ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おうちにかえりたい編

姫様は故郷(くに)に帰る決意をする 前編

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「異国の姫と言えど妃の一人でしかない。特別扱いはしない」

 というのは王弟殿下のありがたいお言葉。
 旦那様(仮)はいちゃついてて何も言う気は無いようだ。

 おかしいなぁ、私王妃になるためにきたはずなのに。
 愛人を膝に乗せて座る玉座ってなんの意味があるのか。隣の王妃の椅子には誰も座っていないところはまだ可愛らしいのかもしれない。

 とりあえず、謁見の間はいちゃつく場所ではない、と言いたいところだけど故郷では前例があってツッコミづらい。いちゃついているつもりがなくても、じゃれ合っているようにしか見えない口論とか。

 実家では誰かしらが物理的ツッコミをいれるのだけど。

 まあ、そんな前例があるとは思えないこの場でこれをする理由がそれなりにはあるのだろう。
 冷遇するとはっきりと言えないから、この現状をみせているのかもしれない。

 言えば国交上の問題になる。が、王妃になるつもりできたのに特別扱いしないという時点で既に問題が起こるんだけど、気がついていないの?

 バカなの?

 と思うけれど、まあ、思慮深いとは言われていなかった。そう言えば。
 昨日の出来事を考えれば、案外早く、故郷(くに)に帰ることになりそうだ。

 顔だけは良いなぁ。
 チビだけど。

 ぼんやりと王を見ていれば目があった。

「なんだ」

「いえ、なにも」

 ああ、この男を壊すのだなぁと感慨深く思ったものですから。

 私は昨日のことを思い出していた。






 うちの兄様は守銭奴だ。そうじゃなければケチ。国庫の最後の番人は兄である国王だ。
 王妃たちには宝石もドレスも与えるが規定数が決まっている。越えた分は回収し、作り直すか下げ渡す。
 新しい芸術家を育てる名目で、城においているのは安価なツボや絵画。
 見栄えが重要という場以外は、技術を継承や新しい試みをするために家具類を注文する。

 木立に隠された裏庭は菜園と果樹園だ。城内の牧場計画は家臣一同の懇願により頓挫したが、郊外に御用達の牧場を作った。
 妃の一人の趣味が高じて温室も完備している。

 兄嫁たちも変わってはいるが本人には及ばない。ちなみに5人いる。
 尚、兄弟も変わっているのは否定しない。

 そんな兄は戦争を蛇蝎のごとく嫌っておりまして。
 そんな金も人材も時間も浪費して手に入るのがちょっとした領地、名誉、なんて割に合わない。
 と常々公言するくらいには、嫌い。

 もっとも売られた喧嘩は買う方なので、嘘だぁと思われている。
 専守防衛とか言ってるけどね。

 平和主義者じゃないの。
 拝金主義者なの。
 お金が増えるのは好きだけど、減るのは嫌いなの。

 兄様が即位したのが十年くらい前。
 余っていると自己認識もある兄弟たちをあちこちにばらまき始めた。
 私の上に5人、下に8人もいれば、ね。

 金食い虫はいらんと政略結婚の嵐。
 今では、一番下の妹と私がお残り。
 その私も今、嫁いできたはず。

 ……嫁いだはず?

 荷物に溢れた部屋の真ん中で首をかしげる。

「あれー?」

 王城へ迎え入れられて案内されたのがここだ。
 しかも案内が普通のメイドとかあり得ない。出迎えも荷物を持つ者もおらず、馬車から降ろされてポイ捨てされたあとの話だ。

 これでは結婚相手との面会も期待するだけ無駄。

 冷遇というか他国から同盟の証としてきた王家の娘に対してすることじゃあない。

 まず、日当たりが悪い。裏庭に面した一階の部屋だ。外に面した扉から裏庭に出ることが出来る構造。無施錠。
 辛うじて続き間ではあるが、居室の隣が寝室で侍女の待機部屋はない。
 衝立で隠されていたが、小さい扉を覗けば小さなキッチンがついていた。これだけは評価して良い。

 護衛はなし。

 侍女もなし。

 メイドがひとり。ただし、ご用の時にお呼びくださいときたものだ。

 膨大な荷物が部屋に押し込まれて休むどころではないのに、である。
 なんのために先に送ったのか意味がわからない。

「よかったなー、末妹じゃなくて」

 兄弟を見て育ったせいか一番過激な性格に育ってしまった。あれはヤバイ。さすがの兄様も手元で公爵家作っておいておこうと思うくらいには。
 あれで11才とか末恐ろしいわ。儚いご令嬢に見えるのがもっと恐ろしい。

 兄様がチート過ぎとぼやくくらいなのだから。

 私が行き遅れ近くまで兄様の手元に置かれていたのは、忘れいていた、という絶望的な事実。
 祖国では、アレなんだ。落ち着かないから遠くに行きたいといって、この国に送られた。
 私は、私が王妃として遇されるのであればのらりくらりとやっていくつもりだった。
 過去の私が追いかけてこないんだったらどこでも良いくらいの気持ちだったんだ。

 兄様は、嫌になったら国を潰して持って帰れと言った。
 必要な資金も人材も送ってやるから、やれと。

 戦争するよりは被害が少ないからというにはちょっと問題のあることだ。

 友好的であったなら、そんなことしないで済む。
 と思ったんだけど。

「なんか楽しくなってきちゃったなぁ」

 こちとらお姫様生活なんてしてなかったんだから、こんな対応ぬるいわねぇ。





 荷物の整理をしている間に日が暮れて、王との対面は明日だと一方的に告げられた。
 それを言って来たのは王弟だという。

 護衛を連れてのお出ましに首をかしげた。
 灯りすら持ってこなかったよ。この城の人。
 私がいるの偉い人は誰も知らないのかと思ったよ。

 背の高い眼鏡。眼鏡で、十分だ。

 王は顔の良いチビ。である。

 でこぼこコンビだが、前王の遺伝子はどこに消えたんだろう。彼は中肉中背のふつーのおっさんだった。

 眼鏡は珍しく私と釣り合いの取れそうな背だった。
 にょきにょき伸びたと言われる私の背。ついでに5センチのヒールは履いているので、一般男性の背を追い越すことは日常。
 微妙な顔をされるのも、日常……。

 ……こればかりは慣れなかった……。

 男女だの大女だの。
 ムキになってそこらの男よりも良い男を目指したのは迷走にもほどがあるだろう。その結果、取り巻きがハーレムと呼ばれ、嫁ではなく婿にと求められるようになった。
 とっても近い過去。半年くらい前。

 その結果、どこか嫁に行きたいっ! 一人で! なんて要望を出した私も私だが、こんなトコに送り込む兄様も兄様である。

 そんな兄様は妹の性別を忘れていた。
 男だからもうちょっと良いところを探そうとしていたと聞かされた時には殴った。グーで殴った。
 生まれた時から女なんですぅ。
 兄様よりも大きくても女なんですぅ。

 ……いかん。トラウマがにょっきり生えてくる。

 半笑いで了承し、眼鏡を送って、ふて寝することにした。幸い、ベッドだけは設置されていた。

「あ、夕食」

 食べ損ねたと気がついたのは、ベッドに入ってからのことだった。
 明日の朝はキッチンで作ろう。そうしよう。非常食使わないよねぇと笑いながら詰めてたのにっ!
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