虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青

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第二部

ジュンちゃんの痙攣

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「ぐ、っぐん……んん……」

「ダメです……力を抜いて……」

 カッカッ──


「は、はぁ……ダメだ。勝手に力が……」

「動かしますからね? さぁ、力を抜いて……」

 カッカッカッ──

「く、まだヤらないとダメか? キツイな……足を持ち上げられたのは初めてだ──」

 カカカッカカカ──

「一回そのパンチパーマ……ストレートにしてやろうか? ああん?」

「お、昔サラサラロン毛に憧れたなぁ、ははは」

 踵で床を蹴る組長の堪忍袋の緒が切れた。カーテンを開け放ちベッドに横たわる明徳会会長、ジュンちゃんの頭を掴もうとする。

 ベッドの上で仰向けになる会長はそんな組長を嘲笑うように一瞥する。


「ダメですって! 相手は明徳会の会長ですよ!」

 町田が組長を羽交い締めして必死で止める。組長はまるで番犬のように怒りで顔を歪ませている。

 幸はベッドの上で会長の足を抱えてストレッチをしていた。
 朝起きて足を激しく攣った会長は舎弟にここまで送らせた。どうやら爺が何かあったらここへ行くようにと言われていたらしい。爺から組長たちに連絡がいくとすぐさま組長が院に駆けつけた。

 もちろん会長の体を心配してではない。
 先生の身を案じただけだ。密室で二人きりは危ない。会長はオルウェイズ発情期だ。危険すぎる。爺を少し大きくしたような男だ。

「さて、とりあえずは伸ばしたんですけど、ちょっと鍼をしておきましょうか……ストレッチや指では届かないところの筋肉を緩めるのにいいんですよ」

 鍼──その言葉に会長は顔色が変わる。

「いや、俺は──突っ込む方専門だから」

「あ、鍼をされるんですか?」

「おい、コラ……さっさとうつ伏せになりやがれ」

 組長に睨まれ会長は渋々うつ伏せになると幸は足の下に枕を敷きズボンの裾を捲る。
 ふくらはぎにアルコール消毒をして鍼の準備をする。

 さっきまで余裕そうだったのに一気に会長が静かになる。借りてきた猫というやつだ。アルコール綿花が皮膚に触れた冷たさだけでピクッと体を震わせた。

 幸がトントンと鍼を入れていく。

 ゆっくり入れて引き出す。それを繰り返しているとどうやら中で響いたらしい。会長の声が漏れる。

「あっぁああ! 痛い、痛いけど……気持ちがいい……中をこじ開けられるような感覚が……あ、先生」

「鍼は細胞の間を通り抜けるんですよ……だから血が出ないんです……さ、もう一度……」


「ん、その出し入れがいい角度だ……その抽送はいいテンポで──」

「ヤクザってみんな出し入れのこと抽送っていうのがお決まりなんですか?」

 幸の控えめなツッコミに会長はクスッと笑った。

 鍼を抜くと会長が立ち上がる。どうやら筋肉の引きつった違和感もないようだ。普通に歩けている。

「よかった……もう大丈夫ですね。ちゃんと普段からストレッチしてくださいね。足の痙攣は早めに伸ばせば違和感が残りませんから」

 幸のほわんとした笑顔に会長の目が細められた。

「タケちゃんが言っていた意味がわかるな。先生は素敵だな……」

「え? なんです?」

「……会長、ダメだ。これは俺のだ」

 組長が背後から幸を抱き、すっぽりと覆う。
 その大人気ない動作に会長は大笑いをする。

「馬鹿野郎、女を取り合うのはタケちゃんだけと決めてるんだ──先生またお願いします」

 そう言うと颯爽と院を出て行った。

 会長が出て行っても組長は幸を解放しない。幸はその組長の腕にそっと触れる。

「治療……しましょうか?」

「ああ、頼む……」


 組長がカーテンを閉めると同時に町田が院の外へと出て行った。

 組長は幸の唇にキスをした。真っ赤になった幸をみて優しく微笑み額にキスをする。

「……ダメですからね」

「分かってる……これで充分だ」

 組長はシャツを脱ぐとベッドに横になった。
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