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第二部
町田の恋のC
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「へぇ、光田さんは大阪出身なんですねぇ」
「久し振りに関西弁の人間と喋れて嬉しいわ」
「こっち来てから三重県の美英ですって言うのが挨拶になりました。東京人には通用して嬉しいです。向こうやと何言うてんねんで終わりですからね」
「せやな」
院内は本場の関西弁で大賑わいだ。
やはり同郷という事で美英と光田は盛り上がっている。町田は言葉のテンポの速さに感動しているようだ。
町田は光田が羨ましかった。美英が町田と話す時は関西弁が聞き取りにくい取ろうとゆっくり話してくれていたからだ。自分にも気兼ねなく話してほしい……そう思った。
ベッドから組長の曇り声が聞こえてくる。今幸は組長の激弱の腰を治療中だ。最近爺の盆栽熱が再熱したらしく移動してやったらまた痛みが出たらしい。
「なんで他の人に任せないんです? また腰を痛めて……もう……」
幸の鍼がいいところに当たっているらしい。組長がうつ伏せのまま熱い吐息を吐く。
「く……あの辺りの盆栽ちょっと前に鉢にひび割れさせてんだ。バレると爺に何されるか……。今はマズイ……あぁ……それ、イイな」
「全く……いつかバレるんですからね……あ、ビクつかないで……リラックス……ね?」
カーテン越しの実況は相変わらずのエロさだ。
美英だけは「股関節、いや、仙骨孔狙いか?」と治療家らしく想像を働かせているようだ。
コンコンコン
院のドアが叩かれる。この礼儀正しいノック音は一人しかいない。
「御機嫌よう……あら、皆さんお揃いで……おや? そちらのクールビューティは?」
心がすぐに美英の存在に気づく。
「はじめまして、三重県から来ました山崎美英です」
「いや、やめときって。そこで三重県押しいらんやろ」
光田がクスクスと笑いだす。
「ここで使わんかったらいつ使うんです? 向こうに帰れば死語ですもん」
美英と光田の様子を見て心の顔色が変わる。
ゴゴゴゴゴ
「あら? クーラーの設定温度下げたの?」
幸が冷気を感じてカーテンから顔を出し外を覗く。光田は冷や汗が止まらない。顔色も悪い……。
「こ、心、どないしたんや……なんかちょっと、背中から黒いのん出てるけど……なんか召喚しちゃったかな? ん?」
心はきれいな笑顔で微笑む。冷たい笑顔だ。
「光田様……おイタしちゃいけませんわ……こんな美人と仲良くして……ふふ、分かりました。どうやら体に教え込まないとダメですわね……泣いても逃げてもやめてあげませんわよ」
光田はその言葉に慌てて院の外へと逃走した。光田が逃げる様子を見て心は満足げに声を出して微笑む。
「えっと、三重県の美英さんですわね、徳永心と申します……光田様の番ですわ。今日は少し仕事が出来ましたのでこれで失礼いたします──ごきげんよう」
「あら、光田さんの! 可愛らしいわぁ……またお会いしましょうね」
美英の溢れんばかりの笑顔に心は目を細める。美英の心からの笑顔に胸が温かくなった。
「類は友を呼ぶ、ですわね……。では」
心はスキップをしながら院のドアを開けた。きっと光田を追うのだろう……。恐ろしい……。
「恋っていいですねぇ……憧れちゃう」
「美英ちゃんは……恋してないの?」
町田が自然を装い話しかける。美英は顔の前で手を振りすぐさま否定する。
「いませんよー山奥で、若い男はいませんからね。恋したいですけど、なかなか……」
「そう、か……」
おぉ、なんだ。チャンスだ!
男らしく告白しなくちゃ、好きなんだって、一目惚れだって言わなきゃ……。でも、告白なんて学生以来してない……大人になると自然に体の関係になるから告白だなんて恥ずかしい、やり方も分からなくなっていた。
「おおお、おお、おれお──」
俺と付き合ってくれないか
「すすす、すす、すぅー」
好きなんだ
「兄さん、過呼吸ですか!? 待って、紙袋を──」
美英が町田が苦しんでいると思い、奥の部屋へと走っていく。その背中を見て町田は涙が出そうだ。
なんて、いい子なんだ……。
そして、なんて不甲斐ない俺……。
紙袋を持って現れた美英は俺の口元へと紙袋を付ける。
「んが」
「兄さん、落ち着いて! さ、呼吸して、ゆっくり……ゆっくり」
「だ、大丈夫だ、もう……良くなった……」
町田が普通に話せているのを確認し美英は安堵した表情を見せる。
「兄さん、心配しましたよ……兄さんに何かあったら帰れませんよ、もう」
美英が冗談を言い笑う。
紙袋を折り畳むと町田の隣へ腰掛ける。
町田は美英の腕を取ると真剣な表情で見つめる。美英がみるみる真っ赤になり、町田と握られた腕を交互に見る。
「俺が、帰らないでって言えば、帰らないでくれる? 俺の、そばにいてくれるの?」
町田の優しい口調に美英が動揺し何も言えなくなる。こんなに甘く口説かれた事などない。
見た目は怖いのに、こうして触れている手は少しは震えている……。私を見る瞳は不安で濡れて揺れている。
現実的に無理な話なのに、どうにか東京に残れないかと考える私の脳は、どうしたのだろう。
「あ、あの……ここには残れません……でも、町田さんが良ければ、三重県に来ませんか?」
「え、俺が?」
「ええ、三重県で暮らしませんか? 一緒に……」
美英の言葉に町田が固まっている。
町田と同等に顔色を変えた人物はカーテンの中にもいた……。
組長は眉間にしわを寄せてカーテンの向こうにいる二人に視線を送る。治療は終わっていたが、町田たちがいい雰囲気なので邪魔をしないように幸と二人、ベッドに腰掛けていた……。
幸が心配そうに組長の眉間のシワに指を添える。幸の方を振り返った組長の顔は迷子の子供のように不安そうで、悲しそうだった。
その日、組長は様子がおかしかった。
帰り際……ゆっくりと歩くその背中はとても寂しそうだった。
「久し振りに関西弁の人間と喋れて嬉しいわ」
「こっち来てから三重県の美英ですって言うのが挨拶になりました。東京人には通用して嬉しいです。向こうやと何言うてんねんで終わりですからね」
「せやな」
院内は本場の関西弁で大賑わいだ。
やはり同郷という事で美英と光田は盛り上がっている。町田は言葉のテンポの速さに感動しているようだ。
町田は光田が羨ましかった。美英が町田と話す時は関西弁が聞き取りにくい取ろうとゆっくり話してくれていたからだ。自分にも気兼ねなく話してほしい……そう思った。
ベッドから組長の曇り声が聞こえてくる。今幸は組長の激弱の腰を治療中だ。最近爺の盆栽熱が再熱したらしく移動してやったらまた痛みが出たらしい。
「なんで他の人に任せないんです? また腰を痛めて……もう……」
幸の鍼がいいところに当たっているらしい。組長がうつ伏せのまま熱い吐息を吐く。
「く……あの辺りの盆栽ちょっと前に鉢にひび割れさせてんだ。バレると爺に何されるか……。今はマズイ……あぁ……それ、イイな」
「全く……いつかバレるんですからね……あ、ビクつかないで……リラックス……ね?」
カーテン越しの実況は相変わらずのエロさだ。
美英だけは「股関節、いや、仙骨孔狙いか?」と治療家らしく想像を働かせているようだ。
コンコンコン
院のドアが叩かれる。この礼儀正しいノック音は一人しかいない。
「御機嫌よう……あら、皆さんお揃いで……おや? そちらのクールビューティは?」
心がすぐに美英の存在に気づく。
「はじめまして、三重県から来ました山崎美英です」
「いや、やめときって。そこで三重県押しいらんやろ」
光田がクスクスと笑いだす。
「ここで使わんかったらいつ使うんです? 向こうに帰れば死語ですもん」
美英と光田の様子を見て心の顔色が変わる。
ゴゴゴゴゴ
「あら? クーラーの設定温度下げたの?」
幸が冷気を感じてカーテンから顔を出し外を覗く。光田は冷や汗が止まらない。顔色も悪い……。
「こ、心、どないしたんや……なんかちょっと、背中から黒いのん出てるけど……なんか召喚しちゃったかな? ん?」
心はきれいな笑顔で微笑む。冷たい笑顔だ。
「光田様……おイタしちゃいけませんわ……こんな美人と仲良くして……ふふ、分かりました。どうやら体に教え込まないとダメですわね……泣いても逃げてもやめてあげませんわよ」
光田はその言葉に慌てて院の外へと逃走した。光田が逃げる様子を見て心は満足げに声を出して微笑む。
「えっと、三重県の美英さんですわね、徳永心と申します……光田様の番ですわ。今日は少し仕事が出来ましたのでこれで失礼いたします──ごきげんよう」
「あら、光田さんの! 可愛らしいわぁ……またお会いしましょうね」
美英の溢れんばかりの笑顔に心は目を細める。美英の心からの笑顔に胸が温かくなった。
「類は友を呼ぶ、ですわね……。では」
心はスキップをしながら院のドアを開けた。きっと光田を追うのだろう……。恐ろしい……。
「恋っていいですねぇ……憧れちゃう」
「美英ちゃんは……恋してないの?」
町田が自然を装い話しかける。美英は顔の前で手を振りすぐさま否定する。
「いませんよー山奥で、若い男はいませんからね。恋したいですけど、なかなか……」
「そう、か……」
おぉ、なんだ。チャンスだ!
男らしく告白しなくちゃ、好きなんだって、一目惚れだって言わなきゃ……。でも、告白なんて学生以来してない……大人になると自然に体の関係になるから告白だなんて恥ずかしい、やり方も分からなくなっていた。
「おおお、おお、おれお──」
俺と付き合ってくれないか
「すすす、すす、すぅー」
好きなんだ
「兄さん、過呼吸ですか!? 待って、紙袋を──」
美英が町田が苦しんでいると思い、奥の部屋へと走っていく。その背中を見て町田は涙が出そうだ。
なんて、いい子なんだ……。
そして、なんて不甲斐ない俺……。
紙袋を持って現れた美英は俺の口元へと紙袋を付ける。
「んが」
「兄さん、落ち着いて! さ、呼吸して、ゆっくり……ゆっくり」
「だ、大丈夫だ、もう……良くなった……」
町田が普通に話せているのを確認し美英は安堵した表情を見せる。
「兄さん、心配しましたよ……兄さんに何かあったら帰れませんよ、もう」
美英が冗談を言い笑う。
紙袋を折り畳むと町田の隣へ腰掛ける。
町田は美英の腕を取ると真剣な表情で見つめる。美英がみるみる真っ赤になり、町田と握られた腕を交互に見る。
「俺が、帰らないでって言えば、帰らないでくれる? 俺の、そばにいてくれるの?」
町田の優しい口調に美英が動揺し何も言えなくなる。こんなに甘く口説かれた事などない。
見た目は怖いのに、こうして触れている手は少しは震えている……。私を見る瞳は不安で濡れて揺れている。
現実的に無理な話なのに、どうにか東京に残れないかと考える私の脳は、どうしたのだろう。
「あ、あの……ここには残れません……でも、町田さんが良ければ、三重県に来ませんか?」
「え、俺が?」
「ええ、三重県で暮らしませんか? 一緒に……」
美英の言葉に町田が固まっている。
町田と同等に顔色を変えた人物はカーテンの中にもいた……。
組長は眉間にしわを寄せてカーテンの向こうにいる二人に視線を送る。治療は終わっていたが、町田たちがいい雰囲気なので邪魔をしないように幸と二人、ベッドに腰掛けていた……。
幸が心配そうに組長の眉間のシワに指を添える。幸の方を振り返った組長の顔は迷子の子供のように不安そうで、悲しそうだった。
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帰り際……ゆっくりと歩くその背中はとても寂しそうだった。
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