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第一部
後始末は高齢者の仕事
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黒嶺会はほんの数日だけニュースに取り上げられた。脱税がどうとかこうとか報道がされていたが、世間の興味は薄くすぐに忘れ去られた。
世間のニュースとは違い、この業界ではより一層明徳会の兄妹には気を付けろ……そして龍晶会を怒らせるなと御達しが出た。組長はほぼ一人で五十人近くの舎弟を半殺しにし血の海を作ったと噂された。
爺はこの日お気に入りの盆栽の手入れをしていた。
パチン
余計な枝ぶりを落とす。この見極めが盆栽は難しい。
「タケちゃん、ご苦労さん」
「おぉ、ジュンちゃんお疲れ様……うまくいったかの?」
爺の言葉に会長が大きく頷く。その顔は穏やかだ。
「病院の廃墟もクリーニングしたし、事務所の周りの防犯カメラも消したぜ。血痕を消すのって大変なんだぜ?」
「ふむ、こちらも病院のカルテも買い占めたし、屋敷に明徳の二人が乗り込んだのも、もみ消しておいたから、ただの警察のガサ入れ程度に世間は思うじゃろ。警察もヤクザと現場に入ったとバレると後々面倒じゃし友好的だったわい」
爺がニヤニヤしながら身をかがめ切りにくい部分にハサミを入れる。
「黒嶺会の親父も土下座を何回したかの……。随分大金を払う羽目になったのう……ま、ほとんどもみ消しに消えたがな……。ふん、出来の悪い息子を持つと大変じゃの」
「タケちゃん、こうして後始末をしている俺たちも出来の悪い身内を持ってるんじゃないか?」
二人は顔を見合わせる。ニタっと二人は笑う。
会長はタバコの火をつけて煙を吐きだした。
パチン
ハサミのいい音が響く。どうやら手入れは終了のようだ。
「……まさか心が勝手に俺のツテを使うとはな……警視総監にはお気に入りのお菓子を送っといたが、すっかり奴も心の虜のようだな。剛より心のほうがヤクザ向きかもな……」
会長がクククと声に出して笑う。
「女の幸せを知ってほしいと言ったのはジュンちゃんじゃろ……それに剛の方が人情が深い。よほどヤクザ向きじゃ」
「ところで、女の幸せで思い出したが……今晩ロシアの女が来るんだが、タケちゃんもどうだ? ボンッキュッボン……好きだろ。腰を掴んで背後から突くといい声で鳴くんだぞ」
「ボンッキュッボン……」
爺の目がキラっと光った。一気にやる気満々らしい。
「ちょうど二時間前に車の中で一戦交えたとこなんじゃが、体は大丈夫かの?」
「ふふふ、タケちゃんもか、俺もここに来るまで女を上に跨らせて来たんだ……さすが兄弟だな。今日はカーセックス日和だもんな」
二人は肩を抱き合い拳を天に突き上げた。
後始末を終えた二人は再び兄弟として仕事を始めた……世界の女を潰す兵器として──
世間のニュースとは違い、この業界ではより一層明徳会の兄妹には気を付けろ……そして龍晶会を怒らせるなと御達しが出た。組長はほぼ一人で五十人近くの舎弟を半殺しにし血の海を作ったと噂された。
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