ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

文字の大きさ
159 / 160
幼馴染み襲来編

国境 2

しおりを挟む
 私には納得のいかない結論だったけど、この二人にとっては理解可能な範囲だったらしい。
 確かに。と頷いていた。
 納得はいかないがそれで話は進まない。

 オスカーは周囲を見回して、少し眉をひそめた。知り合いでなければ気が付かないだろうちょっとした不愉快の表現。
 なにか見つけたっぽいな。私にわからない暗黙のなにかかもしれない。
 もうちょっと観察してほしいから、注意をひきつけておこう。

「そういって、煙に巻いて。扱いひどい」

 拗ねて見せれば彼らは慌てた。同性の騎士ならばあまり気にしないだろうが、相手は女性と知ったばかり。彼らの規範で言えば女性は守るべき対象であり、強く言えない。気にすんなよ、がははは、では済ませられない。

「ジニー殿のことはちゃんと尊敬していますので、そこはご了承いただければ」

「そうです。団長と互角にやれる方などこの国に他にはおりません」

「そー。僕ってば可憐で最強だから」

「かっこいいです」

「惚れます」

「ジニーはかっこいいです」

 ソフィーも重々しく追加した。
 可憐。
 全拒否。

 本格的にいじけたくなってきた。

「これで、遊んでないで、話をしようか」

 気が済んだのかオスカーが呆れたように言う。気を取り直して、現在の状況を確認した。
 この数日、入国者がゼロ。その前から減ってはいて、あまりにもおかしいからと中央に確認を出そうかという話はしていた。すでに使いは出した。これは、騎士たちの話と合致している。

 入ってこないのは商人などだ。旅芸人などが来る時期でもなく、来るならば戴冠の祭りや魔王討伐のあとでその後は立ち去ったか、居座ったかである。
 縁者が尋ねてということもあるが、それはごく少数だろう。あまり国外に移住するということはなかったらしいから。他国に嫁ぐことはあっても他国から嫁いでくることは少なく、里帰りとなるとさらに少ない。
 そういう地だ。

 基本的に自給自足が可能であり、他国からの提供物もあったりするから商人が来ない、ということに問題はあまりない。長期的には不足物資も出てくるかもしれないが、今はおいておこう。

 商人が来ない、というのは、戦の匂いを嗅ぎつけたというわけではないだろう。一部商人には勝機だからだ。そういうときにだけやってくる奴らはいる。
 商人は良くも悪くも権力と金に左右されることが多い。

「金で、露払いしたかな」

 眼の前の邪魔な奴らを一掃し、最速でたどり着くために。
 ならば猶予は数日も残っていない。

「宿屋に大口の客の予約は来てる?」

「人がいないと嘆く主人は何人か見かけたくらいなので……」

「らしいな」

 どういうことで?と目線で問われたので、苦笑いして答えることにした。

「強行軍で、王城まで来るつもりだよ。
 あの皇帝は」

 何も目もくれず、愛しの王女を迎えに。
 そこに礼儀もなにもない。
 ただ、簒奪するということすら考えにないだろう。

 その王女はもう女王で、国を離れることもない、ということもわかりはしない。

「まあ、いいや。
 自分に酔ってるってのはわかった。わるいけど、通すように通達して。無用ないざこざはしない。
 被害がでかくなる。むしろ、そうだな。歓迎して、時間を稼いだほうがいい。
 体面的に無碍にすることはできないと側近がうるさく言うだろうし」

 それを無視してもというならば、内部の士気が下がる。まあ、こここまででだだ下がりの予感がするけど。
 帝国に知り合いがいればよかったんだけど、誰にも会うことはなかった。
 幼馴染は私の国に一人でふらっと現れ、消えた。迎えなど見たこともない。たぶん、私の目につかないところにいたんだろう。私は自分の兄妹しか知らないからその異常さを気にもとめていなかった。

「案内人がいたほうがいいんだけどな。
 ねぇ、オスカー」

「嫌です」

「私もお断りです」

「そうだよね……。ああ、君たちにはそんな貧乏くじ引かせるわけにはいかないから、行かないように。
 フリじゃなくてホントだよ。失うとウィルにも怒られる」

「了解しました。
 歓待については、こちらに任せていただけるので?」

「どうぞ、あなたの元主がなんか手配してんでしょ? わかってるよ。あいつは陰湿」

「……いやぁ、陰湿ですけどね……」

「じっとり度合いがやべぇ感じになってますけどね」

 やべぇのか。余人のフォローを寄せ付けぬやばさ。
 よかったんだろうか。私。あんなの恋人役振って。知らん間に監禁されたりしないよな? ちょっと心配になってきた。
 ……最悪は、闇のお方にお願いしておこう。で、後で説教しておけば少しは大人しくなるだろう。

 再びオスカーには役所に行ってもらい話を通してもらった。私が全面に出るほうが、ややこしくなると強固に言われたからだ。
 仕方ないので、他にこの地にやってきている騎士たちや地元の兵士と面会しておいた。
 女王陛下からの勅命。
 命大事に。と伝えておく。
 つまらんことで戦力を減らしたくないし、いざという時の忠誠度をあげるためだ。余計な争いはないほうが相手に非があるように見えるし。

 無法者は相手である。こういう建前は大事だ。他国が介入しやすくなる。

 それに、そっちのほうが相手も油断するだろう。
 望まれているのだとか、待っていてくれたのか、とか。

 それが違うと気がついたときの愕然とした顔が楽しみでもあった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

ある平凡な女、転生する

眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。 しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。 次に、気がついたらとっても良い部屋でした。 えっ、なんで? ※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑) ※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。 ★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

[完結]困窮令嬢は幸せを諦めない~守護精霊同士がつがいだったので、王太子からプロポーズされました

緋月らむね
恋愛
この国の貴族の間では人生の進むべき方向へ導いてくれる守護精霊というものが存在していた。守護精霊は、特別な力を持った運命の魔術師に出会うことで、守護精霊を顕現してもらう必要があった。 エイド子爵の娘ローザは、運命の魔術師に出会うことができず、生活が困窮していた。そのため、定期的に子爵領の特産品であるガラス工芸と共に子爵領で採れる粘土で粘土細工アクセサリーを作って、父親のエイド子爵と一緒に王都に行って露店を出していた。 ある時、ローザが王都に行く途中に寄った町の露店で運命の魔術師と出会い、ローザの守護精霊が顕現する。 なんと!ローザの守護精霊は番を持っていた。 番を持つ守護精霊が顕現したローザの人生が思いがけない方向へ進んでいく… 〜読んでいただけてとても嬉しいです、ありがとうございます〜

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...