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幼馴染み襲来編
いい仕事
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「だいたい姉さまも変なんだよ」
「どこが?」
「いつもなら僕の態度とかなんかで勘づくはずなのに、違和感放置したでしょ」
フィンレーは2つ目のプリンに手を出しながらそんな事を言う。
「あの人も困惑した顔してたよ。あれ? おかしいな? なんで、こんなうまくいくんだろうって。
呼び出されたときの言い訳言う機会がなかったなとか」
「済ました顔で人をはめたやつが何言ってんの」
「だから、ここまで、一方的にできることにものすっごい危機感持ってたよ。
よほどのことだなって」
油断だ。
あらゆる意味の油断だ。その内訳は説明したくない。私もプリンを一つ手に取る。瓶入りの滑らかな触感は他にない。料理長はとろとろプリンを極めつつある。その一方で、マカロンを開発中でもある。とろけるプリンには卵黄だけが必要で、余った卵白の使用方に困って相談された結果らしい。
弟経由で専門家にたずねているが、その先が一国の王とは料理長も知らない。兄様以外に専門家いないし。
「で、一応確認だけど、姉さまは嫁ぐつもりはないよね?」
「ないわね。国を持参金に属国もなし。
私は私のお家を守らなきゃ」
「少し前にお家を盾にするっていった」
「お家だから家主を守るべき」
フィンレーははぁやれやれと言いたげに首を振る。なんか、ローガンがやってる仕草にそっくり。似てきたかな。私の可愛い弟、やさぐれてきている。
「魔女様には話したの?」
「これから」
もう断れないくらいの状況になってからいうつもりだ。人の頭に王冠をのせたのは魔女だから責任を取って私の盾になってもらう。剣は魔王様がいい。
問題があるとすればさらわれるお姫様みたいな絵面だということだ。
「買収されないように気をつけなよ。
最近は年代物のお酒じゃなくて、あたらしいのも飲みたいとか言ってたってよ。商会のほうにいい感じのって発注がかかってた」
「酒造会社を進呈しておけばいいのかしら」
「……ついでにおつまみの開発会社も用意したら? 魔女印で売りに出せるかも」
しばし、想像した。
即潰しそうな気がした。
「お酒買える権利書でも用意しておくわ」
「それがいいよ。
さて、そろそろ、お客さん来ると思う。じゃ、僕のお仕事は終わりってことで」
「後日の説教を楽しみね」
げぇっと言いながらもフィンレーは撤退していった。弟は弟なりに心配してくれたのだと思う。やり方がどうだというところはあるけど。
あとは大人たちがいいように使ったのか、使われたのか、という問題はある。
勝手をされたのは気に入らないが、私がいなくなるのは困ると行動することを容認した、というのはいいことだろう。
いらないと売り払われる危険性は低い。
今、後継者がいないということも後押ししているだろうが。ウィリアムを外に出しておいてよかった。そうでなければ、結婚しておけとか言われるところだ。
それをした瞬間、私は女王様をやっていられなくなる。
でも、恋人の一人もいない、というのも良くはない。
「つくづく、間の悪い」
扉を叩かれ、来客が伝えられる。それに入るように答えた。
来客はユリアだった。
「すみません。悪かったと思ってはいますが! いい仕事しました!」
反省一切なし。清々しいくらいの言い切り。オスカーが同行していたけど、すみません、うちの嫁がという顔をしている。
あの薬の使い方がどうだと始まったので、治験されてしまったらしい。
かわいそうに。素直にそう思った。本当にかわいそうに。
フィンレーが言っていた冬の女神様にお会いしたという話もマジかもしれない。
専門的用語を聞き流しつつ、オスカーが渡してきた会議の結果を確認する。大体は予想通りだ。そつなくまとまっている。
「あ、あと、大事なことですけど、日常生活に支障はなくとも性的能力ないのでそこはよろしく」
「…………そう」
他に何が言えただろうか。
ユリア的に貞操の危機は発生せんぞという注意事項なのだろうが、本人がいないところで何という発言を。オスカーが頭抱えてる。
「五年くらいは、え、ちょ、オスカー?」
「すみません。言って聞かせるので」
「そうしておいて……」
ユリア的には機能的問題としての報告であろうが、デリカシーがない。元々ないというより主治医より報告というニュアンスなんだろうけど、一応、私、妙齢の女性でな? とわからせてやりたい気がしてきた。
「新任宰相が挨拶は遠慮したいと言ってましたが、呼びつけますか?」
「準備がいるから、後日、呼ぶ。手厚く護衛しておいて」
「承知しました。
ところで、ジニーはどこかにやる予定がありますか? ユリアがジニーがどこか行っちゃうぅって呻いてたので」
「ちょっとお出かけ予定はある。オスカーに頼むことはないと思うけど。
今日でなくてもよいけど、イリューを呼んできてほしいのよね」
怪訝そうな顔のオスカー。なにかピンと来たようなユリアが表情を引きつらせる。
影武者は多いほうが、とても良い。
女王陛下の幼馴染の顔を見にジニーが単独行動してもおかしくはないだろう。なにせ、やつは、ジニーが私だと思いもしなかった。
ヴァージニアなどに仕えず、俺の配下につけ、と誘われたこともある。断ったが。
嫁いでも側に仕えさせてやるとか何とか。
分裂でもしないと無理な案件だ。
「分裂する薬使いません?」
「分裂しても、私が嫌な仕事を押し付け合うだけだから意味ない」
ユリアはがっくり項垂れた。特別報酬と鳴いているが、今回の独断は許す気にはならない。それが最善であろうとも。
「責任とりなさいね」
「過労で死にます」
「大丈夫、死ねない」
そうだったと虚ろに呟くユリア。まあ、あとでいい目にもあわせてあげよう。逃げられないように。
「どこが?」
「いつもなら僕の態度とかなんかで勘づくはずなのに、違和感放置したでしょ」
フィンレーは2つ目のプリンに手を出しながらそんな事を言う。
「あの人も困惑した顔してたよ。あれ? おかしいな? なんで、こんなうまくいくんだろうって。
呼び出されたときの言い訳言う機会がなかったなとか」
「済ました顔で人をはめたやつが何言ってんの」
「だから、ここまで、一方的にできることにものすっごい危機感持ってたよ。
よほどのことだなって」
油断だ。
あらゆる意味の油断だ。その内訳は説明したくない。私もプリンを一つ手に取る。瓶入りの滑らかな触感は他にない。料理長はとろとろプリンを極めつつある。その一方で、マカロンを開発中でもある。とろけるプリンには卵黄だけが必要で、余った卵白の使用方に困って相談された結果らしい。
弟経由で専門家にたずねているが、その先が一国の王とは料理長も知らない。兄様以外に専門家いないし。
「で、一応確認だけど、姉さまは嫁ぐつもりはないよね?」
「ないわね。国を持参金に属国もなし。
私は私のお家を守らなきゃ」
「少し前にお家を盾にするっていった」
「お家だから家主を守るべき」
フィンレーははぁやれやれと言いたげに首を振る。なんか、ローガンがやってる仕草にそっくり。似てきたかな。私の可愛い弟、やさぐれてきている。
「魔女様には話したの?」
「これから」
もう断れないくらいの状況になってからいうつもりだ。人の頭に王冠をのせたのは魔女だから責任を取って私の盾になってもらう。剣は魔王様がいい。
問題があるとすればさらわれるお姫様みたいな絵面だということだ。
「買収されないように気をつけなよ。
最近は年代物のお酒じゃなくて、あたらしいのも飲みたいとか言ってたってよ。商会のほうにいい感じのって発注がかかってた」
「酒造会社を進呈しておけばいいのかしら」
「……ついでにおつまみの開発会社も用意したら? 魔女印で売りに出せるかも」
しばし、想像した。
即潰しそうな気がした。
「お酒買える権利書でも用意しておくわ」
「それがいいよ。
さて、そろそろ、お客さん来ると思う。じゃ、僕のお仕事は終わりってことで」
「後日の説教を楽しみね」
げぇっと言いながらもフィンレーは撤退していった。弟は弟なりに心配してくれたのだと思う。やり方がどうだというところはあるけど。
あとは大人たちがいいように使ったのか、使われたのか、という問題はある。
勝手をされたのは気に入らないが、私がいなくなるのは困ると行動することを容認した、というのはいいことだろう。
いらないと売り払われる危険性は低い。
今、後継者がいないということも後押ししているだろうが。ウィリアムを外に出しておいてよかった。そうでなければ、結婚しておけとか言われるところだ。
それをした瞬間、私は女王様をやっていられなくなる。
でも、恋人の一人もいない、というのも良くはない。
「つくづく、間の悪い」
扉を叩かれ、来客が伝えられる。それに入るように答えた。
来客はユリアだった。
「すみません。悪かったと思ってはいますが! いい仕事しました!」
反省一切なし。清々しいくらいの言い切り。オスカーが同行していたけど、すみません、うちの嫁がという顔をしている。
あの薬の使い方がどうだと始まったので、治験されてしまったらしい。
かわいそうに。素直にそう思った。本当にかわいそうに。
フィンレーが言っていた冬の女神様にお会いしたという話もマジかもしれない。
専門的用語を聞き流しつつ、オスカーが渡してきた会議の結果を確認する。大体は予想通りだ。そつなくまとまっている。
「あ、あと、大事なことですけど、日常生活に支障はなくとも性的能力ないのでそこはよろしく」
「…………そう」
他に何が言えただろうか。
ユリア的に貞操の危機は発生せんぞという注意事項なのだろうが、本人がいないところで何という発言を。オスカーが頭抱えてる。
「五年くらいは、え、ちょ、オスカー?」
「すみません。言って聞かせるので」
「そうしておいて……」
ユリア的には機能的問題としての報告であろうが、デリカシーがない。元々ないというより主治医より報告というニュアンスなんだろうけど、一応、私、妙齢の女性でな? とわからせてやりたい気がしてきた。
「新任宰相が挨拶は遠慮したいと言ってましたが、呼びつけますか?」
「準備がいるから、後日、呼ぶ。手厚く護衛しておいて」
「承知しました。
ところで、ジニーはどこかにやる予定がありますか? ユリアがジニーがどこか行っちゃうぅって呻いてたので」
「ちょっとお出かけ予定はある。オスカーに頼むことはないと思うけど。
今日でなくてもよいけど、イリューを呼んできてほしいのよね」
怪訝そうな顔のオスカー。なにかピンと来たようなユリアが表情を引きつらせる。
影武者は多いほうが、とても良い。
女王陛下の幼馴染の顔を見にジニーが単独行動してもおかしくはないだろう。なにせ、やつは、ジニーが私だと思いもしなかった。
ヴァージニアなどに仕えず、俺の配下につけ、と誘われたこともある。断ったが。
嫁いでも側に仕えさせてやるとか何とか。
分裂でもしないと無理な案件だ。
「分裂する薬使いません?」
「分裂しても、私が嫌な仕事を押し付け合うだけだから意味ない」
ユリアはがっくり項垂れた。特別報酬と鳴いているが、今回の独断は許す気にはならない。それが最善であろうとも。
「責任とりなさいね」
「過労で死にます」
「大丈夫、死ねない」
そうだったと虚ろに呟くユリア。まあ、あとでいい目にもあわせてあげよう。逃げられないように。
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