君の恋人

risashy

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 茅野と付き合うようになって、一月が過ぎた。毎朝二人で登校し、週に二度は昼休みを二人で過ごす。クラスも部活も一緒だし、帰りだって一緒だ。ずっと茅野と一緒にいる気がする。
 一緒にいない間はメッセージがくるようになった。といっても、朝は毎朝「おはよう」夜に「おやすみ」とか、ほとんど一言だけだ。俺が何か返しても、スタンプが返ってくる程度。

 茅野はいたくキスを気に入り、しょっちゅうしたがるようになった。その度に俺の情緒は乱れる。

 ただ唇を重ねるだけのキスである。それでも、その戯れのような触れ合いは、俺の気持ちを昂らせるのに十分だ。手を伸ばして、その頬に、首筋に触れてみたい。抱きしめたい。
 茅野はいつも触れ合うだけのキスに満足して、嬉しそうに笑う。先に進みたいのは多分俺だけ。

 恋人だからいいだろ、我慢の限界だと、無理やり進んでいいのだろうか。でも、怖くてどうしても踏み切れない。


 昼休み、茅野と教室を出ようとしたところで、背後から声がかかる。

「待ちなさい千尋ォ! あんた忘れてんでしょ、行くよ」
「藤崎……あれ、今日何かあったっけ」
「やっぱり忘れてるじゃん。体育委員の集まりだよ。昼食べながら話し合い!」

 少し怒った様子で声をかけてきたのは、京島と同じく小学校からの付き合いである藤崎だった。女子だけど、こいつも俺を下の名前で呼ぶ。

 俺と藤崎はクラスの体育委員だ。体育委員には委員会があって、主に秋にある体育祭についての話や、もろもろを決めていくという役割がある。今日は委員会初日の顔合わせの日だったらしい。すっかり忘れていた。

「茅野、悪い。俺行くわ」
「あぁ」
「茅野君、ごめんねー、千尋借りるね」
「……うん」

 俺は体育委員のファイルを教室後ろの棚から取り出した。ぶつぶつと文句を言う藤崎と話しながら、茅野にまた後で、と告げて教室を出たのだった。


「千尋って王子とめっちゃ仲良いよね。前々から思ってたけど、あんたたち距離感おかしくない?」
「王子……茅野のことか?」
「そうそう茅野君。王子としか言えないでしょ! マジもんの美形だよね」

 委員会が終わり、藤崎とそのまま弁当を食べていくことになった。藤崎によれば、茅野は女子の間で王子と呼ばれているらしい。

 なるほど確かに茅野は王子様のような容姿だ。優美な顔立ち。ガリガリかと思われがちだが、顔に似合わず陸上部で鍛えたしなやかな筋肉がついている。まさに物語に出てくる白馬に乗った王子様という感じかもしれない。

「距離感なぁ……そういや京島にも言われたわ」
「ずっと一緒だよねぇ。てかさっき千尋に声をかけたとき、ちょっと王子怖かったんだけど。嫌われたら千尋のせいだよ。あんたが委員会の日を忘れてたからなのに!」

 藤崎は口をとがらせた。はいはい、悪かったよ、と言いつつ、茅野が怖いという感想がどうもピンとこないなとも思う。

「……まぁ、茅野とは仲いいよ」

 付き合ってるしな、と心の中だけで言う。藤崎はだよねー、と身を乗り出した。

「千尋がワイルド系だからさぁ、王子とぜんぜんタイプが違って、二人並ぶとまた良い感じ」
「それ、褒めてんだよな」
「褒めてるに決まってんじゃん。そうそう、彼女できた? 千尋の連絡先を知りたいって子、結構いるんだけど」
「いない。今は彼女とか興味ないからいいや」

 食べ終わった弁当箱を閉め、鞄に片付け始める。

 一応、嘘は吐いていない。彼女がいないのも、興味がないことも本当だ。藤崎は顔が広いので、たまにこうして知らない女子と俺の橋渡しをしてくる。

 俺の顔は、普通だと思う。身長は180センチ近くあるから、高い方だ。藤崎曰く、俺は結構人気がある、らしい。いや、今は茅野以外どうでもいいんだけど。

「そっか。まぁ、気が向いたら言ってよ」
「あぁ」

 そういえばさぁ、と藤崎は小学校や中学校の頃の同級生の話をし始めた。本当に賑やかな奴だ。最近は静かな茅野とずっと一緒にいるから、余計にそう思う。

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