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第二部
美容鍼
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「ふふ、どう?」
幸が心の目の前に鍼を差し出す。心は髪の毛よりも細い鍼を興味津々で見つめている。
「……幸さん、本当にこれが刺さるんですの?」
「ええ、これは0番鍼と言って、一番細いものなの。美容鍼はこれで顔に刺していくの」
心は一本手に取るとその鍼を指で撫でる。簡単に折れてしまいそうなぐらいだ。
今日は前々から約束していた心への【美容鍼】のお試し会だ。やはり女性は皆美容鍼に興味津々だ。
「ちょっとチクッてするけれど、効果は抜群よ! 特にくすみや小ジワにいいわ。とりあえずやってみましょ」
心はベッドへ仰向きに寝ると、嬉しそうにこちらを見上げる。瞳がキラキラして可愛い。こうしていると誰もこの少女の中に女豹が住んでいるとは思わないだろう。
幸は鍼を刺す部分だけをアルコール綿花で拭いていく。本当は全部取りたいが今回はお試しだ。これでいいだろう。
「刺すね?」
スッと皮膚に入る時に少しチクっとしたようだが割と痛みは耐えられるほどだったようだ。ほうれい線に沿って斜めに鍼を入れていく……刺し終わるとほうれい線に鍼が並んでいる。猫のヒゲのようで可愛い。
「心ちゃん、顔を動かしちゃダメよ? 喋っちゃダメだからね」
心は黙って頷いた。鍼を刺ししばらく置くと効果が増す。幸はそのままベッドを出た。
「あ、そうだ。ついでに【かっさ】を使ってリンパも流しちゃおうか。心ちゃん、倉庫に行くからゆっくりしててね」
心は親指を突き立てて合図を送る。幸は微笑むと倉庫へと向かった。
心は携帯電話のカメラで自分に刺さった鍼を見てみる。友人たちに見せるために自撮り撮影をしてみた。
猫みたい……おもしろいですわ。
おっと、いけない。ニヤけてはいけなかった。縄以外の拘束道具ですわね……ふふふ。
相変わらず心の頭の中は光田の調教のことしかない。
顔の筋肉が動いてしまうと出血してしまうことがあった。顔の表情筋周りの毛細血管は多い。
心は天井をぼうっと見つめていると院のドアが開いた。
ん? 誰かしら、声が出せないのに……。
「先生? あのー、あれ? おれへんのかな?」
この声は──。
光田様っ! あら、やだ……こんな姿を見る見られたくない!
焦る心の声が聞こえたように光田がカーテンを開ける。仰向けで顔に鍼がたくさん刺さった心の姿に光田は絶句する。
「…………」
「ど、どないしたん? 何してんの、自分」
「…………」
心は携帯電話を操作し光田にメールを送る。
美容鍼です。顔を動かしてはダメなのです。話せません
光田は「なるほどな」といい携帯電話をポケットへ戻す。光田は真上から心の顔を見つめる。猫のヒゲみたいに鍼が刺さっている。
まさに、女豹……いや、この場合動かれへんし、子猫やな……。
思いもよらず光田に会えた喜びで、心は手を伸ばし光田の胸に触れようとするが、その手を制止された。
「……あかん。動くな言われたやろ?」
それは顔だけですわ──。
光田には伝わらない……。
光田は何かを思いついたようでニヤリと笑った。
「心、動かれへん、触られへん、喋られへん……ツライな?」
「ゔー」
いつも攻める側の心は辱めを受けているようで抗議の唸り声を上げる。
心の顔が赤くなるのを確認すると光田は心の顎を掴んだ。唯一ここだけは鍼が刺さっていない……。
そのまま光田は心に口付けた。心は瞳を閉じるとそれを受け入れた。
動いてはいけない……キスに応えてもいけない。
光田様のキス……甘い、甘い……ずっとこうしていたい……。
光田が離れると寂しくて心は抗議の曇った声を漏らす。それを見て光田は嬉しそうに笑った。
「動かれへんから……悔しいか? もっと欲しいんか? ん?」
「…………」
心は悔しくなかった。嬉しかった……。光田から心に口付ける前に、いつも自分から襲いかかってしまっていた。我慢できなかった……それほど好き過ぎた。
欲しい、して欲しい、キスを──。
光田はじっと自分を見上げて……瞳を潤ませる心が可愛かった。頬を赤らめながらとろんと蕩けた表情を見せる心は、可愛い……そして、そんな表情をさせるのは自分だけだと思うと嬉しかった。
「なぁ、心……今のお前、可愛いわ、ほんまに」
「…………う」
心は嬉しくて涙が出る。
その涙を光田が指で拭ってやると再びキスをした。
「あほやな……泣くなや──好きやで──」
「まだ、かな……? んー、そうだ、掃除でもしとこうかな」
【かっさ】を手に倉庫のドアからちらりと二人の様子を見ていた幸は微笑むと箒に持ち替えた。
「さぁて、と……いい天気ね」
今日も院は愛で溢れている。
幸が心の目の前に鍼を差し出す。心は髪の毛よりも細い鍼を興味津々で見つめている。
「……幸さん、本当にこれが刺さるんですの?」
「ええ、これは0番鍼と言って、一番細いものなの。美容鍼はこれで顔に刺していくの」
心は一本手に取るとその鍼を指で撫でる。簡単に折れてしまいそうなぐらいだ。
今日は前々から約束していた心への【美容鍼】のお試し会だ。やはり女性は皆美容鍼に興味津々だ。
「ちょっとチクッてするけれど、効果は抜群よ! 特にくすみや小ジワにいいわ。とりあえずやってみましょ」
心はベッドへ仰向きに寝ると、嬉しそうにこちらを見上げる。瞳がキラキラして可愛い。こうしていると誰もこの少女の中に女豹が住んでいるとは思わないだろう。
幸は鍼を刺す部分だけをアルコール綿花で拭いていく。本当は全部取りたいが今回はお試しだ。これでいいだろう。
「刺すね?」
スッと皮膚に入る時に少しチクっとしたようだが割と痛みは耐えられるほどだったようだ。ほうれい線に沿って斜めに鍼を入れていく……刺し終わるとほうれい線に鍼が並んでいる。猫のヒゲのようで可愛い。
「心ちゃん、顔を動かしちゃダメよ? 喋っちゃダメだからね」
心は黙って頷いた。鍼を刺ししばらく置くと効果が増す。幸はそのままベッドを出た。
「あ、そうだ。ついでに【かっさ】を使ってリンパも流しちゃおうか。心ちゃん、倉庫に行くからゆっくりしててね」
心は親指を突き立てて合図を送る。幸は微笑むと倉庫へと向かった。
心は携帯電話のカメラで自分に刺さった鍼を見てみる。友人たちに見せるために自撮り撮影をしてみた。
猫みたい……おもしろいですわ。
おっと、いけない。ニヤけてはいけなかった。縄以外の拘束道具ですわね……ふふふ。
相変わらず心の頭の中は光田の調教のことしかない。
顔の筋肉が動いてしまうと出血してしまうことがあった。顔の表情筋周りの毛細血管は多い。
心は天井をぼうっと見つめていると院のドアが開いた。
ん? 誰かしら、声が出せないのに……。
「先生? あのー、あれ? おれへんのかな?」
この声は──。
光田様っ! あら、やだ……こんな姿を見る見られたくない!
焦る心の声が聞こえたように光田がカーテンを開ける。仰向けで顔に鍼がたくさん刺さった心の姿に光田は絶句する。
「…………」
「ど、どないしたん? 何してんの、自分」
「…………」
心は携帯電話を操作し光田にメールを送る。
美容鍼です。顔を動かしてはダメなのです。話せません
光田は「なるほどな」といい携帯電話をポケットへ戻す。光田は真上から心の顔を見つめる。猫のヒゲみたいに鍼が刺さっている。
まさに、女豹……いや、この場合動かれへんし、子猫やな……。
思いもよらず光田に会えた喜びで、心は手を伸ばし光田の胸に触れようとするが、その手を制止された。
「……あかん。動くな言われたやろ?」
それは顔だけですわ──。
光田には伝わらない……。
光田は何かを思いついたようでニヤリと笑った。
「心、動かれへん、触られへん、喋られへん……ツライな?」
「ゔー」
いつも攻める側の心は辱めを受けているようで抗議の唸り声を上げる。
心の顔が赤くなるのを確認すると光田は心の顎を掴んだ。唯一ここだけは鍼が刺さっていない……。
そのまま光田は心に口付けた。心は瞳を閉じるとそれを受け入れた。
動いてはいけない……キスに応えてもいけない。
光田様のキス……甘い、甘い……ずっとこうしていたい……。
光田が離れると寂しくて心は抗議の曇った声を漏らす。それを見て光田は嬉しそうに笑った。
「動かれへんから……悔しいか? もっと欲しいんか? ん?」
「…………」
心は悔しくなかった。嬉しかった……。光田から心に口付ける前に、いつも自分から襲いかかってしまっていた。我慢できなかった……それほど好き過ぎた。
欲しい、して欲しい、キスを──。
光田はじっと自分を見上げて……瞳を潤ませる心が可愛かった。頬を赤らめながらとろんと蕩けた表情を見せる心は、可愛い……そして、そんな表情をさせるのは自分だけだと思うと嬉しかった。
「なぁ、心……今のお前、可愛いわ、ほんまに」
「…………う」
心は嬉しくて涙が出る。
その涙を光田が指で拭ってやると再びキスをした。
「あほやな……泣くなや──好きやで──」
「まだ、かな……? んー、そうだ、掃除でもしとこうかな」
【かっさ】を手に倉庫のドアからちらりと二人の様子を見ていた幸は微笑むと箒に持ち替えた。
「さぁて、と……いい天気ね」
今日も院は愛で溢れている。
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