ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おうちにかえりたい編

姫様は結婚する。 後編

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 眼鏡のエスコートで、儀式場に案内される。愛人様ご一行様はついてこないようで、廊下に二人きり。
 中々レアな体験だ。

 護衛とかどうしたんだろうか?

「申しわけありません。窮状を知るのが遅すぎました」

 わざと遠ざけたんだ。
 その言葉で知れる。人前では明らかに非があっても立場的に謝罪するわけにはいかない。それは、私も同様だ。
 個人で、謝罪してきたか。
 相手としてはかなりの譲歩、あるいはそこまでの意識はないのかもしれない。

 でも、やりにくくなるのは確かだ。

 ちょっと表情を作り損ねて、困った顔になってしまった。

 鍛錬などせずにキャラ設定など練っていた方が良かっただろうか。

「部屋は別の場所に用意します。使用人もこちらから手配しますが、護衛は必要ですか?」

 探るような言い方だ。
 まあ、自力でなんとかできるがお姫様としては出来ない方が当たり前だ。
 だから、きっと、こう聞きたいのだろう。

 あの赤毛の男は誰だと。

 ……まあ、私なんですがね。そう答えても意味はない。

 なんという茶番。

 部屋に帰ったら存分に笑うことにして、今は首をかしげてみよう。

「見慣れない赤毛の兵士がいると報告がありました。誰かをお連れに?」

「乳兄弟です。ついてきてしまったようで、お知らせしましたが、ご存じありませんの?」

 知らせていないが、しれっと嘘をついておく。どうせ、報告なんてあっても握りつぶされているんだから大丈夫。

「妹の方も一緒なのですけど」

 これでばれるまでは多少の時間稼ぎが出来る。お姫様はお部屋にこもってもらえば万事解決。

 最悪、アレが役に立つ。

 弟たちの悪のりが役に立つ日がくるとは思わなかった。

「……申しわけございません」

「いいのです。望まれていないのでしょう? 静かに過ごしています。そちらの方が好きですから」

 儚い笑み。
 40点。

 目力が強すぎるので目を伏せるべし。

「彼女たちが身の回りの事をすることは許していただきたいのですけど」

「それはもちろん」

 ……ちょっとは考えようぜ。
 国防上、城の中を国外の人間がうろつくの良くないよ? 一人で何が出来るって思っているのか?

 ……と思ったら心底同情しているような表情でちょっと怯む。

「大丈夫ですよ?」

 案外、殺る気に溢れているので。もちろん、そんな話はしないが。
 そして、さらに健気な生き物を見るように優しく見られていたたまれない気分になる。やっぱり私、こういうの苦手だ。

 まあ、最初のほうに何も知らないうちに居なくなった方が良いだろう。

 見ない方が良いこともある。
 この善意が地獄への道を開くかも知れないのだから。

「ありがとうございます」

 にこりと笑って、そっと寄り添う。表情をのぞき込まれないのは幸いだ。
 儀式場の扉の前で別れた。

 すぐに護衛が現れたことから見られていたと思う。声は聞こえていないとは思うけど。

 さて、それは王に報告するのかな?

 これは、いつ、亀裂になるのかな?

 それとも、もう、壊れかけている?

 みんなもちゃんと情報くれればよいのに。次に家族にあったときに文句をつけてやろう。

 結婚式は一点以外は取り立てていうことはない。
 神に誓うところは省略されている。
 二人とも同じ神を信じていない場合、宗教替えでもしない限りは、それは省略される。神々はとても気むずかしい。

 神の前で結婚しました、という報告だけで済ませる事が多い。
 ただ、国王ともなれば双方の信仰する神の神官を呼んで双方に誓う形式となる方が多い。これは血縁により国同士の関連が強くなると双方の神に報告することになるからだ。

 宗教業界も色々ありすぎる。

 さてこの場はと言えば、立ち会いは光の神の神官のみで、細かった。枯れ木かと思うほどだが、眼光は鋭い。白いヒゲと覚えておこう。

「婚姻の成立を宣言します」

 蛇足ながら、立会人はほとんど居なかった。
 高位貴族の当主が数会わせで数人。
 やる気がないというかしたくなかった感が溢れている。

 そのまま城のバルコニーに連れて行かれる。城の中庭は今日は国民に解放されているらしい。

 ところで、お忘れかも知れないが、かかとは八センチ、底上げ五センチ。
 そんなブーツを私は履いている。
 階段で、バルコニーのある三階まで、上れと。

 つくづく体を鍛えて良かったと思う。婚礼衣装も軽量化してもらって良かった。裾に透明なガラス玉を山ほどつけると言われていたが、断って正解である。
 引きずるとほどに長いドレスなどいらない。

 階段で躊躇なくドレスを持ち上げたら護衛騎士たちから二度見された。三人もいる。

「あの、手をお借りして良いでしょうか?」

 仕方なく、裾を持ち上げて上るのを諦め、ドレスを直す風を装う。
 困った顔で見上げたいところだが、見上げられない。
 ……あら、見たことのある顔。最初に井戸を教えてくれた人だわ。名前聞いてないけど。

「喜んで」

 まあ、普通はこうだね。
 あ、国王陛下は既に先にお進みです。エスコートってなんだっけ? 隣の愛人様にすることみたいよ? もう、遠すぎて見えないけど。

 あのくらい可愛いモノだわと思うのは、兄様たちのいちゃいちゃぶりに慣れているせいだろうか。

 兄様がいつも誰かといちゃいちゃしているように見えるが、大体は仕事の話をしていたりする。
 スキンシップ多めが悪い。

 あれも仕事の一環だろうか?
 周りの護衛騎士の表情を見ていれば違うはわかるけど。露骨ではないけど、あれはどうかと思っているのが透けて見える。

「ジニー殿は殿下の配下でしたか」

 ……聞くのかぁ。

「乳兄弟です。置いていきたかったのですが、どうしてもと」

 困っているとも嬉しいともつかない表情って難しい。それにしても、直接会っているのだからバレそうな気もするんだけど。
 化粧って偉大。

 人を顔で判断せずに、サイズで見ている友人が居たが、そのタイプだと一発でアウトだ。あと骨格で見る人。

 だからこそ友達をしていたのだが。
 怒ってるかもな。

 黒歴史ごと置いてきたからなぁ。

「そうですか。一度手合わせを願いたいものですな」

 ほんっと、ある程度の実力者になると言い出すな。
 故郷でも同じ目に何度あったことか。嫌だよ。いつか、殺し合うんだからさ。手の内なんて見せるかよ。

 ……こほん。
 こぼれそうな殺気を笑顔でごまかし、返答を避ける。

「ありがとうございました」

 階段が終われば手を離す。中々に男らしい手だった。よく鍛錬している。
 護衛騎士とか兵舎の様子はきちんとしているんだよね。見た限り。

 あの場だけが特別なのか、王の周りが異常なのか、よく調べないと。

 さて、ついたバルコニーだけどね。
 先客が邪魔すぎて、どうすればいいのかわかりません。

 無言で押しのけて落とせばいいのかな?

 ちらと国王夫妻のように振る舞っている王と愛人を見る。中々盛り上がっているね。
 この中に私が出るの?
 本気?

 これって泣いて部屋に帰ればいいの?

 あ、いいかも。それで気鬱になったとか部屋にこもりっきりでいれば、ジニーもジンジャーもあちこちいける。

 そうしよう。

 バルコニーに一歩踏み出し、二人の後ろに立つ。
 二十数えたら撤退。
 涙目の準備に瞬きをやめる。

 皆が注目し、シンと静まりかえる。

 よしっ!

 裾を翻して、バルコニーから去る。振り返った国王には涙目の顔がきっちり見えただろう。
 嘘だろみたいな顔をしていたのが、引っかかるが、気にしない。

 かくして、私は引きこもりの王妃の称号を得たのだった。
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