に声が優しくなる。口から出た自分の声にときどき驚くほどだ。
「ううん」
彩乃は顔をぐりぐりと俺の背に押し付け、鼻腔から息を吸って吐き出した。
「私、政人と結婚してなかったら、どうなってたのかなってときどき思う」
「突然だな」
お湯が沸いた。俺は笑いながら、コンロの火を止める。
彩乃に火傷をさせないよう、気をつけながらヤカンの湯をポットに注いだ。せっかくなので残ったお湯でコップを温める。
「で、どうなってたと思うんだ?」
「えー」
彩乃は笑う。俺を抱きしめたままなので、その振動が背中から伝わってきた。
「お一人様街道まっしぐらじゃないかなぁ。お一人様道を極める、みたいな」
「有り得るな」
「もしくはーー」
俺は顔だけ後ろを振り返った。彩乃は俺の肩先に額を寄せて楽しげに考えている。
「意外と、阿久津あたりと結婚してたりして。お互い売れ残ったし慰め合うか、みたいな」
俺は思わず目を反らした。
ーーなんという残酷なやつ。
「それ、絶対阿久津に言うなよ」
俺が言うと、彩乃は回していた腕を解いて俺の顔を覗き込んできた。
「何で?」
「何でも」
彩乃はこてんと首を傾げて、不思議そうな面持ちで俺を見てきた。
俺はその目を見返すこともできず、砂時計をひっくり返して、落ちる砂を眺める。
彩乃は説明を求めるのを諦め、俺の腕に腕を絡めた。
俺はその手を握る。彩乃がふと微笑んだ。
「阿久津もさ」
俺の腕に頬を寄せ、砂時計を見ながら彩乃が囁く。
「幸せになるといいよね」
俺はちらりとその横顔を見やった。
「まあ、そうだな」
互いのてのひらの温もりを感じながら、砂時計を見ていた。
その夏、阿久津に災難じみた出会いが訪れることなど、このときの俺たちは知る由もない。
* * *
お読みいただきありがとうございました!
ということで、ようやく阿久津のターンが回ってきました。
あまりの噛ませ犬っぷりに同情してくださった方(いるのか?)、お楽しみいただければ幸いです。
彩乃の髪を撫で、額に唇を寄せると、彩乃が身じろぎした。
「ん……」
「あ、ごめん。いいよ寝てて」
「……起きるもん……」
言いながら眠そうにしている。
「一緒にお茶飲むんだもん……」
俺は笑って頭を撫でた。
「あ、そう。じゃおいで」
「ん……」
やっぱり半分寝ぼけながら、彩乃がもぞもぞと起き出してくる。
へばりつく子どもたちをそろりと剥がして立ち上がると、まさに彩乃がいた空間だけがぽっかりと空いている。
「いつになったら一人で寝てくれるかなぁ」
「さあな。お前はいつ一人部屋になったの?」
「えっ……あっ、高校生」
「マジか」
リビングへ向かいながら笑う。
「じゃあ、中学まではそのつもりでいないとな」
「えええええ」
彩乃は眉をハの字にして見せた。
「ちなみに政人は?」
「俺ぇ? 小学校のときじゃねぇかな」
「早っ」
「だって隼人いたし」
七つ下の弟と母を奪い合う気もなく、そもそも姉の監視下にあってはそんな状況でもなかった。オムツも変えさせられたし、男同士だからとトイレトレーニングにつきあわされもした。そういう経験は幸い、今の子育てに生かされている。
「そっかぁ。一人っ子だとそういうの、ずるずるになっちゃうよねぇ」
自分が大人になって考えてみれば悪いことしたなぁ、と彩乃がぼやく。俺はその横顔を見ながらまた笑った。
「何飲む? ハーブティ?」
「うん。ノンカフェインがいいから」
リビングに彩乃を残し、湯を沸かしにキッチンへと立つ。
お湯を沸かしながらコップや茶葉を準備していると、彩乃がぺたぺたと歩いてきた。
かと思うと、俺の背中にへばりつく。
「どうした?」
こういうとき、無意識に声が優しくなる。口から出た自分の声にときどき驚くほどだ。
「ううん」
彩乃は顔をぐりぐりと俺の背に押し付け、鼻腔から息を吸って吐き出した。
「私、政人と結婚してなかったら、どうなってたのかなってときどき思う」
「突然だな」
お湯が沸いた。俺は笑いながら、コンロの火を止める。
彩乃に火傷をさせないよう、気をつけながらヤカンの湯をポットに注いだ。せっかくなので残ったお湯でコップを温める。
「で、どうなってたと思うんだ?」
「えー」
彩乃は笑う。俺を抱きしめたままなので、その振動が背中から伝わってきた。
「お一人様街道まっしぐらじゃないかなぁ。お一人様道を極める、みたいな」
「有り得るな」
「もしくはーー」
俺は顔だけ後ろを振り返った。彩乃は俺の肩先に額を寄せて楽しげに考えている。
「意外と、阿久津あたりと結婚してたりして。お互い売れ残ったし慰め合うか、みたいな」
俺は思わず目を反らした。
ーーなんという残酷なやつ。
「それ、絶対阿久津に言うなよ」
俺が言うと、彩乃は回していた腕を解いて俺の顔を覗き込んできた。
「何で?」
「何でも」
彩乃はこてんと首を傾げて、不思議そうな面持ちで俺を見てきた。
俺はその目を見返すこともできず、砂時計をひっくり返して、落ちる砂を眺める。
彩乃は説明を求めるのを諦め、俺の腕に腕を絡めた。
俺はその手を握る。彩乃がふと微笑んだ。
「阿久津もさ」
俺の腕に頬を寄せ、砂時計を見ながら彩乃が囁く。
「幸せになるといいよね」
俺はちらりとその横顔を見やった。
「まあ、そうだな」
互いのてのひらの温もりを感じながら、砂時計を見ていた。
その夏、阿久津に災難じみた出会いが訪れることなど、このときの俺たちは知る由もない。
* * *
お読みいただきありがとうございました!
ということで、ようやく阿久津のターンが回ってきました。
あまりの噛ませ犬っぷりに同情してくださった方(いるのか?)、お楽しみいただければ幸いです。
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こんばんは(^○^)1回読んでるのにマーシーもう1回逢いたくて(笑)2度目です♪
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ありがとうございました(^ω^)
ぴろりん様
再読ありがとうございます!
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P.S 天使の卵も天使の梯子も大好きな作品です。その作品を好きな方の作品だからこんなに惹かれるんだな…と思ってしまいました☆
かほりーぬ様
コメントありがとうございます!
こちらこそ、日参くださりありがとうございます。
二人(四人?)を暖かく見守ってくださっているのが伺える感想、とても嬉しく思いました。
そうですね…多分彩乃よりは香子の方がしっかりしていると思いますが、その分隼人が抜けてます…(笑)
本作もそろそろ終盤となって参りました。最後まで楽しんでいただければ幸いです。
また、ブログの方も引き続きご覧くださっているのでしょうか、好きな作品が同じで嬉しいです!
プロ作家さんにはなかなか及びませんが、これからも楽しく書いていきたいと思っています。
引き続きお付き合いいただけると幸いです。
かほりーぬ様もどうぞお身体に気をつけてお過ごしくださいませ!
励みになるコメントありがとうございました!
コメント初めてです。
毎日更新楽しみにしてます!
私ももしかして彩乃さんとダメになってしまうのーーー?!っとかなりドキドキハラハラしてたので安心しました!ありがとうございます😊
よしこ様
感想ありがとうございます!
なんと、すっかり思考が政人になっている作者は、読者様を多数不安がらせているとは思いも寄りませんでした…(笑)
でもご安心いただけたようでよかったです。
懐かれると足蹴にできない政人くんですが、最後まで温かく見守っていただけると嬉しいです(^_^)