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第二部
美英は三重に
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「組長、爺様が中庭でお待ちです」
「……いや、俺は出掛けていると言ってくれ」
組長は嫌な予感がした。中庭ということは盆栽が置いてある所だ……鉢を割った事がバレたのだろう。
組長は慌てて屋敷を出ようと玄関へと向かう。
「待て、司……どこに行くんじゃ……」
玄関で革靴を履いていると背後から低くて太い声が掛かる。ゆっくりと振り返るとそこには下着姿にラクダ色の腹巻をした爺が仁王立ちしていた。
その眼光は孫を見るような目ではない。
「いや、俺急いでるんだ、事務所が荒れて──」
「ふん! お前が行くほうが荒れるわい! さっさと来い!」
俺は諦めて爺について行く……。飛び蹴りに備えてしっかり腰回りを動かして準備運動をする。あれのせいで随分と大変な目にあった。
縁側に腰掛けると爺が盆栽を眺めながら黙り込む。妙に重々しい空気に罪の重さを感じ懺悔したい気持ちになる。
「あの、爺……」
「司、絶倫の孤独が──お前に分かるか?」
「分かるわけねぇだろ、ってかなんでわざわざ呼びつけていつもそんな話ばっかするんだよ……俺あんたの孫だよ! 孫!」
危なかった……盆栽の件じゃなかった。一人で勝手に自爆するところだった。組長は一人胸をなで下ろす。
「ワシの、経験をお前に伝えておきたいんじゃ……。司、お前にワシと同じ失敗をして欲しくない……絶対に……」
「爺……」
きっと、菊の刺青の女性のことだろう……。
少し前に落ち込んでいたのはきっとそうだ。あの頃爺は部屋にこもって何か手紙らしきものを繰り返し読んでいた。
「大丈夫だ、俺たちは……離れないから。俺は先生を離さない……」
組長は爺を見る。その瞳は真剣だ。
「ワシの失敗は女を依存させようと、とある薬を飲んだんじゃ、結果その女はワシのイチモツの虜になって離れなくなった……四六時中な」
「いや、だから俺は孫だって話聞いてた?」
組長は縁側の柱に手をついてもたれ掛かる。一気に疲労感が押し寄せる。近所の坂道鬼ダッシュさせられた後のような疲労だ。
爺は心配していた。組長には自分と同じ血が流れている……きっと陰ながら苦しんでいるに違いない。
絶倫は遺伝すると信じている爺は暴走中だ。
「変な薬を使うなと言っておるんじゃ! 真剣なんじゃ! ワシはアレでタガが外れて絶倫への道に更に邁進することに──」
「医者に生まれつきの絶倫って言われてんのに変な欲を出すからだろうが。邁進って清く正しい日本語を汚すんじゃねぇよ!」
爺は引き出しからそっと小瓶を出す。茶色の小瓶が太陽の光に照らされた。
そのラベルには見覚えがあった。
「司、これは大丈夫じゃ、変な絶倫にならんぞ。健康的な絶倫じゃ……」
「絶倫に良いも悪いもねぇよ、悲劇だよ」
あなたの息子は大統領
以前通販で届いていたが、爺に黙ってゴミ箱行きにしたやつだ。また取り寄せていたらしい……。
「以前注文したやつが届かなくてな、少しだけ忠告してやると一箱十二個入りを送ってきた。いい会社だな、あそこは」
恐らく少しではない……。俺のせいでこの会社は大変な目に合ったようだ。絶倫の男を敵に回すなんて事はあってはならない。いいお得意様だ。
「さ、司……これで先生を喜ばしてやれ……なぁに、男手がいるのならいつだって──」
「あーじゃあ行くわ──」
その小瓶を持ち俺は部屋を後にした。すぐさまゴミ箱に捨ててやろうかと考えていた。
「あ、組長! そろそろ事務所に──」
俺を探していたらしい光田と廊下で会う。
そうだ、こいつに必要かもしれない……そう思い光田に手渡すとなぜか真剣に断られた。
「俺、こんなの飲んだら死んじゃいますから、アイツの思うツボになるんで……自分の身は自分で守らないと……」
どうやら光田は相当参っているようだ。アイツというのは心のことだろうがまるで敵のような言い方だ。恋人のことを話しているようには見えない。甘さゼロ、辛さマックスだ。
「そうか、がんばれよ……」
組長は光田の肩をポンっと叩いた。
「……いや、俺は出掛けていると言ってくれ」
組長は嫌な予感がした。中庭ということは盆栽が置いてある所だ……鉢を割った事がバレたのだろう。
組長は慌てて屋敷を出ようと玄関へと向かう。
「待て、司……どこに行くんじゃ……」
玄関で革靴を履いていると背後から低くて太い声が掛かる。ゆっくりと振り返るとそこには下着姿にラクダ色の腹巻をした爺が仁王立ちしていた。
その眼光は孫を見るような目ではない。
「いや、俺急いでるんだ、事務所が荒れて──」
「ふん! お前が行くほうが荒れるわい! さっさと来い!」
俺は諦めて爺について行く……。飛び蹴りに備えてしっかり腰回りを動かして準備運動をする。あれのせいで随分と大変な目にあった。
縁側に腰掛けると爺が盆栽を眺めながら黙り込む。妙に重々しい空気に罪の重さを感じ懺悔したい気持ちになる。
「あの、爺……」
「司、絶倫の孤独が──お前に分かるか?」
「分かるわけねぇだろ、ってかなんでわざわざ呼びつけていつもそんな話ばっかするんだよ……俺あんたの孫だよ! 孫!」
危なかった……盆栽の件じゃなかった。一人で勝手に自爆するところだった。組長は一人胸をなで下ろす。
「ワシの、経験をお前に伝えておきたいんじゃ……。司、お前にワシと同じ失敗をして欲しくない……絶対に……」
「爺……」
きっと、菊の刺青の女性のことだろう……。
少し前に落ち込んでいたのはきっとそうだ。あの頃爺は部屋にこもって何か手紙らしきものを繰り返し読んでいた。
「大丈夫だ、俺たちは……離れないから。俺は先生を離さない……」
組長は爺を見る。その瞳は真剣だ。
「ワシの失敗は女を依存させようと、とある薬を飲んだんじゃ、結果その女はワシのイチモツの虜になって離れなくなった……四六時中な」
「いや、だから俺は孫だって話聞いてた?」
組長は縁側の柱に手をついてもたれ掛かる。一気に疲労感が押し寄せる。近所の坂道鬼ダッシュさせられた後のような疲労だ。
爺は心配していた。組長には自分と同じ血が流れている……きっと陰ながら苦しんでいるに違いない。
絶倫は遺伝すると信じている爺は暴走中だ。
「変な薬を使うなと言っておるんじゃ! 真剣なんじゃ! ワシはアレでタガが外れて絶倫への道に更に邁進することに──」
「医者に生まれつきの絶倫って言われてんのに変な欲を出すからだろうが。邁進って清く正しい日本語を汚すんじゃねぇよ!」
爺は引き出しからそっと小瓶を出す。茶色の小瓶が太陽の光に照らされた。
そのラベルには見覚えがあった。
「司、これは大丈夫じゃ、変な絶倫にならんぞ。健康的な絶倫じゃ……」
「絶倫に良いも悪いもねぇよ、悲劇だよ」
あなたの息子は大統領
以前通販で届いていたが、爺に黙ってゴミ箱行きにしたやつだ。また取り寄せていたらしい……。
「以前注文したやつが届かなくてな、少しだけ忠告してやると一箱十二個入りを送ってきた。いい会社だな、あそこは」
恐らく少しではない……。俺のせいでこの会社は大変な目に合ったようだ。絶倫の男を敵に回すなんて事はあってはならない。いいお得意様だ。
「さ、司……これで先生を喜ばしてやれ……なぁに、男手がいるのならいつだって──」
「あーじゃあ行くわ──」
その小瓶を持ち俺は部屋を後にした。すぐさまゴミ箱に捨ててやろうかと考えていた。
「あ、組長! そろそろ事務所に──」
俺を探していたらしい光田と廊下で会う。
そうだ、こいつに必要かもしれない……そう思い光田に手渡すとなぜか真剣に断られた。
「俺、こんなの飲んだら死んじゃいますから、アイツの思うツボになるんで……自分の身は自分で守らないと……」
どうやら光田は相当参っているようだ。アイツというのは心のことだろうがまるで敵のような言い方だ。恋人のことを話しているようには見えない。甘さゼロ、辛さマックスだ。
「そうか、がんばれよ……」
組長は光田の肩をポンっと叩いた。
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