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第三部
爺の部屋
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「おーい、爺……いねぇのか?」
組長は爺の部屋の扉を開けた。どうやら爺は出かけているらしい……こんな朝早くからどこに行ったのか──。
組長は爺宛の郵便物を手にして部屋へと入る。誤って組長の部屋に届けられた封筒には親展の判が押されていたためそのまま届けに来た。
爺の部屋には相変わらず菊の掛け軸が飾られている。これを見るたびに爺の絶倫と純愛話が拮抗しなんとも言えない気持ちになる。ただ、爺に愛された女性は幸せだっただろう……爺は好きになったらとことんの性格だ。それは孫の俺に受け継がれたのかもしれない。
よかった、本当によかった──絶倫なんて受け継いだら辛すぎる……。
組長は内心ガッツポーズをした。
ふと見るといつも閉まっている押入れが少し開いている。組長は周りを確認すると押入れに近づき開けてみる。
「……嘘だろ──なんだ、これ」
そこにはコルクボードが置いてあり爺のお気に入り風俗店の女の名刺が一面に貼られていた。
一瞬犯罪者の部屋みたいに見えてゾッとする。名刺を一枚取るとそこにはクセのある字で社交辞令のメッセージ添えられていた。
万代さんまた来てね
色々サービスしちゃうわよ
まひる
いい歳して何してんだよ……爺……。孫の俺よりも若い女とイチャついて……捨ててやる……。
組長は押入れを閉めて振り返るとちょうど爺が部屋に入ってきたところだった。
組長の姿と奥にある押入れを見て爺は顔を真っ赤にさせる。
「な、何をしとる! ま、まさか……押入れの中を……」
「そのまさかだよ! なんだよアレ──びっくりさせんなよ」
組長が腕を組み呆れたように首を横に振る。爺は組長の視線に耐えられないのか俯く。
「俺は反対じゃない。爺が元気ならいいと思ってる。ただ、腹上死だけは勘弁してくれな……はい、これ」
組長は捨てようとした風俗の名刺を爺に手渡す。爺は顔を上げて何か言いたそうな顔をした。
「……安心しろ、俺はその女を抱いたことはない。じゃな、手首冷やすように先生も言ってたぞ」
「……あぁ、悪いのぅ」
組長はそのまま爺の部屋をあとにした……。
爺は大きく息を吐くとそのまま押入れの左側を開けて名刺をもう一度コルクボードに刺した。押入れを閉めると次は逆の右側の押入れを開けた。
そこには棚が置かれ子供のおもちゃばかり置かれている。どれも新品らしく傷一つない。
堅気になると言って出て行ったので爺は幼い頃、組長に会うことができなかった。渡す事の出来なかったおもちゃが棚に置かれたままになっていた。
奥の壁には古い絵が額に入れて飾られている。白い画用紙に親子三人の絵が描かれている。下には〈つかさ〉と書かれている。
組長の父親が爺が寂しいだろうと送ってくれた絵だった。
その横には満面の笑みの男性と優しげな女性の間に絆創膏をおでこに貼り付けた少年の写真があった。爺はその写真の男性に触れる……。
「いい子じゃろう? お前たちの子は……わしの孫は……」
爺の目には涙が溢れていた。
「ダメじゃのう……歳をとると涙が出るのぅ──安心しろ、司は愛する人を見つけたぞ。お前のように愛を貫いとる……お前にそっくりじゃぞ、安心して愛しい人と共に眠れ……」
頰に流れる涙を指で払い爺はもう一度写真の男性に触れる。写真は爺の涙で濡れていた。
爺の部屋の扉は少し開かれたままだった。その隙間から爺の背中を見つめる人影があった。組長はそっとその扉を閉めると天を仰いで瞬きを繰り返した。
爺宛ての封筒を胸ポケットに入れるとそっとその場をあとにした。
その日の晩御飯は爺の大好きなチキン南蛮だった。組長は黙って一切れ爺の皿に移した。爺はそれを見て嬉しそうに笑った。お返しとばかりに組長の皿にトマトを置いた。
「……なんで俺の嫌いなヤツ──」
「好き嫌いはいかんぞ? うん?」
組長は笑いながらそれを横にいた町田の皿へと放り投げた。
組長は爺の部屋の扉を開けた。どうやら爺は出かけているらしい……こんな朝早くからどこに行ったのか──。
組長は爺宛の郵便物を手にして部屋へと入る。誤って組長の部屋に届けられた封筒には親展の判が押されていたためそのまま届けに来た。
爺の部屋には相変わらず菊の掛け軸が飾られている。これを見るたびに爺の絶倫と純愛話が拮抗しなんとも言えない気持ちになる。ただ、爺に愛された女性は幸せだっただろう……爺は好きになったらとことんの性格だ。それは孫の俺に受け継がれたのかもしれない。
よかった、本当によかった──絶倫なんて受け継いだら辛すぎる……。
組長は内心ガッツポーズをした。
ふと見るといつも閉まっている押入れが少し開いている。組長は周りを確認すると押入れに近づき開けてみる。
「……嘘だろ──なんだ、これ」
そこにはコルクボードが置いてあり爺のお気に入り風俗店の女の名刺が一面に貼られていた。
一瞬犯罪者の部屋みたいに見えてゾッとする。名刺を一枚取るとそこにはクセのある字で社交辞令のメッセージ添えられていた。
万代さんまた来てね
色々サービスしちゃうわよ
まひる
いい歳して何してんだよ……爺……。孫の俺よりも若い女とイチャついて……捨ててやる……。
組長は押入れを閉めて振り返るとちょうど爺が部屋に入ってきたところだった。
組長の姿と奥にある押入れを見て爺は顔を真っ赤にさせる。
「な、何をしとる! ま、まさか……押入れの中を……」
「そのまさかだよ! なんだよアレ──びっくりさせんなよ」
組長が腕を組み呆れたように首を横に振る。爺は組長の視線に耐えられないのか俯く。
「俺は反対じゃない。爺が元気ならいいと思ってる。ただ、腹上死だけは勘弁してくれな……はい、これ」
組長は捨てようとした風俗の名刺を爺に手渡す。爺は顔を上げて何か言いたそうな顔をした。
「……安心しろ、俺はその女を抱いたことはない。じゃな、手首冷やすように先生も言ってたぞ」
「……あぁ、悪いのぅ」
組長はそのまま爺の部屋をあとにした……。
爺は大きく息を吐くとそのまま押入れの左側を開けて名刺をもう一度コルクボードに刺した。押入れを閉めると次は逆の右側の押入れを開けた。
そこには棚が置かれ子供のおもちゃばかり置かれている。どれも新品らしく傷一つない。
堅気になると言って出て行ったので爺は幼い頃、組長に会うことができなかった。渡す事の出来なかったおもちゃが棚に置かれたままになっていた。
奥の壁には古い絵が額に入れて飾られている。白い画用紙に親子三人の絵が描かれている。下には〈つかさ〉と書かれている。
組長の父親が爺が寂しいだろうと送ってくれた絵だった。
その横には満面の笑みの男性と優しげな女性の間に絆創膏をおでこに貼り付けた少年の写真があった。爺はその写真の男性に触れる……。
「いい子じゃろう? お前たちの子は……わしの孫は……」
爺の目には涙が溢れていた。
「ダメじゃのう……歳をとると涙が出るのぅ──安心しろ、司は愛する人を見つけたぞ。お前のように愛を貫いとる……お前にそっくりじゃぞ、安心して愛しい人と共に眠れ……」
頰に流れる涙を指で払い爺はもう一度写真の男性に触れる。写真は爺の涙で濡れていた。
爺の部屋の扉は少し開かれたままだった。その隙間から爺の背中を見つめる人影があった。組長はそっとその扉を閉めると天を仰いで瞬きを繰り返した。
爺宛ての封筒を胸ポケットに入れるとそっとその場をあとにした。
その日の晩御飯は爺の大好きなチキン南蛮だった。組長は黙って一切れ爺の皿に移した。爺はそれを見て嬉しそうに笑った。お返しとばかりに組長の皿にトマトを置いた。
「……なんで俺の嫌いなヤツ──」
「好き嫌いはいかんぞ? うん?」
組長は笑いながらそれを横にいた町田の皿へと放り投げた。
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