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第一部
先生の行方
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病室の一室で光田が頭に包帯を巻きベッドの上で静かに眠っている。腕には点滴の管が刺さったままだ。
あれから通行人の通報で光田は救急車で搬送され、携帯電話の通話記録から町田へと連絡があった。
ベッドのそばでパイプ椅子に町田が座り心配そうな顔をしている。光田の頭には二発鈍器のようなもので殴られた形跡があったそうだ。念の為脳のMRIを取ることになった。
窓際には組長が窓の外を見ているがブラインドが降りているので実際には何も見えていないだろう。ただ、座って待つのが辛いのだと町田には分かっていた。
光田の容体もそうだが、一番は拉致された先生のことで頭がいっぱいだろう。
病室のドアが開かれると慌てた様子の剛と心が現れた。剛は光田の様子に息を飲むとそのまま組長へと駆け寄った。
「どういうことだ! 何があった?!」
剛はそのまま組長の肩に触れるがすぐに組長の様子がおかしいことに気がつく。
怒り狂うを通り越し目が死んでいる……組長の焦点が剛に定まると剛は背筋が凍った。
な、なんだ……こんな司見たことねぇよ──。
「剛さん、落ち着いてください……」
町田は固まる剛の腕を引きパイプ椅子へと座らせた。心は病室の入り口に佇んだまま動こうとしない。視線は光田を捉えたまま動かない。
「光田、様──」
心がベッドに近づくと光田に抱きつく。声を震わせて泣いている。
「……いけませんわ、まだ◯◯プレイも、△△責めだってしていません……そもそもまだ光田様自身を頂いていません! まだ開発途中の段階を楽しんでいたのに、まだ未熟な段階なのに……そんなの、そんなのあんまりですわ!!」
「え? ってかまだヤッてなかったの?」
心のダダ漏れの欲望に兄の剛が唖然としている。
町田は演歌歌手のような遠い目をしながらその可憐な少女を見つめている。
「うるさ、い……勝手に殺さんといてくれ」
光田が目を覚ました。
心の欲望にまみれた独白をキッカケに起きるなんて最悪の目覚めであることに違いはない。光田が目を覚ました途端に窓の外を見ていた組長が光田に詰め寄る。
「何があった……先生はどうした……お前は、どこのどいつにやられた……?」
低く冷たい声だ。
光田は一気に顔色が悪くなる。
「すみません、組長……俺のせいで先生が──」
「お前のせいじゃない。もしかしてあいつらの仕業か?」
組長がギリっと奥歯を噛みしめる。
「車のナンバーを見ました。それで分かるはずです」
「調べて連絡しろ……俺は黒嶺会に向かう。もう時間がない──」
先生が泣いている気がした。
まさかとは思うが先生を輪姦──
そこまで想像して一気に血の気が引いた。組長は怒気を全身に放ち病室を出て行く。
組長の後を追おうと光田が立ち上がろうとするのを心が引き止める。慌てて点滴を引き抜こうとするのを手で止める。
「いけませんわ! こんな体で無茶ですわ!」
傍にいた町田は光田の肩を掴むとそのまま寝させる。町田の目は真剣だった。
「寝とけ、こんな体では無理だ……やるべきことをしろ」
町田は組長の後を追った。光田は台に置かれた携帯電話に手を伸ばすと情報屋に連絡をした。
光田が悔しそうに電話で話す姿を心と剛は腕を組み仁王立ちして見ていた。
こうしてみると二人が兄妹であることが分かる気がする。
「お兄さま……どこのどいつですの? 私のものを傷つけたバカは」
「黒嶺会だろう、最近衝突したらしいからな。くそ……先生がマズイ……。どこにいる……あの人に何かあったら……俺は、俺は──」
剛は頭をガシガシと搔くと怒りでゴミ箱を蹴り上げた。
「お兄、さま──」
心はこの時初めて剛の気持ちを知った。
「分かりましたわ……」
心は携帯電話を取り出すと誰かに電話をかける。
「ご無沙汰しております……申し訳ないのですがお力を貸していただけます? えぇ、もちろんですわ」
電話を切ると心は妖しく微笑んだ。
剛は心がこんな表情をしている時はとんでもないスイッチが入ったことを経験上知っている。
「お兄さま、ケモノ狩りに行きませんか?」
心の満面の笑みに剛は笑い出した。
「さすが妹だな、俺も好きだ、ソレ」
光田が電話を切ると剛に車の情報を伝える。
「黒嶺会で間違いないです。少し離れた〇〇病院っていう廃墟に以前停まっているのを見たやつがいたみたいです」
「お前はすぐに司に伝えろ。俺たちはちょっと用事ができたからもう行く、じっとしてろよ!」
「ちょ、ちょっと!……んぐ──」
心は光田にキスをして離れる時に名残惜しそうな顔をした。
「すみません、ちょっと急ぐので続きはまた今度──」
「いや、遠慮しとくわ」
光田の声は聞こえなかったようだ。
あれから通行人の通報で光田は救急車で搬送され、携帯電話の通話記録から町田へと連絡があった。
ベッドのそばでパイプ椅子に町田が座り心配そうな顔をしている。光田の頭には二発鈍器のようなもので殴られた形跡があったそうだ。念の為脳のMRIを取ることになった。
窓際には組長が窓の外を見ているがブラインドが降りているので実際には何も見えていないだろう。ただ、座って待つのが辛いのだと町田には分かっていた。
光田の容体もそうだが、一番は拉致された先生のことで頭がいっぱいだろう。
病室のドアが開かれると慌てた様子の剛と心が現れた。剛は光田の様子に息を飲むとそのまま組長へと駆け寄った。
「どういうことだ! 何があった?!」
剛はそのまま組長の肩に触れるがすぐに組長の様子がおかしいことに気がつく。
怒り狂うを通り越し目が死んでいる……組長の焦点が剛に定まると剛は背筋が凍った。
な、なんだ……こんな司見たことねぇよ──。
「剛さん、落ち着いてください……」
町田は固まる剛の腕を引きパイプ椅子へと座らせた。心は病室の入り口に佇んだまま動こうとしない。視線は光田を捉えたまま動かない。
「光田、様──」
心がベッドに近づくと光田に抱きつく。声を震わせて泣いている。
「……いけませんわ、まだ◯◯プレイも、△△責めだってしていません……そもそもまだ光田様自身を頂いていません! まだ開発途中の段階を楽しんでいたのに、まだ未熟な段階なのに……そんなの、そんなのあんまりですわ!!」
「え? ってかまだヤッてなかったの?」
心のダダ漏れの欲望に兄の剛が唖然としている。
町田は演歌歌手のような遠い目をしながらその可憐な少女を見つめている。
「うるさ、い……勝手に殺さんといてくれ」
光田が目を覚ました。
心の欲望にまみれた独白をキッカケに起きるなんて最悪の目覚めであることに違いはない。光田が目を覚ました途端に窓の外を見ていた組長が光田に詰め寄る。
「何があった……先生はどうした……お前は、どこのどいつにやられた……?」
低く冷たい声だ。
光田は一気に顔色が悪くなる。
「すみません、組長……俺のせいで先生が──」
「お前のせいじゃない。もしかしてあいつらの仕業か?」
組長がギリっと奥歯を噛みしめる。
「車のナンバーを見ました。それで分かるはずです」
「調べて連絡しろ……俺は黒嶺会に向かう。もう時間がない──」
先生が泣いている気がした。
まさかとは思うが先生を輪姦──
そこまで想像して一気に血の気が引いた。組長は怒気を全身に放ち病室を出て行く。
組長の後を追おうと光田が立ち上がろうとするのを心が引き止める。慌てて点滴を引き抜こうとするのを手で止める。
「いけませんわ! こんな体で無茶ですわ!」
傍にいた町田は光田の肩を掴むとそのまま寝させる。町田の目は真剣だった。
「寝とけ、こんな体では無理だ……やるべきことをしろ」
町田は組長の後を追った。光田は台に置かれた携帯電話に手を伸ばすと情報屋に連絡をした。
光田が悔しそうに電話で話す姿を心と剛は腕を組み仁王立ちして見ていた。
こうしてみると二人が兄妹であることが分かる気がする。
「お兄さま……どこのどいつですの? 私のものを傷つけたバカは」
「黒嶺会だろう、最近衝突したらしいからな。くそ……先生がマズイ……。どこにいる……あの人に何かあったら……俺は、俺は──」
剛は頭をガシガシと搔くと怒りでゴミ箱を蹴り上げた。
「お兄、さま──」
心はこの時初めて剛の気持ちを知った。
「分かりましたわ……」
心は携帯電話を取り出すと誰かに電話をかける。
「ご無沙汰しております……申し訳ないのですがお力を貸していただけます? えぇ、もちろんですわ」
電話を切ると心は妖しく微笑んだ。
剛は心がこんな表情をしている時はとんでもないスイッチが入ったことを経験上知っている。
「お兄さま、ケモノ狩りに行きませんか?」
心の満面の笑みに剛は笑い出した。
「さすが妹だな、俺も好きだ、ソレ」
光田が電話を切ると剛に車の情報を伝える。
「黒嶺会で間違いないです。少し離れた〇〇病院っていう廃墟に以前停まっているのを見たやつがいたみたいです」
「お前はすぐに司に伝えろ。俺たちはちょっと用事ができたからもう行く、じっとしてろよ!」
「ちょ、ちょっと!……んぐ──」
心は光田にキスをして離れる時に名残惜しそうな顔をした。
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光田の声は聞こえなかったようだ。
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