虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青

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第二部

ヤクザの溜まり場へと向かう僕

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「では、行って参ります……」

「あぁ、たのんだぞ、佐々木」

 直属の上司が切なそうな顔をして俺を送り出す。俺はバイクに跨るとそのまま無心を心掛けて出発した。

 しばらくすると建物が見えてきた。淡い桜色をしたビルが見えると一気に緊張が高まる。

俺は今からヤクザのアジトへと向かう。悪の巣窟の青野鍼灸院に郵便を届けるために……。以前からこの鍼灸院のことは知っていた。この院の周りにガラの悪い奴らが集まってくるのだと職場で噂を聞いていた。

 ビルに到着するとさっそく黒ずくめの男とすれ違う。明らかに普通ではない風貌だ。

「今日は出てこられないか?」

「あぁ、おれ応援のうちわ作ったんだけどな──」

 男の手には黒のうちわに蛍光色のピンクの文字で〈女神〉と書かれている……。
 誰かアイドルでもいるのか?

 とりあえずビルの前に置かれた集合ポストに二階の住民の分の郵便物を投函していく。先に終わらせてラスボスに体力を温存したい。

「よし、と」

 とうとう青野鍼灸院の郵便物のみになった。
 廊下を進むと曲がり角に白のシャツを着た背の高い男が立っていた。壁に寄りかかり、俺の服装を見ると害がないと分かったのかそのまま足元を見て何かを考えているようだ。

「くそ……心のやつ、何が軽くだ……急に締め上げやがって……縛るなんて聞いてへんのに」

 男がしきりに手首を触る。そこは赤くなっていた。男は疲れ切ったように大きく溜息をついた。

縛る? 手首を?──女王さまがいるのか?

 そのまま院の前でポストに郵便物を投函する。さっさとこの危ないエリアから脱出したい。振り返り急いで立ち去ろうとすると突然、院のドアが開いた。

「あぁ……胸がイテェ……お、でも楽だな」

「お前の胸のことなら俺が一番分かってる。もうマスターしたからな、優しく胸を下から突き上げれば完璧だ」

「その指が役立つとはな……すげぇ助かったぜ、また胸責めを頼む」

 ボディビルダーのような男がさっぱりした顔で出て来た。院の中を覗くと、シャツを上から羽織っただけの半裸の男がこちらを見ている。やけに鍛えられた体に火照った顔をしている。男のくせに色気がダダ漏れだ……俺はノーマルだが、院の中にいる男の色気に怯む。

 胸を責める? 下から突き上げる?
この二人……デキてるのか!?
 なんなんだ、この院は……とんだワンダーランドだ──。

「お、郵便か? もらうぜ」

 剛が固まる男から郵便物を受け取る。

「あ、ありがとうございます……」

 俺は新たな溜まり場の一面を知り、呆然としながらビルを後にした。
 郵便局に戻ると局長が心配そうに俺を見つめる。

「ど、どうしたんだ? 佐々木くん……顔色が悪いぞ?」

「あ、いえ……なんか一般市民には刺激が強いっていうか、新たな扉が開かれたような……なんか、俺、一日で大人の階段駆け上がったみたいです」

「佐々木くん……」

 上司は俺の肩を叩くと悟りを開いたような笑みを浮かべた。

「きっと、この経験が、君の将来に役に立つさ……な?」

 アイドル女神? SM女王さま? それとも愛し合う男たち?──きっと、全てだ。

 俺は大きく頷いた。

 今日も俺はバイクにまたがりヤクザの溜まり場へと向かう。
 今日はどんなことが起こるのか……少し楽しみになっていた。
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