忘れられたら苦労しない

菅井群青

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22.きっと、これが正しい

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 キスされている──武人に。

 違う──以前と違う。心が震えないのは、きっと──そうなんだ。

「ん、んんっ!!」

 武人の胸を押し体を離すと涼香は涙が止まらない。愛していた、ずっと愛していると思っていた武人への愛は、いつのまにか変化していた。

 もう変わってしまった。もう、武人を思い出にしなさいと体が教えてくれる。


 武人に再会しなければ自分の思いに気づけなかった。ずっと過去の武人に想いを寄せて生きていたかもしれない。
 他の人を好きになっても、心のどこかで武人への思いを抱えたままだっただろう。

 こうして再会し、本当の心に気づけた私は本当に運が良かった。これから出会う異性を美化された武人と比べてしまっていたかも知れない。それは、あまりにもつらい。相手も、私にも……。

 ゆっくりと武人が離れていく──。
 武人は涼香の顔を見て悔しそうに笑った。涼香の心が読めてしまったようだ。

「もう、間に合わない、か?」

「武人を愛していた気持ちは本物だった。武人に大切にしてもらった思い出もちゃんとある……でも、私が愛した武人は……。もういない……。洗練された大人の武人は素敵だし、かっこいいと思う、だけど──」

 涼香はテーブルの下で握る手を組み替える。

「いや、いいよ。言わなくて……。俺も二年前の俺たちじゃなくなってることに気がついていたし、涼香が俺の事を許してないと思ってた。だけど、どこかで涼香は最後は折れて俺の元に帰って来るって思ってた。二年前の涼香を思い描いていたんだと思う。俺も無意識に二年前の涼香を求めたんだな──その時点で、俺たちはもう戻れない事に気づけなかった」

「武人……」

 武人は涼香の手を握る。

「涼香、涼香を変えた人って……あの居酒屋の──あ、いや、なんでもない」

 武人は言いかけて口を噤んだ。 
 そんな事聞く権利はないことに気付いた。いつから涼香は待っててくれるはず、自分を再び受け入れてくれるはずと思っていたのだろう、おこがましい。

 あの日、必死で引き留めようとする涼香の言葉や姿が風化せずにいた。自分の気持ちが他の女性に移ったように、涼香も変わるのが、当たり前なのに。

 それは、きっと一方的に涼香を捨てたからだ。振った方は、相手がいつまでも自分の事を好きだと思い込んでしまう。過ぎた年月など考えずに。

「涼香、傷つけてごめん、何度謝っても謝りきれないけど。幸せになって……。俺はもうその資格を二年前に失ってたみたいだ」

「ごめんね……武人……。ありがとう……」

 私達は待ち合わせをしたホテルの前で向かい合って立っていた。二時間前とは全く違う表情だ。

「じゃ、元気で」

「うん、武人もね……」

 自然と握手を交わす。武人はそのまま涼香の背中に腕を回すとぎゅっと抱きしめた。

「じゃな──」

 そのまま武人は振り返らずに立ち去った……。姿が見えなくなると涼香は口元を押さえて泣き出した。

 あんなに大好きだったのに。
 ずっと求めていたのに。
 武人以外の人を見れなかったのに……小さくなる武人の背中を見て涙が出る。もう昔みたいに愛してはいない、だけど……愛おしいと思うこの感情は何なんだろう。

 同情?家族愛?友情?

 きっと強く武人を愛したから、その思い出たちがこの感情を作り出しているんだろう。

「さよなら……武人──」
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