モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

文字の大きさ
113 / 126
第三章 きみのとなり

113 彩乃の両親

しおりを挟む
 翌週、指輪を決めるまでに、双方が親に報告しておくことに決めて迎えた週明けの朝。
【アーヤがひどい顔】
 名取さんから端的な社内メッセージが届いた。端的すぎて思わず笑ってしまう。
【夕飯、うち来る?】
 橘に送ると、行く、と簡単な答えがあった。

 橘の顔は夕方になっても若干むくんでいた。目元がひどいから今日は眼鏡で通したとむくれている。
「なに、親御さんになんか言われた?」
 俺が作った夕飯を食べ、人心地ついた後、苦笑しながら問うと、橘は気まずそうに頷いた。
「元カレと比較されたとか」
「うん……まあ、そんなとこ」
 学歴、年収、地位。それら全てが娘より劣っている男。
 娘本人が気にしなくても、娘を育てた親にとっては大問題。それも分かる気がする。大事に育てた一人娘なのだから。
「さっさと結婚しろとか言いながら、いざ娘がその気になった人には会おうともしないだなんて」
 憤慨する橘を宥めようと苦笑する。
「まあ、大事な娘だからだろ」
 橘は、でも、と首を振った。
「会えば絶対分かるのに。神崎がどれくらいーー私なんかにはもったいないくらい素敵な人だって、分かるのに」
 後半はほとんど涙声になっている。目も潤んで今にも涙が落ちそうだった。
「親の言うことなんか知らない。自分の伴侶くらい、自分で決めさせてもらうわ」
 激して言う橘の頭を撫でる。俺の不足した面が彼女の強がりを引き出してしまったことに、胸が痛んだ。
「お前の気持ちは嬉しいけど。急なことだからご両親も驚いてるんだろ。心の準備ができるまで待つから。親子の仲、そんな簡単に切り裂く必要ねぇだろ」
「やだ。私は待てない」
 俺のフォローにも、橘は子供のようにかぶりを振る。
「ちゃんとーーはやく、私のものにしたいの」
 言った途端、涙の堤防が決壊した。しがみついてくる橘を抱き留めながら、俺は嘆息する。
「ごめんね」
 腕の中で、橘が言った。
「傷つけたよね。ごめん」
 俺は苦笑して、橘の頭を撫でた。
「本当のことだから」
 フォローのつもりで言ったが、その意味を成していないと気づく。
「えーと」
 何か気の利いたことをと、頭を回転させる。
「橘よりも昇進して見せます、って言うとか」
 泣きじゃくっていた橘が、ぴたりと動きを止めた。
「橘よりもいい年収もらえる会社に転職するとか」
 橘の震えが先ほどと違うものに変わった。それが分かってほっとする。
「そんなの、神崎のキャラじゃない」
 困ったような顔で笑う橘は、顔を上げて俺を見た。笑いで震えるその肩を撫でながら微笑む。
「だって、学歴はどうしようもないだろ。あ、じゃあ俺がT大に入り直す」
「なにそれ」
 橘はケラケラ笑った。ひとしきり笑うと、改めて俺に抱き着いてくる。
「ありがとう」
「何が?」
「いろいろ」
 とりあえずはそれで落ち着いたらしい。橘は俺の胸から顔を離すと、表情を引き締めて、よーし、と気合いを入れた。
「私だって、言われっぱなしで黙ってる女じゃないですからね」
 ふんと胸を張って言う。
 俺は笑った。
「よかった」
「何が?」
「お前が単純で」
 橘は無言で俺の頬をつねった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

君に恋していいですか?

櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。 仕事の出来すぎる女。 大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。 女としての自信、全くなし。 過去の社内恋愛の苦い経験から、 もう二度と恋愛はしないと決めている。 そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。 志信に惹かれて行く気持ちを否定して 『同期以上の事は期待しないで』と 志信を突き放す薫の前に、 かつての恋人・浩樹が現れて……。 こんな社内恋愛は、アリですか?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...