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幼馴染み襲来編
国境 3
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国境の町から速やかに帰宅、とはしなかった。そういう話だけは済ませて、ちゃんと街を出て野宿する。は? という顔のソフィーとやっぱりといいたげのオスカー。付き合いの長さが反応の違いだ。
ほどほどに街道沿いの場所に陣取る。目立たぬように木陰に隠れながら。
「帰るんじゃないんですか」
不満いっぱいという顔で迷彩布をソフィーは被っている。私も同じだ。赤毛はやはり目立つ。オスカーは同じ柄の布で髪を覆っている。いざという時に動けるようにだ。
「帰るよ。用事が済んだら」
「用事って終わったんじゃないんですか」
「ちょっと、ツラ見てから帰る」
「……なんか、口悪くなってません?」
「元からじゃないかな。
さて、スパイはどの程度入ってると思う?」
一両日くらいは猶予があるはずだ。その間に、帰りまでの間の手配も済ませておきたい。そのためにはこの街の情報が必要だ。
あまり歩けなかったからね。
「騎士の忠誠は疑う必要はありません。お互いに監視しているに等しい崇拝を受けています」
「ソッチのほうが怖いんだけど……」
「青の騎士団については、もう、諦めてください。評価されず死する運命を英雄に変えたのだから。属する家も蔑ろにはできない恩です。今後百年は語れる我が家の武勲ですから」
私の想定を超えた恩を売っていた。これは少し気をつけないと予想外のことをやらかされてしまう。善意で、最悪を連れてくることなんてよくある話だ。
要監視だ。冷徹に損得勘定できそうな人員増やさないと。
「いまのところ現地の者も大丈夫でしょう。
ただ、すでに入国している商人は、すべて怪しんだほうがいいかもしれません。身綺麗すぎる、と門番が言ってました。
役所のものも少し怪しんでいましたが、書類はきちんと揃っており犯罪歴もないからと通したと」
「ふむ。
役所はどうなの? 私を連れて行きたくないって感じなら誰かいたの?」
「ローガン商会のものがいました。オスカー一人?とかいってたので適当に濁してきましたが、知られるのは間違いありませんね」
「どこに誰を置いていったのか……」
過保護であるが、監視でもあるだろう。どこに誰がいるのか教えてくれないんだもの。
「皇帝の随員にしれっと混じってるとも思いますよ」
「あり得る……。というか、なんか本人が混じってるとかありそう」
その時は誰が巻き添えで連れてこられるのか。
ちょっと考えて、ありそうな推測がついた。
「ウィルは有能よね?」
「ええ、確かに。……まさかね?」
「まさかをやるのが、兄様じゃない?」
否定しどころがない。ついでに言えば、どこかの宰相も指示しそうな気がしてきた。バレたら大変とかそういうの、どこか置いてきていないだろうか。
あの人、死なれたらものすっごい困るんだけど。
「……オスカー」
「嫌ですからね」
「そこをなんとか。いないかだけの確認でも」
「ここにいるのはジニーですからね。命じても無駄です」
「くっ」
手札が足りない。
戻って来るなとちゃんと釘を差しておくべきだった。そんな事言うとしょげた顔で……。だめだ。犬の耳としっぽの幻覚が見える。
「そうだとすれば知らせてくるでしょう。本人はともかく、ソランのほうは採用されないでしょうし」
「そっか。いやいや、意外と最近やるよ?筋が良いというか。鬼気迫るというか」
「それは、そうでしょうね」
二人になんだか残念ないきものでも見るように見られた。なぜだ。
とりあえずは、その件は保留し、他の者たちについて検討した。
あの街に逗留していた騎士たちは商人、宿屋は警戒していた。それだけでなく街の住人に対しても、であるように見えた。それもどこで何を聞かれているかわからない、といった風だった。
それでいてある程度の交流はしているのだからやり口がえぐい。情報戦に慣れているとしか思えない。青の騎士団の人たちは目眩ましに使われている感もあったし……。
トップの性質がアレだから下もアレ。と思ったが、オスカーがいうには特別、慎重なタイプを送り込んでいるのであろうということだった。
大多数はもっと普通で、一部は命知らずであるらしい。確かに次兄にお願いしに行く胆力は命知らずに分類してもいいだろう。
「情報を取って速やかに帰還できるように、馬も良いものを用意されていました。
宰相殿はやる気十分というところですね」
ちょっと嫌味っぽい。
どちらかというと私に対して、だ。
「陛下、いつまで腑抜けてるんです?」
「腰が引けてるのは、認める。でも、ちゃんとするし」
「いいですけどね? いざというときは、ユリアが性転換の薬ぶっかけて逃げるって言ってましたのでご留意ください」
「……それいいの?」
「良くはありませんが、致し方ありません」
「その割り切りどうなの」
ソフィーもドン引きするなんかだ。いざという時のユリアの実行力は神がかっている。むしろ、髪の悪ノリを引き出してくる。さすが、神官だ。
「さて、野営の準備もしておきましょう。
温かいものは食べられるのは今日が最後です」
「え、まじで」
「もちろんだよ。冷えたビスケットかじって、水を飲む生活だよ」
ソフィーがこの世の終わりという顔をしていたが無視した。突き合わせて多少悪いとは思うが、諦めてもらおう。
ほどほどに街道沿いの場所に陣取る。目立たぬように木陰に隠れながら。
「帰るんじゃないんですか」
不満いっぱいという顔で迷彩布をソフィーは被っている。私も同じだ。赤毛はやはり目立つ。オスカーは同じ柄の布で髪を覆っている。いざという時に動けるようにだ。
「帰るよ。用事が済んだら」
「用事って終わったんじゃないんですか」
「ちょっと、ツラ見てから帰る」
「……なんか、口悪くなってません?」
「元からじゃないかな。
さて、スパイはどの程度入ってると思う?」
一両日くらいは猶予があるはずだ。その間に、帰りまでの間の手配も済ませておきたい。そのためにはこの街の情報が必要だ。
あまり歩けなかったからね。
「騎士の忠誠は疑う必要はありません。お互いに監視しているに等しい崇拝を受けています」
「ソッチのほうが怖いんだけど……」
「青の騎士団については、もう、諦めてください。評価されず死する運命を英雄に変えたのだから。属する家も蔑ろにはできない恩です。今後百年は語れる我が家の武勲ですから」
私の想定を超えた恩を売っていた。これは少し気をつけないと予想外のことをやらかされてしまう。善意で、最悪を連れてくることなんてよくある話だ。
要監視だ。冷徹に損得勘定できそうな人員増やさないと。
「いまのところ現地の者も大丈夫でしょう。
ただ、すでに入国している商人は、すべて怪しんだほうがいいかもしれません。身綺麗すぎる、と門番が言ってました。
役所のものも少し怪しんでいましたが、書類はきちんと揃っており犯罪歴もないからと通したと」
「ふむ。
役所はどうなの? 私を連れて行きたくないって感じなら誰かいたの?」
「ローガン商会のものがいました。オスカー一人?とかいってたので適当に濁してきましたが、知られるのは間違いありませんね」
「どこに誰を置いていったのか……」
過保護であるが、監視でもあるだろう。どこに誰がいるのか教えてくれないんだもの。
「皇帝の随員にしれっと混じってるとも思いますよ」
「あり得る……。というか、なんか本人が混じってるとかありそう」
その時は誰が巻き添えで連れてこられるのか。
ちょっと考えて、ありそうな推測がついた。
「ウィルは有能よね?」
「ええ、確かに。……まさかね?」
「まさかをやるのが、兄様じゃない?」
否定しどころがない。ついでに言えば、どこかの宰相も指示しそうな気がしてきた。バレたら大変とかそういうの、どこか置いてきていないだろうか。
あの人、死なれたらものすっごい困るんだけど。
「……オスカー」
「嫌ですからね」
「そこをなんとか。いないかだけの確認でも」
「ここにいるのはジニーですからね。命じても無駄です」
「くっ」
手札が足りない。
戻って来るなとちゃんと釘を差しておくべきだった。そんな事言うとしょげた顔で……。だめだ。犬の耳としっぽの幻覚が見える。
「そうだとすれば知らせてくるでしょう。本人はともかく、ソランのほうは採用されないでしょうし」
「そっか。いやいや、意外と最近やるよ?筋が良いというか。鬼気迫るというか」
「それは、そうでしょうね」
二人になんだか残念ないきものでも見るように見られた。なぜだ。
とりあえずは、その件は保留し、他の者たちについて検討した。
あの街に逗留していた騎士たちは商人、宿屋は警戒していた。それだけでなく街の住人に対しても、であるように見えた。それもどこで何を聞かれているかわからない、といった風だった。
それでいてある程度の交流はしているのだからやり口がえぐい。情報戦に慣れているとしか思えない。青の騎士団の人たちは目眩ましに使われている感もあったし……。
トップの性質がアレだから下もアレ。と思ったが、オスカーがいうには特別、慎重なタイプを送り込んでいるのであろうということだった。
大多数はもっと普通で、一部は命知らずであるらしい。確かに次兄にお願いしに行く胆力は命知らずに分類してもいいだろう。
「情報を取って速やかに帰還できるように、馬も良いものを用意されていました。
宰相殿はやる気十分というところですね」
ちょっと嫌味っぽい。
どちらかというと私に対して、だ。
「陛下、いつまで腑抜けてるんです?」
「腰が引けてるのは、認める。でも、ちゃんとするし」
「いいですけどね? いざというときは、ユリアが性転換の薬ぶっかけて逃げるって言ってましたのでご留意ください」
「……それいいの?」
「良くはありませんが、致し方ありません」
「その割り切りどうなの」
ソフィーもドン引きするなんかだ。いざという時のユリアの実行力は神がかっている。むしろ、髪の悪ノリを引き出してくる。さすが、神官だ。
「さて、野営の準備もしておきましょう。
温かいものは食べられるのは今日が最後です」
「え、まじで」
「もちろんだよ。冷えたビスケットかじって、水を飲む生活だよ」
ソフィーがこの世の終わりという顔をしていたが無視した。突き合わせて多少悪いとは思うが、諦めてもらおう。
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