2 / 106
第一部
常連さんいらっしゃい
しおりを挟む
「先生、今からいけるか?」
「いけるも何も……今までも今もそしてこれからも大丈夫です」
軟禁してやがるくせに何をほざいてやがる。
組長が最近毎日やって来る。おかげさまでこの男以外の患者は来ないのでいつでもウェルカムな状況だ。嫌味のように言う組長にも随分と慣れた。
「今日は首も頼む」
慣れた様子で上半身を脱ぐとベッドへとうつ伏せになる。組長の首に触れると随分と固い。聞くと以前むち打ちをした事があるようだ。
「もう随分と昔に車に追われて中央分離帯で弾かれちまってな……。その後の報復が──」
「アーソウナンデスネ」
幸は棒読みで相槌を打つ。さりげなく過去の犯罪を暴露している。明らかに法をいくつも破りまくっているが本人はなんとも思っていないようだ。
背中の青龍に触れて、筋肉の硬い部分を指で探る。強く押さえるより撫でるように触れるとより分かる。
「この青龍に触れたやつはお前だけだ……」
「テメェの女みたいな言い方やめてくださいます?」
最初こそビクついたが毎日のように強面とばかり接していると感覚が麻痺してくる。毎日適当に町田さんが食材を買ってきてくれているので意外に通販で注文しているような気持ちになった。スキンヘッドの町田も見た目と違い随分と家庭的で特売の品があるとわざわざ頼んでいないのに買ってきてくれていたりする。まずい、居心地が良くなってきた……。
さすがに毎日鍼治療をしているので随分と腰の筋肉が柔らかくなってきた。股関節や太腿にも鍼をしていかねば……。
「んー、下も脱いでください」
「それはいいが、昼間から大丈夫か? 俺は歩く凶器──」
「うだうだ言わずに脱げ、色ボケ」
組長は色ボケと言われて楽しそうに笑っている。どこがツボったか分からないが見て見ぬふりをして鍼の準備をする。下着に手をかけてお尻から股関節にかけてしっかり深めに刺すと少し曇った声がする。さすがに慣れていたとはいえキツかったかもしれない。
「大丈夫……ですか?」
「クッ……最後のやつが奥で響いてるな……抜いてくれ──あぁ……それじゃない一本前のやつだ」
「キツイかも、ですね」
まだ早かったかもしれない。だけど股関節を緩めたほうがきっと腰が楽になるだろう。
「前のやつを角度変えて奥に入れましょう」
「あぁ、頼む」
幸が新しい鍼を追加しようとカーテンを開くと、待受のソファーで仲良く並んで座っていた町田とキツネがこちらを見てギョッとした表情になる。キツネは幸を見るなり真っ赤な顔をより真っ赤にしている。町田は慌てて手元にあった新聞を見るが上下逆のまま「だから日本はダメなんだよなぁ」と言っている。何を一体慌てているのだろうか。
「ちょっと待っててくださいね、もう終わりますから」
幸がふわりと笑うと二人は「お構いなく……」と言うが顔が引きつっている。幸は気にもとめずカーテンの中に戻っていった。
「最後のが効いたな、また頼む」
その後の股関節の硬さがとれすっきりとした歩みで組長は帰っていった。
「組長の体が開発されたことは──」
「言わないです! 言われへんに決まってるでしょ!」
聞こえぬよう小声でコソコソと話す舎弟たちの勘違いを当の二人は知る由もない──。
「いけるも何も……今までも今もそしてこれからも大丈夫です」
軟禁してやがるくせに何をほざいてやがる。
組長が最近毎日やって来る。おかげさまでこの男以外の患者は来ないのでいつでもウェルカムな状況だ。嫌味のように言う組長にも随分と慣れた。
「今日は首も頼む」
慣れた様子で上半身を脱ぐとベッドへとうつ伏せになる。組長の首に触れると随分と固い。聞くと以前むち打ちをした事があるようだ。
「もう随分と昔に車に追われて中央分離帯で弾かれちまってな……。その後の報復が──」
「アーソウナンデスネ」
幸は棒読みで相槌を打つ。さりげなく過去の犯罪を暴露している。明らかに法をいくつも破りまくっているが本人はなんとも思っていないようだ。
背中の青龍に触れて、筋肉の硬い部分を指で探る。強く押さえるより撫でるように触れるとより分かる。
「この青龍に触れたやつはお前だけだ……」
「テメェの女みたいな言い方やめてくださいます?」
最初こそビクついたが毎日のように強面とばかり接していると感覚が麻痺してくる。毎日適当に町田さんが食材を買ってきてくれているので意外に通販で注文しているような気持ちになった。スキンヘッドの町田も見た目と違い随分と家庭的で特売の品があるとわざわざ頼んでいないのに買ってきてくれていたりする。まずい、居心地が良くなってきた……。
さすがに毎日鍼治療をしているので随分と腰の筋肉が柔らかくなってきた。股関節や太腿にも鍼をしていかねば……。
「んー、下も脱いでください」
「それはいいが、昼間から大丈夫か? 俺は歩く凶器──」
「うだうだ言わずに脱げ、色ボケ」
組長は色ボケと言われて楽しそうに笑っている。どこがツボったか分からないが見て見ぬふりをして鍼の準備をする。下着に手をかけてお尻から股関節にかけてしっかり深めに刺すと少し曇った声がする。さすがに慣れていたとはいえキツかったかもしれない。
「大丈夫……ですか?」
「クッ……最後のやつが奥で響いてるな……抜いてくれ──あぁ……それじゃない一本前のやつだ」
「キツイかも、ですね」
まだ早かったかもしれない。だけど股関節を緩めたほうがきっと腰が楽になるだろう。
「前のやつを角度変えて奥に入れましょう」
「あぁ、頼む」
幸が新しい鍼を追加しようとカーテンを開くと、待受のソファーで仲良く並んで座っていた町田とキツネがこちらを見てギョッとした表情になる。キツネは幸を見るなり真っ赤な顔をより真っ赤にしている。町田は慌てて手元にあった新聞を見るが上下逆のまま「だから日本はダメなんだよなぁ」と言っている。何を一体慌てているのだろうか。
「ちょっと待っててくださいね、もう終わりますから」
幸がふわりと笑うと二人は「お構いなく……」と言うが顔が引きつっている。幸は気にもとめずカーテンの中に戻っていった。
「最後のが効いたな、また頼む」
その後の股関節の硬さがとれすっきりとした歩みで組長は帰っていった。
「組長の体が開発されたことは──」
「言わないです! 言われへんに決まってるでしょ!」
聞こえぬよう小声でコソコソと話す舎弟たちの勘違いを当の二人は知る由もない──。
24
あなたにおすすめの小説
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
お客様はヤの付くご職業・裏
古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。
もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。
今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。
分岐は
若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺)
美香による救出が失敗した場合
ヒーロー?はただのヤンデレ。
作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる