ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おまけ

彼の癖

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「ルー」

 低い声が足下から聞こえてきた。
 見下ろせば、見知った顔が子連れでいた。独りは抱きかかえて、一人は背中に隠れていた。

「それやめなさいな。子供たちにもうつったじゃない」

 どうして見つかったかな? と彼は呟いた。
 木によじ登って座って足をぶらぶらとさせる。
 ルークの悪癖だと皆に言われる。
 気がつけば兄弟全員が何かによじ登ってくるし、足をぶらぶらさせる癖がついた。時々、隣に座ってなにを言うでもなく、ただ、足をぶらぶらとさせるタイミングを合わせようとしていた。あれを見て笑いをこらえていたのに気がついた兄弟はいただろうか。

 どうしてと聞けば、兄様が、寂しそうだから。楽しそうだから、邪魔したかったから、一緒にいたかったから。
 理由なんていくらでも言ってくれた。

 窘め損ねて、自分もやめ損ねて、今怒られている。

「いいじゃないか。誰もここには来ない」

 しばらくぶりのよじ登ったから明日は筋肉痛かなと思う。
 心底呆れたと言いたげなため息が一つ。

「ほら、パパ拗ねてる」

 足下の男は半笑いで、抱き上げていた子を降ろし、背中に隠れていたもう一人も前へ出す。

「ごめんなさいっ」

「ごめんちゃい」

 謝罪されるようなことを彼女たちはした。
 溺愛する二人の娘にパパなんて嫌いと告げたのだ。そのダメージによろけてどこかにぶつかったりして、アホらしいボケをかました結果、外に行っていてくださいと言われて今に至る。
 外ならものが壊れたりしないだろうと言う話だ。
 ルークはもののほうが大事にされたと更にショックを受けた。

 その嫌いと言われた理由というのも一応はある。
 色々な情報からヴァージニア姉様がお嫁にいったのはパパのせいと気がついたようで、今朝、顔を合わせたら、いきなり言われたのだ。

 ぱぱなんてきらい! と声までそろえて。

 幼女にもモテモテだなとぼんやり思った。まあ、考えてみれば、物心ついてからずっと下の弟妹の面倒を見ていたのだから幼児ウケもよいのもわかる。

「ほら、ごめんなさいしたから降りてきなさい」

 はいと返事をする前に周囲の闇の気配が濃くなる。隣に黒っぽい影が形をとりはじめていた。
 日中の単独行動はあまりできないらしいので、娘のどちらかに憑いてきたのだろうか。がしっと何かを掴んだ下の娘が怪しい。

 おぅふ。と背後からタックルかけられたときのような声が聞こえた。
 ルークは小さく笑う。

「あとでね」

 えぇ~っという声2つ分。少しばかり遊んであげる時間は待ってくれるかなと隣の様子を伺う。しかし、影は首を横に振って指のようなものを遠くに向けた。
 あ、と気がつけば、他の人影を見つけた。
 アレはだめだ。

「お勉強頑張るんだよ」

 無情にも宣告せざろうえない。
 ルークは父親だが妃たちに教育を一任している。その方針に逆らうつもりは毛頭ない。ただでさえ、今日は仕事増やしてとお怒りなのだから迂闊に遊ぶなどと言えない。
 いった瞬間に説教される。

 そういったことを理解したかはわからないが、少女たちは愕然と木の上を見上げた。

「父様っ! たすけてっ!」

「いーやー、あそぶーっ!」

 がしっと木にしがみつくあたり、親子だなと思った。いいのか、女の子と思わなくもないが、性別でどうこう言う気質はこの家に限ってはない。

「それを逃げられたことは父様にもないんだ」

 やらなかったことは後で、困る。時に重大な問題も連れてくる。

「うぇえっ!?」

 よい笑顔で母親たちに連れて行かれるのを見送る。

「騒がしいな」

 楽しげな声だった。おやおや、機嫌が悪いぞ。ルークは神妙な顔をつくった。あまり感情を反映してくれない顔なので、気を抜くと無表情になる。
 今は少なくなったが、ぴぎゃーと娘たちや甥、姪に泣かれたものだ。兄弟はさすがに似ているせいか泣かれたことはなかったなと思い出す。

「うちの娘たちが粗相をしたようで申しわけない」

 黒い人の形をしたものは今やはっきりと見える。足をぶらぶらしようとして足まで作っている。その存在は人の擬態をすることが今は楽しいらしい。
 機嫌は悪いが、対象は自分たちではないようだ。

「いいよ。生まれる前から知ってると可愛いから許すみたいな気持ちになるって初めて知った」

「嫁にはやらない」

 ルークはいくらか被せるように言い切った。

「気が早いわっ! ただ、下の娘は神官か聖女にもらう。あれは見すぎる」

「婚期」

「既婚おっけーにしてやるよ。俺って寛大」

「言ってろ」

「嫁にやりたくないけど、婚期を気にするって意味わかんない。うけるーっ」

 ルークとしては超越者に気に入られた娘の人生に憐憫しか感じない。
 まあ、悪い方だが、実害もあるが、長生きはできる。幸せかはわからない。ひとまずはそれで納得しておくしかない。
 本気で嫌なら、考えてはくれる。ただし、受け入れられるかどうかは不明。嫌な人外である。

「ああ、あの野郎の目くらまし破られたから。光のヤツに願いやがった。遠くなく見つけるだろう」

「……なんであの野郎を生かしておかなきゃいかんのだろうか」

「他に継ぐものがいないからじゃないか。別にどうでもいいけど。殺っとく?」

 闇は嗤う。

「落馬ってどうかな。馬車の馬が暴れる? 呪殺とかはばれるからやめたほうがいいだろ? 周りの人から刺されたらいいかな」

 ……段々物騒度合いが上がっている。

「あの男にヴァージニアをくれてやるなら、僕がもらうからね。一生、出さないよ?」

「……なんか、面倒なのに好かれるよな。あの子」

「曖昧だから、理想を勝手に押しつけられるんだよ。特性上、仕方ないけど、いい加減はっきりとしないと自滅するよ。まあ、壊れてしまっても、僕が預かるけど」

 そう言い残して影は消えた。
 ルークはもう少し木の上にいることにした。とりあえず、遅効性の罠をかけてやると思案するために。

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