78 / 126
第二章 はなれる
78 練習試合の副産物
しおりを挟む
「私も行きたかったなぁ、本社」
本社のプレゼンは課長である上家さんと、経緯の分かる阿久津、そして組合と直接やりとりをしている俺の三人で出かけることになっていた。
プレゼンを再来週に控え、準備を進める中で同じ台詞をぼやく江原さんに、阿久津は呆れた視線を投げた。
「アキ、しつこい」
「へーい」
阿久津に江原さんも投げやりに答える。俺は苦笑した。
「江原さんも経験できるとよかったけど、予算的にね。残念だな」
「自費でもいいんですけど」
「何でそこまで」
「そりゃ財務部の」
「江原、黙れ」
俺の制止に、江原さんはニヤニヤしながら形だけ肩を竦めた。すっかりいじられるようになってからは、俺も遠慮がなくなりつつある。
「だってぇ、知らせてあげないと。中学生引っかけちゃってますよぉ、って」
その言葉に、ふと練習試合を思い出した。
「あのさ。気づいてたんだろ」
「何に?」
「ヒカルが女だって」
江原さんはぶはっと噴き出した。
「あ、よーやく気づいたんですか?よかったぁ、結構ヒント出してたんですけど、なかなか気づかないから。神崎さんって結構思い込み激しいタイプ?」
「そんなこたぁいいから。分かってたんならはやく言えよ。また変なことに巻き込まれーー」
た、と言うべきか、そうになった、と言うべきか迷う。が、その前に、不純な期待に満ちた江原さんの目に気づいて黙った。
「え、なになに、何があったんですかぁ?」
ニヤニヤしながら身体を擦り寄せてくる。マジこいつ悪魔。人の不幸がご馳走みたいな顔しやがって。
「何でもねぇよ」
「えー、本当ですかぁ。隠さなくっていいんですよ、私と神崎さんの仲じゃないですかぁ」
「阿久津、笑ってないで止めろ」
「いや、仲良きことは美しきかな」
「どう見たって俺が一方的に遊ばれてんじゃねぇか」
「遊ばれるネタを次々提供するお前が悪い」
三人でのミーティングも結局最後はグダグダだ。今日も一日がんばろーと勝手に締めて立ち上がると、江原さんも笑いながら立ち上がった。
「でもとりあえず、どうしようもなくなる前に気づいてよかったですね」
「何だよそのどうしようもない状態って」
「さあ。少しは自分でも考えてください」
江原さんの言葉に嘆息して、デスクに戻った。
その日も午後から組合へ話をしに行く予定があり、阿久津と出かけた。話を終えて帰ろうとした俺を、山口会長の妻、花子さんが引き止める。
「あの。土曜日の練習試合、来て下さったとかで」
俺は相づちを打ちながら隣にいる阿久津の表情を伺ったが、特段表情を変えずにいる。
「ありがとうございました。神崎さんのおかげで友達と話すきっかけになったとかで」
花子さんは言いにくそうに目を泳がせ、眉尻を下げたまま続けた。
「それで……あの、友達も一緒に、外のゴールを使って練習したいと言い始めたようで」
「ああ、よかったですね」
俺は心からそう言ったが、隣で阿久津が噴き出した。花子さんは苦笑しながら、
「神崎さんも、ということですよ」
「え?俺?」
思わずプライベートな自称が口をついて出た。花子さんと阿久津の笑い声を聞きながら、俺は苦笑を浮かべるしかなかった。
本社のプレゼンは課長である上家さんと、経緯の分かる阿久津、そして組合と直接やりとりをしている俺の三人で出かけることになっていた。
プレゼンを再来週に控え、準備を進める中で同じ台詞をぼやく江原さんに、阿久津は呆れた視線を投げた。
「アキ、しつこい」
「へーい」
阿久津に江原さんも投げやりに答える。俺は苦笑した。
「江原さんも経験できるとよかったけど、予算的にね。残念だな」
「自費でもいいんですけど」
「何でそこまで」
「そりゃ財務部の」
「江原、黙れ」
俺の制止に、江原さんはニヤニヤしながら形だけ肩を竦めた。すっかりいじられるようになってからは、俺も遠慮がなくなりつつある。
「だってぇ、知らせてあげないと。中学生引っかけちゃってますよぉ、って」
その言葉に、ふと練習試合を思い出した。
「あのさ。気づいてたんだろ」
「何に?」
「ヒカルが女だって」
江原さんはぶはっと噴き出した。
「あ、よーやく気づいたんですか?よかったぁ、結構ヒント出してたんですけど、なかなか気づかないから。神崎さんって結構思い込み激しいタイプ?」
「そんなこたぁいいから。分かってたんならはやく言えよ。また変なことに巻き込まれーー」
た、と言うべきか、そうになった、と言うべきか迷う。が、その前に、不純な期待に満ちた江原さんの目に気づいて黙った。
「え、なになに、何があったんですかぁ?」
ニヤニヤしながら身体を擦り寄せてくる。マジこいつ悪魔。人の不幸がご馳走みたいな顔しやがって。
「何でもねぇよ」
「えー、本当ですかぁ。隠さなくっていいんですよ、私と神崎さんの仲じゃないですかぁ」
「阿久津、笑ってないで止めろ」
「いや、仲良きことは美しきかな」
「どう見たって俺が一方的に遊ばれてんじゃねぇか」
「遊ばれるネタを次々提供するお前が悪い」
三人でのミーティングも結局最後はグダグダだ。今日も一日がんばろーと勝手に締めて立ち上がると、江原さんも笑いながら立ち上がった。
「でもとりあえず、どうしようもなくなる前に気づいてよかったですね」
「何だよそのどうしようもない状態って」
「さあ。少しは自分でも考えてください」
江原さんの言葉に嘆息して、デスクに戻った。
その日も午後から組合へ話をしに行く予定があり、阿久津と出かけた。話を終えて帰ろうとした俺を、山口会長の妻、花子さんが引き止める。
「あの。土曜日の練習試合、来て下さったとかで」
俺は相づちを打ちながら隣にいる阿久津の表情を伺ったが、特段表情を変えずにいる。
「ありがとうございました。神崎さんのおかげで友達と話すきっかけになったとかで」
花子さんは言いにくそうに目を泳がせ、眉尻を下げたまま続けた。
「それで……あの、友達も一緒に、外のゴールを使って練習したいと言い始めたようで」
「ああ、よかったですね」
俺は心からそう言ったが、隣で阿久津が噴き出した。花子さんは苦笑しながら、
「神崎さんも、ということですよ」
「え?俺?」
思わずプライベートな自称が口をついて出た。花子さんと阿久津の笑い声を聞きながら、俺は苦笑を浮かべるしかなかった。
2
あなたにおすすめの小説
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる