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第一部
仲間はずれの爺
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朝一番にまさかの爺からの呼び出しだ。前回同様このシュチュエーションにはいい記憶がない。案の定部屋に入るとなぜか部屋の真ん中で座禅を組む爺の姿があった。目を閉じ瞑想中のようだ。
俺が何も言わずに座ると少しして爺が落ち着いた声で俺に話しかける。
「司、あぁ我が孫よ……どうして呼ばれたか知っているかい?」
「え? 教祖様かなんかに取り憑かれてんの?」
異様な雰囲気に戸惑っていると、急に爺の瞼が開かれ俺を睨みつける。その眼光は鋭く流石の俺も言葉に詰まる。
「い、いや、何のことだか……」
実はある。
昨日の爺の朝食用のりんごヨーグルトは俺が強奪した。前に通販で届いた【あなたの息子は大統領】とかいう訳の分からない薬は即座にゴミ箱行きだ。思い当たる節が多すぎる……。
俺の様子に爺があからさまな溜息を漏らす。腕を組み直し再び俺に視線を戻す。
「決まっているだろう、先生だ」
「え? 先生? 何の話だ?」
「しらばっくれるな……やったんじゃろ?3P」
「朝から暑苦しい話だな、オイ」
実の祖父から3Pなんて言葉聞きたくない。そもそもまだヤッてもいねえし、なんの話か皆目見当もつかない。
「噂では大乱交だったらしいな、なぜわしを呼ばんかった? 戦力になれたのに!」
「戦力どころか女を壊すただの生きた兵器だろうが」
何が悲しくて爺さんと一緒にヤらないといけないんだ。爺の瞳が輝いているのに気付いた。この年でこの精力と欲望の深さに恐怖すら覚える。
どうやら先日の一件がどこからか漏れたらしい。徳永兄妹と俺たち全員で大乱交会をしたと訳の分からん話にまで発展したようだ。おそらく舎弟の誰かが話したんだろうがいろんなヒレがつきもうどこから訂正すればいいかも分からない。
「やってらんねぇな……」
俺は何も言わずに部屋から立ち去った。背後から「次は仲間はずれするな」と言われたが聞こえないふりをした。
予想通りというかなんというか、俺が先生の元へと向かうと爺が待合室で爺と先生が楽しそうにおしゃべりに花を咲かせていた。どうやら今しがた到着したらしく幸が爺にお茶を入れている。
「あ、組長、いらっしゃい」
「遅かったのう」
俺は溜息をつき爺の横に座る。テーブルの上には以前先生に渡した紫まむし極楽一発ドリンクらしき箱がある。それを見てますます大きな溜息をつく。
「万代さんがまた持ってきてくださったんですよ。これ、すごく効きますね!」
「そうでしょうな! 先日の疲れが残っているかと思ってお持ちした次第です」
「あら、助かります。これでまた頑張れそうです!」
二人はにっこりと穏やかに笑い合うがこちらは爺が何を言い出すか気が気じゃない。大乱交がここであったなんて話が先生の耳に入れば院を出禁になっちまうかもしれない……それはマズイ。
「先生が大人数の方が好きだとは知らなんで……」
「あー! 先生……爺が首がおかしいらしくって、鍼してもらっていいですか?」
組長が爺の声を遮るように声を上げる。
「やだ、すみません、気が付かなくて……どうぞ?」
手を差し出され爺は悩むことなく幸の手を取るとゆっくりベッドへと移動する。その様子を俺は額に青筋を立てながら見ていた。ベッドのそばでちらりとこちらを振り返る爺の顔は憎たらしかった。
あの口を黙らせるにはうつ伏せにさせて枕で顔を埋めさせるのが一番だ。
組長は経験から首に鍼するときに話しにくくなる事を知っていた。
案の定うつ伏せに寝かされた爺さんは静かになる。好都合だ。これでしばらく時が過ぎれば──
「鍼しますね……あ、その前に万代さんは手とか痺れませんか」
「ぐ? んあ、手? いや、痺れたこと……あ、昨日の女が手足が痺れて動けなくなったが、あれと同じかの?」
爺は枕から顔を起こすとまさかの昨日の性事情を語り始めた。
お忘れの方もいるだろう。爺は女の手足が使い物にならなくなるぐらい女を抱いて抱いて抱きまくるケダモノだ。
「え? 手足? その方大丈夫ですか? どこか具合が悪いとか?」
「いや、どこもかしこも具合は最高じゃったけどな。すこし肉つきが良すぎるぐらいで……」
「脂肪も問題ですものね……」
「あー、いや、うん、大丈夫だ。先生早くその首にぶっ刺して黙らせて」
俺はすぐさま話を切る。
どうやらまた爺さんは女の手足を痺れさせるぐらい抱き潰したらしい。二人の会話が今回もうまく噛み合っているようだ。もはや名人芸と言っていい。
首に鍼を打たれるとすぐに曇った声が聞こえる。
どうやら幸の鍼が響いているようだ。幸は「固いな」といいながら真剣に治療している。
「ぐぅ、ふうふふ──」
作戦は成功だ。俺は悪魔を封じ込めることに成功した。その後治療が終わると爺はやたらすっきりした顔をしていた。
「先生、ありがとうございました……是非人手が足らんときは言ってください。いつでも駆けつけますよ」
「嬉しいです。男手が必要なときは万代さんにお願いしますね」
爺の目が光った。間違いなくピカッと──
爺はドアを開けると上機嫌で帰っていった。
「本当にお爺様はお元気で素晴らしいですねぇ」
「あぁ、本当に素晴らしいな」
先生の言葉に俺は何も言えなかった。
俺が何も言わずに座ると少しして爺が落ち着いた声で俺に話しかける。
「司、あぁ我が孫よ……どうして呼ばれたか知っているかい?」
「え? 教祖様かなんかに取り憑かれてんの?」
異様な雰囲気に戸惑っていると、急に爺の瞼が開かれ俺を睨みつける。その眼光は鋭く流石の俺も言葉に詰まる。
「い、いや、何のことだか……」
実はある。
昨日の爺の朝食用のりんごヨーグルトは俺が強奪した。前に通販で届いた【あなたの息子は大統領】とかいう訳の分からない薬は即座にゴミ箱行きだ。思い当たる節が多すぎる……。
俺の様子に爺があからさまな溜息を漏らす。腕を組み直し再び俺に視線を戻す。
「決まっているだろう、先生だ」
「え? 先生? 何の話だ?」
「しらばっくれるな……やったんじゃろ?3P」
「朝から暑苦しい話だな、オイ」
実の祖父から3Pなんて言葉聞きたくない。そもそもまだヤッてもいねえし、なんの話か皆目見当もつかない。
「噂では大乱交だったらしいな、なぜわしを呼ばんかった? 戦力になれたのに!」
「戦力どころか女を壊すただの生きた兵器だろうが」
何が悲しくて爺さんと一緒にヤらないといけないんだ。爺の瞳が輝いているのに気付いた。この年でこの精力と欲望の深さに恐怖すら覚える。
どうやら先日の一件がどこからか漏れたらしい。徳永兄妹と俺たち全員で大乱交会をしたと訳の分からん話にまで発展したようだ。おそらく舎弟の誰かが話したんだろうがいろんなヒレがつきもうどこから訂正すればいいかも分からない。
「やってらんねぇな……」
俺は何も言わずに部屋から立ち去った。背後から「次は仲間はずれするな」と言われたが聞こえないふりをした。
予想通りというかなんというか、俺が先生の元へと向かうと爺が待合室で爺と先生が楽しそうにおしゃべりに花を咲かせていた。どうやら今しがた到着したらしく幸が爺にお茶を入れている。
「あ、組長、いらっしゃい」
「遅かったのう」
俺は溜息をつき爺の横に座る。テーブルの上には以前先生に渡した紫まむし極楽一発ドリンクらしき箱がある。それを見てますます大きな溜息をつく。
「万代さんがまた持ってきてくださったんですよ。これ、すごく効きますね!」
「そうでしょうな! 先日の疲れが残っているかと思ってお持ちした次第です」
「あら、助かります。これでまた頑張れそうです!」
二人はにっこりと穏やかに笑い合うがこちらは爺が何を言い出すか気が気じゃない。大乱交がここであったなんて話が先生の耳に入れば院を出禁になっちまうかもしれない……それはマズイ。
「先生が大人数の方が好きだとは知らなんで……」
「あー! 先生……爺が首がおかしいらしくって、鍼してもらっていいですか?」
組長が爺の声を遮るように声を上げる。
「やだ、すみません、気が付かなくて……どうぞ?」
手を差し出され爺は悩むことなく幸の手を取るとゆっくりベッドへと移動する。その様子を俺は額に青筋を立てながら見ていた。ベッドのそばでちらりとこちらを振り返る爺の顔は憎たらしかった。
あの口を黙らせるにはうつ伏せにさせて枕で顔を埋めさせるのが一番だ。
組長は経験から首に鍼するときに話しにくくなる事を知っていた。
案の定うつ伏せに寝かされた爺さんは静かになる。好都合だ。これでしばらく時が過ぎれば──
「鍼しますね……あ、その前に万代さんは手とか痺れませんか」
「ぐ? んあ、手? いや、痺れたこと……あ、昨日の女が手足が痺れて動けなくなったが、あれと同じかの?」
爺は枕から顔を起こすとまさかの昨日の性事情を語り始めた。
お忘れの方もいるだろう。爺は女の手足が使い物にならなくなるぐらい女を抱いて抱いて抱きまくるケダモノだ。
「え? 手足? その方大丈夫ですか? どこか具合が悪いとか?」
「いや、どこもかしこも具合は最高じゃったけどな。すこし肉つきが良すぎるぐらいで……」
「脂肪も問題ですものね……」
「あー、いや、うん、大丈夫だ。先生早くその首にぶっ刺して黙らせて」
俺はすぐさま話を切る。
どうやらまた爺さんは女の手足を痺れさせるぐらい抱き潰したらしい。二人の会話が今回もうまく噛み合っているようだ。もはや名人芸と言っていい。
首に鍼を打たれるとすぐに曇った声が聞こえる。
どうやら幸の鍼が響いているようだ。幸は「固いな」といいながら真剣に治療している。
「ぐぅ、ふうふふ──」
作戦は成功だ。俺は悪魔を封じ込めることに成功した。その後治療が終わると爺はやたらすっきりした顔をしていた。
「先生、ありがとうございました……是非人手が足らんときは言ってください。いつでも駆けつけますよ」
「嬉しいです。男手が必要なときは万代さんにお願いしますね」
爺の目が光った。間違いなくピカッと──
爺はドアを開けると上機嫌で帰っていった。
「本当にお爺様はお元気で素晴らしいですねぇ」
「あぁ、本当に素晴らしいな」
先生の言葉に俺は何も言えなかった。
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