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幼馴染み襲来編
国境 2
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私には納得のいかない結論だったけど、この二人にとっては理解可能な範囲だったらしい。
確かに。と頷いていた。
納得はいかないがそれで話は進まない。
オスカーは周囲を見回して、少し眉をひそめた。知り合いでなければ気が付かないだろうちょっとした不愉快の表現。
なにか見つけたっぽいな。私にわからない暗黙のなにかかもしれない。
もうちょっと観察してほしいから、注意をひきつけておこう。
「そういって、煙に巻いて。扱いひどい」
拗ねて見せれば彼らは慌てた。同性の騎士ならばあまり気にしないだろうが、相手は女性と知ったばかり。彼らの規範で言えば女性は守るべき対象であり、強く言えない。気にすんなよ、がははは、では済ませられない。
「ジニー殿のことはちゃんと尊敬していますので、そこはご了承いただければ」
「そうです。団長と互角にやれる方などこの国に他にはおりません」
「そー。僕ってば可憐で最強だから」
「かっこいいです」
「惚れます」
「ジニーはかっこいいです」
ソフィーも重々しく追加した。
可憐。
全拒否。
本格的にいじけたくなってきた。
「これで、遊んでないで、話をしようか」
気が済んだのかオスカーが呆れたように言う。気を取り直して、現在の状況を確認した。
この数日、入国者がゼロ。その前から減ってはいて、あまりにもおかしいからと中央に確認を出そうかという話はしていた。すでに使いは出した。これは、騎士たちの話と合致している。
入ってこないのは商人などだ。旅芸人などが来る時期でもなく、来るならば戴冠の祭りや魔王討伐のあとでその後は立ち去ったか、居座ったかである。
縁者が尋ねてということもあるが、それはごく少数だろう。あまり国外に移住するということはなかったらしいから。他国に嫁ぐことはあっても他国から嫁いでくることは少なく、里帰りとなるとさらに少ない。
そういう地だ。
基本的に自給自足が可能であり、他国からの提供物もあったりするから商人が来ない、ということに問題はあまりない。長期的には不足物資も出てくるかもしれないが、今はおいておこう。
商人が来ない、というのは、戦の匂いを嗅ぎつけたというわけではないだろう。一部商人には勝機だからだ。そういうときにだけやってくる奴らはいる。
商人は良くも悪くも権力と金に左右されることが多い。
「金で、露払いしたかな」
眼の前の邪魔な奴らを一掃し、最速でたどり着くために。
ならば猶予は数日も残っていない。
「宿屋に大口の客の予約は来てる?」
「人がいないと嘆く主人は何人か見かけたくらいなので……」
「らしいな」
どういうことで?と目線で問われたので、苦笑いして答えることにした。
「強行軍で、王城まで来るつもりだよ。
あの皇帝は」
何も目もくれず、愛しの王女を迎えに。
そこに礼儀もなにもない。
ただ、簒奪するということすら考えにないだろう。
その王女はもう女王で、国を離れることもない、ということもわかりはしない。
「まあ、いいや。
自分に酔ってるってのはわかった。わるいけど、通すように通達して。無用ないざこざはしない。
被害がでかくなる。むしろ、そうだな。歓迎して、時間を稼いだほうがいい。
体面的に無碍にすることはできないと側近がうるさく言うだろうし」
それを無視してもというならば、内部の士気が下がる。まあ、こここまででだだ下がりの予感がするけど。
帝国に知り合いがいればよかったんだけど、誰にも会うことはなかった。
幼馴染は私の国に一人でふらっと現れ、消えた。迎えなど見たこともない。たぶん、私の目につかないところにいたんだろう。私は自分の兄妹しか知らないからその異常さを気にもとめていなかった。
「案内人がいたほうがいいんだけどな。
ねぇ、オスカー」
「嫌です」
「私もお断りです」
「そうだよね……。ああ、君たちにはそんな貧乏くじ引かせるわけにはいかないから、行かないように。
フリじゃなくてホントだよ。失うとウィルにも怒られる」
「了解しました。
歓待については、こちらに任せていただけるので?」
「どうぞ、あなたの元主がなんか手配してんでしょ? わかってるよ。あいつは陰湿」
「……いやぁ、陰湿ですけどね……」
「じっとり度合いがやべぇ感じになってますけどね」
やべぇのか。余人のフォローを寄せ付けぬやばさ。
よかったんだろうか。私。あんなの恋人役振って。知らん間に監禁されたりしないよな? ちょっと心配になってきた。
……最悪は、闇のお方にお願いしておこう。で、後で説教しておけば少しは大人しくなるだろう。
再びオスカーには役所に行ってもらい話を通してもらった。私が全面に出るほうが、ややこしくなると強固に言われたからだ。
仕方ないので、他にこの地にやってきている騎士たちや地元の兵士と面会しておいた。
女王陛下からの勅命。
命大事に。と伝えておく。
つまらんことで戦力を減らしたくないし、いざという時の忠誠度をあげるためだ。余計な争いはないほうが相手に非があるように見えるし。
無法者は相手である。こういう建前は大事だ。他国が介入しやすくなる。
それに、そっちのほうが相手も油断するだろう。
望まれているのだとか、待っていてくれたのか、とか。
それが違うと気がついたときの愕然とした顔が楽しみでもあった。
確かに。と頷いていた。
納得はいかないがそれで話は進まない。
オスカーは周囲を見回して、少し眉をひそめた。知り合いでなければ気が付かないだろうちょっとした不愉快の表現。
なにか見つけたっぽいな。私にわからない暗黙のなにかかもしれない。
もうちょっと観察してほしいから、注意をひきつけておこう。
「そういって、煙に巻いて。扱いひどい」
拗ねて見せれば彼らは慌てた。同性の騎士ならばあまり気にしないだろうが、相手は女性と知ったばかり。彼らの規範で言えば女性は守るべき対象であり、強く言えない。気にすんなよ、がははは、では済ませられない。
「ジニー殿のことはちゃんと尊敬していますので、そこはご了承いただければ」
「そうです。団長と互角にやれる方などこの国に他にはおりません」
「そー。僕ってば可憐で最強だから」
「かっこいいです」
「惚れます」
「ジニーはかっこいいです」
ソフィーも重々しく追加した。
可憐。
全拒否。
本格的にいじけたくなってきた。
「これで、遊んでないで、話をしようか」
気が済んだのかオスカーが呆れたように言う。気を取り直して、現在の状況を確認した。
この数日、入国者がゼロ。その前から減ってはいて、あまりにもおかしいからと中央に確認を出そうかという話はしていた。すでに使いは出した。これは、騎士たちの話と合致している。
入ってこないのは商人などだ。旅芸人などが来る時期でもなく、来るならば戴冠の祭りや魔王討伐のあとでその後は立ち去ったか、居座ったかである。
縁者が尋ねてということもあるが、それはごく少数だろう。あまり国外に移住するということはなかったらしいから。他国に嫁ぐことはあっても他国から嫁いでくることは少なく、里帰りとなるとさらに少ない。
そういう地だ。
基本的に自給自足が可能であり、他国からの提供物もあったりするから商人が来ない、ということに問題はあまりない。長期的には不足物資も出てくるかもしれないが、今はおいておこう。
商人が来ない、というのは、戦の匂いを嗅ぎつけたというわけではないだろう。一部商人には勝機だからだ。そういうときにだけやってくる奴らはいる。
商人は良くも悪くも権力と金に左右されることが多い。
「金で、露払いしたかな」
眼の前の邪魔な奴らを一掃し、最速でたどり着くために。
ならば猶予は数日も残っていない。
「宿屋に大口の客の予約は来てる?」
「人がいないと嘆く主人は何人か見かけたくらいなので……」
「らしいな」
どういうことで?と目線で問われたので、苦笑いして答えることにした。
「強行軍で、王城まで来るつもりだよ。
あの皇帝は」
何も目もくれず、愛しの王女を迎えに。
そこに礼儀もなにもない。
ただ、簒奪するということすら考えにないだろう。
その王女はもう女王で、国を離れることもない、ということもわかりはしない。
「まあ、いいや。
自分に酔ってるってのはわかった。わるいけど、通すように通達して。無用ないざこざはしない。
被害がでかくなる。むしろ、そうだな。歓迎して、時間を稼いだほうがいい。
体面的に無碍にすることはできないと側近がうるさく言うだろうし」
それを無視してもというならば、内部の士気が下がる。まあ、こここまででだだ下がりの予感がするけど。
帝国に知り合いがいればよかったんだけど、誰にも会うことはなかった。
幼馴染は私の国に一人でふらっと現れ、消えた。迎えなど見たこともない。たぶん、私の目につかないところにいたんだろう。私は自分の兄妹しか知らないからその異常さを気にもとめていなかった。
「案内人がいたほうがいいんだけどな。
ねぇ、オスカー」
「嫌です」
「私もお断りです」
「そうだよね……。ああ、君たちにはそんな貧乏くじ引かせるわけにはいかないから、行かないように。
フリじゃなくてホントだよ。失うとウィルにも怒られる」
「了解しました。
歓待については、こちらに任せていただけるので?」
「どうぞ、あなたの元主がなんか手配してんでしょ? わかってるよ。あいつは陰湿」
「……いやぁ、陰湿ですけどね……」
「じっとり度合いがやべぇ感じになってますけどね」
やべぇのか。余人のフォローを寄せ付けぬやばさ。
よかったんだろうか。私。あんなの恋人役振って。知らん間に監禁されたりしないよな? ちょっと心配になってきた。
……最悪は、闇のお方にお願いしておこう。で、後で説教しておけば少しは大人しくなるだろう。
再びオスカーには役所に行ってもらい話を通してもらった。私が全面に出るほうが、ややこしくなると強固に言われたからだ。
仕方ないので、他にこの地にやってきている騎士たちや地元の兵士と面会しておいた。
女王陛下からの勅命。
命大事に。と伝えておく。
つまらんことで戦力を減らしたくないし、いざという時の忠誠度をあげるためだ。余計な争いはないほうが相手に非があるように見えるし。
無法者は相手である。こういう建前は大事だ。他国が介入しやすくなる。
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望まれているのだとか、待っていてくれたのか、とか。
それが違うと気がついたときの愕然とした顔が楽しみでもあった。
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