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21.気付いた心
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あの日から数日、毎日メールでやりとりをしている。その流れでいいバーがあるということで今晩武人とそのバーで飲むことになった。
待ち合わせ場所のホテルの前で待っていると武人が片手を上げて近づいてくる。涼香も近づき歩道の方へと歩き出そうとすると武人が立ち止まった。
「あ、言ってなかった? このホテルの十一階のバーなんだ」
「え、あ……そうなんだ」
どう反応したらいいか分からない。ホテルの中に店があるというだけで何となく躊躇していると武人が笑う。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だって、それに俺たちそんな純な関係じゃなかったじゃん」
「そう、だね……じゃ、行こうか」
武人の言葉に頷くとそのままホテルへと入っていく。エスカレーターであっという間に到着するとそこは薄暗くて落ち着いた雰囲気のいいバーだった。客層もぐっと大人向けで涼香は一目で気に入った。
「いい所ね……」
二人はカウンターではなくテーブル席についた。何もかもが洗練されている。ガラスのようなテーブルは汚れもなく輝いている。
カクテルとウイスキーを注文しゆっくりと腰掛ける。高級ソファなのだろう高反発のようにお尻を持ち上げられる感覚がある。ウイスキーを少し口に含むと武人はグラスの中の氷を揺らすように回す。
「それ、飲めるようになったのね」
「あ? ああ、なんか好きになった……」
ビールばかり飲んで居酒屋をはしごしていた武人じゃない。洗練されてウイスキーが似合う大人の武人がそこにいた。
武人は涼香の耳たぶに触れる。小さな黒い石が付いたピアスを撫でると懐かしそうに微笑んだ。
ゆっくりと酒を楽しみながら二人で色々な話をした。昔行った旅行の話や、二人で作った料理の話……。どうしても過去の話ばかりをしてしまう。
「……気になっていたんだけど、武人は私と本気で結婚しようと思ってた? それとも……私だけが舞い上がってた?」
涼香はアルコールが回ってきて尋ねにくい事を思い切って聞いてしまう。シラフでは出来ない。
「いや、思ってたよ……こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど。でも、いつからか分からないけど涼香が家族になっていったんだ……恋人じゃなく……」
涼香はカクテルを口に含む。白桃の甘い香りが鼻に抜けていく。
「家族じゃ、だめだった? 夫婦は家族でしょ?」
「……ごめん。今なら分かる……あの時の俺は自信がなかった。涼香を苦しめることになってごめんな」
どこで間違った? そもそも間違ってもいなかったのかも。私達は心を通わせていたようにみせて、違っていた。いつかは破綻が来たと思う。それが、あのきっかけで、あのタイミングだっただけかもしれない。
武人は涼香の手を取った。
「今は、後悔してる。涼香の泣き顔が気になってしょうがなかった……」
涼香はその手を避けるように横へとずらした。
「違う、でしょ?」
「え?」
「あの子と別れて一年も経ってるのに連絡もくれなかった……共通の友人もいたでしょ? その言葉を信じていいの? 別れた後、連絡先を消すほど……私はどうでもいい存在になったのに……責めてるんじゃない……本当の武人を、知りたいの。見たいの」
武人はネクタイを緩めると乾いた笑みを浮かべる。
「本当だな……俺は卑怯だ。連絡先を消したのは付き合った彼女のためだけど……涼香を消したことに間違いはない。──別れてからも気になってなんて……言っちゃいけなかった。再会してからだ、男といる涼香を見て、嫉妬したんだ……」
涼香は武人をじっと見ていた。やっと本当の気持ちを聞けた。ショックだけど、これが本当の今の、武人だ。
「本当のこと言ってくれて、あやふやなままにしないでくれて、ありがとう……」
涼香は優しく微笑んだ。その笑顔に武人が息を飲むのがわかった。涼香の視線に耐えられないのか瞬きを繰り返す。
どうして、こんなにも優しく微笑めるのか……。
自分がした仕打ちが嘘のように涼香の表情は穏やかだった。
「涼香、変わったな……俺も変わったけど……。俺の知ってる涼香は俺が言うことを微笑んでそのまま受け入れる人間だった。俺が触れれば嬉しそうに反応して、俺のことだけを見ていたのに──今は、一線引いて俺のことを見てる……変えたのはあの日の、俺か?」
「確かに、以前の私なら……この間の武人の言葉にすぐ返事をしてたと思う。付き合っていた頃は──武人だけを見つめてた。信じてた……。別れた後もずっと変わらず武人を思って二年間生きてた。忘れられなかった……」
涼香は武人を見る。武人は涼香の気持ちが変化したことに気付いたようで少し目を伏せた。
「でも、武人のいい記憶だけを見て恋してただけだったと、気づかせてくれた人がいたの。私を変えたのは、きっとその人よ」
涼香は思わず涙が溢れる。武人が涼香が座るソファーへと移動しハンカチを差し出す。差し出されたハンカチで目頭を押さえてそれ以上涙が流れ出るのを食い止める。
「ありがと、ごめ──」
「りょ、うか──」
お礼を言おうと顔を上げるとそのまま武人は涼香の唇にキスをした。
目 の前にある武人の顔と、唇に感じる武人の熱に思わず瞼を閉じる。
別れた後何度も夢に見た武人とのキスだ。
薄暗い照明の中……私達は久し振りにキスをしていた。
待ち合わせ場所のホテルの前で待っていると武人が片手を上げて近づいてくる。涼香も近づき歩道の方へと歩き出そうとすると武人が立ち止まった。
「あ、言ってなかった? このホテルの十一階のバーなんだ」
「え、あ……そうなんだ」
どう反応したらいいか分からない。ホテルの中に店があるというだけで何となく躊躇していると武人が笑う。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だって、それに俺たちそんな純な関係じゃなかったじゃん」
「そう、だね……じゃ、行こうか」
武人の言葉に頷くとそのままホテルへと入っていく。エスカレーターであっという間に到着するとそこは薄暗くて落ち着いた雰囲気のいいバーだった。客層もぐっと大人向けで涼香は一目で気に入った。
「いい所ね……」
二人はカウンターではなくテーブル席についた。何もかもが洗練されている。ガラスのようなテーブルは汚れもなく輝いている。
カクテルとウイスキーを注文しゆっくりと腰掛ける。高級ソファなのだろう高反発のようにお尻を持ち上げられる感覚がある。ウイスキーを少し口に含むと武人はグラスの中の氷を揺らすように回す。
「それ、飲めるようになったのね」
「あ? ああ、なんか好きになった……」
ビールばかり飲んで居酒屋をはしごしていた武人じゃない。洗練されてウイスキーが似合う大人の武人がそこにいた。
武人は涼香の耳たぶに触れる。小さな黒い石が付いたピアスを撫でると懐かしそうに微笑んだ。
ゆっくりと酒を楽しみながら二人で色々な話をした。昔行った旅行の話や、二人で作った料理の話……。どうしても過去の話ばかりをしてしまう。
「……気になっていたんだけど、武人は私と本気で結婚しようと思ってた? それとも……私だけが舞い上がってた?」
涼香はアルコールが回ってきて尋ねにくい事を思い切って聞いてしまう。シラフでは出来ない。
「いや、思ってたよ……こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど。でも、いつからか分からないけど涼香が家族になっていったんだ……恋人じゃなく……」
涼香はカクテルを口に含む。白桃の甘い香りが鼻に抜けていく。
「家族じゃ、だめだった? 夫婦は家族でしょ?」
「……ごめん。今なら分かる……あの時の俺は自信がなかった。涼香を苦しめることになってごめんな」
どこで間違った? そもそも間違ってもいなかったのかも。私達は心を通わせていたようにみせて、違っていた。いつかは破綻が来たと思う。それが、あのきっかけで、あのタイミングだっただけかもしれない。
武人は涼香の手を取った。
「今は、後悔してる。涼香の泣き顔が気になってしょうがなかった……」
涼香はその手を避けるように横へとずらした。
「違う、でしょ?」
「え?」
「あの子と別れて一年も経ってるのに連絡もくれなかった……共通の友人もいたでしょ? その言葉を信じていいの? 別れた後、連絡先を消すほど……私はどうでもいい存在になったのに……責めてるんじゃない……本当の武人を、知りたいの。見たいの」
武人はネクタイを緩めると乾いた笑みを浮かべる。
「本当だな……俺は卑怯だ。連絡先を消したのは付き合った彼女のためだけど……涼香を消したことに間違いはない。──別れてからも気になってなんて……言っちゃいけなかった。再会してからだ、男といる涼香を見て、嫉妬したんだ……」
涼香は武人をじっと見ていた。やっと本当の気持ちを聞けた。ショックだけど、これが本当の今の、武人だ。
「本当のこと言ってくれて、あやふやなままにしないでくれて、ありがとう……」
涼香は優しく微笑んだ。その笑顔に武人が息を飲むのがわかった。涼香の視線に耐えられないのか瞬きを繰り返す。
どうして、こんなにも優しく微笑めるのか……。
自分がした仕打ちが嘘のように涼香の表情は穏やかだった。
「涼香、変わったな……俺も変わったけど……。俺の知ってる涼香は俺が言うことを微笑んでそのまま受け入れる人間だった。俺が触れれば嬉しそうに反応して、俺のことだけを見ていたのに──今は、一線引いて俺のことを見てる……変えたのはあの日の、俺か?」
「確かに、以前の私なら……この間の武人の言葉にすぐ返事をしてたと思う。付き合っていた頃は──武人だけを見つめてた。信じてた……。別れた後もずっと変わらず武人を思って二年間生きてた。忘れられなかった……」
涼香は武人を見る。武人は涼香の気持ちが変化したことに気付いたようで少し目を伏せた。
「でも、武人のいい記憶だけを見て恋してただけだったと、気づかせてくれた人がいたの。私を変えたのは、きっとその人よ」
涼香は思わず涙が溢れる。武人が涼香が座るソファーへと移動しハンカチを差し出す。差し出されたハンカチで目頭を押さえてそれ以上涙が流れ出るのを食い止める。
「ありがと、ごめ──」
「りょ、うか──」
お礼を言おうと顔を上げるとそのまま武人は涼香の唇にキスをした。
目 の前にある武人の顔と、唇に感じる武人の熱に思わず瞼を閉じる。
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薄暗い照明の中……私達は久し振りにキスをしていた。
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