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第一部
寝違えた獣
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「痛ぇ」
「これは?」
「無理だ」
「これ──」
「引っこ抜く気か」
ベッドに腰掛けたまま組長が苦悶の表情を浮かべている。
どうやら組長は【寝違い】をしたようだ。
朝起きると首が痛かったらしい。
このままではうつ伏せに寝ることも厳しいだろう。
待合室には町田さんがいるがまたもや頭が宇宙人になっている。少し鼻が赤く見えるのは鼻をすすっているからだろう。
仕事をサボる口実でよく組長は「首が痛え、回らねぇ」と言うらしく、いつもの冗談かと思い「あれ? 先生だ」と窓の外を指差した瞬間騙された組長が首を動かしてしまいとどめを刺す形になったようだ。
いや、なんでそこで引っかかる?分かるじゃん、軟禁してんのあんたでしょ……とは言えなかった。
そのあと特別な組長の可愛がりを受け町田は久々に青黒いネジのような痕が頭の周りを取り囲んでいる。久々に見る人造人間に幸は乾いた笑いしか出来ない。
「とりあえず、袖をめくりましょう」
「あ? なんで袖? 首だろ?」
「ちょっと必要なんです、いいから」
幸は腕に鍼を刺し始める。ズンと奥に響き手にだるい刺激が来る。
「来ました? じゃあ、ゆっくりと真横に動かして……はい次は捻って……よし。次は足か──」
幸がいつになく真剣に治療している。組長は生き生きとしている幸をみて羨ましいと思った。好きな仕事を生業にできる人間は限られている。
「できた──首、回ります?」
「いや、無理──おっ? いけるか……? いくっっ!」
「……一人で二役演じ切るのやめてもらっていいっすか?」
天性のエロ会話のぶっ込みにも慣れてきた。
組長は驚いて左右に早く動かしてみるが全く問題ない。さっきまで痛くてロボットのような動きをしていたのに……魔法のようだ。さすがは名医だ。
「これ、すげぇな。なんていう技だ?」
「技って、心はいつまでも少年ですか──運動鍼という昔からの治療です。痛い箇所にどんなに刺してもダメなんですよ、奥深いでしょ」
幸は目をキラキラさせている。カランと金属がぶつかる音が聞こえるので鍼の後始末を始めている。どうやら今日はこれで終わりのようだ。組長も立ち上がり上着を着始める。
「……あ、下向くのが痛い、かも」
「あ、本当ですか。やっぱ──」
組長は待っていたように下から見上げる幸の額にキスを落とす。優しく、滑らかな感触に動きが止まる。額にキスをされたと気付いたときには組長ドアに向かっていた。
「……チッ、欲求不満だ。全快祝いは先生からの熱いキスで頼むな。何なら裸で赤いリボン──」
「私が正気なうちに帰ったほうがいいですよ」
組長はクックックと肩を震わせながら帰っていった。町田も大きくお辞儀をして帰っていく。帰りにこそっと冷湿布を渡すと瞳が揺らいでいた。あぁ、彼に幸あれ……。
額にキスをされた経験なんてものはもちろんない。恋に奥手な中学生でもないだろう。
どこぞの王子よ、まったく。腹黒なくせに──
幸は額に手を当てて微笑んだ。押さえているとまだ温もりが残っているような気がした。
「これは?」
「無理だ」
「これ──」
「引っこ抜く気か」
ベッドに腰掛けたまま組長が苦悶の表情を浮かべている。
どうやら組長は【寝違い】をしたようだ。
朝起きると首が痛かったらしい。
このままではうつ伏せに寝ることも厳しいだろう。
待合室には町田さんがいるがまたもや頭が宇宙人になっている。少し鼻が赤く見えるのは鼻をすすっているからだろう。
仕事をサボる口実でよく組長は「首が痛え、回らねぇ」と言うらしく、いつもの冗談かと思い「あれ? 先生だ」と窓の外を指差した瞬間騙された組長が首を動かしてしまいとどめを刺す形になったようだ。
いや、なんでそこで引っかかる?分かるじゃん、軟禁してんのあんたでしょ……とは言えなかった。
そのあと特別な組長の可愛がりを受け町田は久々に青黒いネジのような痕が頭の周りを取り囲んでいる。久々に見る人造人間に幸は乾いた笑いしか出来ない。
「とりあえず、袖をめくりましょう」
「あ? なんで袖? 首だろ?」
「ちょっと必要なんです、いいから」
幸は腕に鍼を刺し始める。ズンと奥に響き手にだるい刺激が来る。
「来ました? じゃあ、ゆっくりと真横に動かして……はい次は捻って……よし。次は足か──」
幸がいつになく真剣に治療している。組長は生き生きとしている幸をみて羨ましいと思った。好きな仕事を生業にできる人間は限られている。
「できた──首、回ります?」
「いや、無理──おっ? いけるか……? いくっっ!」
「……一人で二役演じ切るのやめてもらっていいっすか?」
天性のエロ会話のぶっ込みにも慣れてきた。
組長は驚いて左右に早く動かしてみるが全く問題ない。さっきまで痛くてロボットのような動きをしていたのに……魔法のようだ。さすがは名医だ。
「これ、すげぇな。なんていう技だ?」
「技って、心はいつまでも少年ですか──運動鍼という昔からの治療です。痛い箇所にどんなに刺してもダメなんですよ、奥深いでしょ」
幸は目をキラキラさせている。カランと金属がぶつかる音が聞こえるので鍼の後始末を始めている。どうやら今日はこれで終わりのようだ。組長も立ち上がり上着を着始める。
「……あ、下向くのが痛い、かも」
「あ、本当ですか。やっぱ──」
組長は待っていたように下から見上げる幸の額にキスを落とす。優しく、滑らかな感触に動きが止まる。額にキスをされたと気付いたときには組長ドアに向かっていた。
「……チッ、欲求不満だ。全快祝いは先生からの熱いキスで頼むな。何なら裸で赤いリボン──」
「私が正気なうちに帰ったほうがいいですよ」
組長はクックックと肩を震わせながら帰っていった。町田も大きくお辞儀をして帰っていく。帰りにこそっと冷湿布を渡すと瞳が揺らいでいた。あぁ、彼に幸あれ……。
額にキスをされた経験なんてものはもちろんない。恋に奥手な中学生でもないだろう。
どこぞの王子よ、まったく。腹黒なくせに──
幸は額に手を当てて微笑んだ。押さえているとまだ温もりが残っているような気がした。
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