ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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幼馴染み襲来編

国境

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 国境というのは、別に壁があるわけでもない。入国の手続きをする街はあるけど、そこを外れて密入国は可能だ。そんなあちこちに兵を置いて監視するような無駄人員はいない。
 まあ、国境沿いにはいくつか小さい町があり、その町はほかよりは兵が多いけども。

 入国に際し、入国許可証が発行される。その発行の前提条件が、他の国に所属しているということを示す旅券だ。
 この旅券、発行するのがお手軽な国と難しい国がある。軽く発行する国は、犯罪歴とかぜんぶ調べないでぶん投げる事が多い。だから信用度は低い。一週間ほど、大人しくしていられるか監視されるのが常だ。
 程々の国は軽く犯罪歴はないよ、とか、うちの商人ですとか、留学目的ですとかまあそれなりに情報を出して保証してくる。このあたりは軽い審査で抜けていく。
 厳しい国のほうが厄介で、うちの品行方正な旅人を審査すんの? と言わんばかりの圧がある。これがスパイだったりするときもあるので、こちらも監視。
 そういったことも黄の騎士団が請け負っている。武力で制圧する可能性が高いからだ。役人とバディを組むことも多いそうだけど。

 ほんと、ありとあらゆることの上位組織であるんだよな。あれ。
 女王陛下に忠誠は誓わなくともそれなりに対応するのは、元騎士団長が敬意を払ったからというところは大きい。ぞんざいに扱われていたらどうなっていたことか。
 そして、当の本人はそういうことに全く気がついていなそうではある。

 その国境の街は閑散としていた。
 普通の旅人で賑わっていたのに、全くいない。何かに怯えているように。
 宿屋は当然のようにがらがら、ではなかった。宿の主によれば十人ほど逗留しているそうだ。部屋に案内される前に軽食を取ることにして、一階の食堂の端に陣取る。
 オスカーは宿を取った後に入国管理をしている役所に向かってもらった。私よりもいかついほうが話が通りやすいだろう。女王陛下からの書状もついてるし。

 食堂では来客がすぐにわかるようになっていた。というより、一階ホールにそのままテーブルと椅子を置いたような形式だからお互いに丸見えというわけだ。
 ちょっといかつい男性が数人、宿に戻ってきた。見覚えがあるような気がしてみていたら、相手からびくっとした反応を得た。

「知り合い、かな」

「ジニーが見てるからじゃないですか。にこやかに手を振ってもダメですよ」

「人を人外のように」

「あらぁ、人間のカテゴリに入ってるとお思いですの?」

 そういうソフィーにここまでの旅程の恨みを感じる。体力ゴリラと罵られた。むろん、オスカーと一緒にだ。なお、ゴリラというのは南方に生息する魔王が放つ魔物らしい。その言い回しにソフィーの出身についてちょっと思いをはせたが、まあ、関係のない話だ。

「やだなぁ、そういうこと言わないでよ」

「甘やかすなとユリアにも言われておりますので」

 そんな話をして軽食をつまんでいたら、相手からやってきた。

「人違いであったら申し訳ないのですが、ジニー殿、ですか?」

「そうだよ。
 君たちは?」

「私は青の騎士団に所属しているセイル、こっちは黄の騎士団のルークです。
 他もいますが……。こちらへは任務で?」

 最後は声をひそめて問われた。ジニーとしてはちょっと困った顔で唇を人差し指で押さえておくことにした。
 秘密、ってことだよ、と。
 そのあたり黄の騎士団といったルークのほうが察したようで、承知しましたと返答していた。セイルのほうがえ?という顔だったのが、立ち位置の違うところを露骨に示している。

「君たちは仕事?」

「私は、実家に帰ったあとこちらへ。団長が帰られるまで近隣の所属になっていまして、だいたい黄の騎士団か地元の兵と一緒にいます」

「私は、団長の指示でこちらに。最近、来たんですよ」

「久しぶりの再会に、一杯おごってもいいかな」

「職務、いえ、いただきます」

 セイルのほうはやっぱり察し悪く、ルークに肘でつつかれてなにかに気がついたようだった。
 彼らが言うには、最近国外からくる人が減ったと。それも顕著に減ったのはこの数日で報告したが、伝わるには時間がかかる。
 中央に届くのは一週間はかかるでしょう。
 そういった。

 しかし、私の元に見えるように書かれた言葉は違う。

 一人を早馬で送った。数日のうちには伝わる。備えるよう近隣にも連絡をしている途中。

 この内側にすら、誰か聞き耳を立てているのかもしれないと警戒している。身内しか信用しないと言えばそれまでだが、この警戒心の高さが誰の指南のもとに培われたかと思うと……。

「……どうされました?」

「いやぁ? そういえば、元団長の話聞いてるかな」

「宰相になられたとか。ほんとですか?」

「うん。元気そうで、それでね」

 わざと声をひそめていう。

「女王陛下の恋人なんだって! 全く、僕という存在がありながらの浮気」

「浮気、じゃないですよ。ジニー様は女性ですからね」

 ソフィーがきっちりと釘をさしていく。いいアシストだった。本人は気がついてないだろうけど。
 これで噂なり聞き耳を立てているものなりに聞こえていたらいいと思ったんだ。

 けど、反応なかった。

「もしもーし?」

 二人は私が目の前で手を振ってようやくぎぎと音がしそうなくらいの動きで、私を上から下まで眺めた。

「女性!?」

 重なる声はでかかった。渾身の驚きポイントがそれか。

「そうだよ。女王陛下の近しいところに男なんて置くわけないじゃん」

 まあ、男と思わせて虫よけも兼ねていたという言いわけもきちんとできる。
 え、あ、女性、え? 女性? などと言っている様子から大混乱が見受けられる。となりでぷっと吹き出す声が聞こえた。

「なんだよ」

「なんでも、ふっ、ふふっ」

 笑いたければ笑え。やはりどこいってもジニーは男としか思われないらしい。少々ふてくされたくもなる。

「……なにやってんです?」

 そんなときにちょうどよくオスカーが帰ってきた。

「僕が女ってのが受け入れがたいらしい」

「ジニーはジニーという生物です。そういう感じで受け入れると楽になれますよ」

 悟ったようなこと言われたのもやはり気に入らない。
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