ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おうちにかえりたい編

閑話 ある財務卿の独白。

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注)本編の十年くらい前のお話です。




月下の3巡目

 国王陛下より財務卿を任命される。若輩者の大抜擢と言いたいところだが、財政破綻寸前の国家では罰ゲームだ。
 みんな逃げた。

 僕も逃げたかった。

 がしっと肩をつかんで人の秘密を盾に脅してきた。
 悪人ーっ!

月下の4巡目

 今日も陛下に呼び出される。未だに独身なので、側に侍りたがる女性を押しのけてのお呼び出し。何か不穏な噂が……。
 今日も今日とて金勘定である。
 陛下も好きね。

陽月の2巡目

 えらい剣幕で呼び出されたと思えば、予算の話だった。
 研究予算? そんなの聞いてませんし、出せませんよって言ったじゃないですか。
 今必要? 病人減らすとか研究するの?

 まあ、人口が増えないと税収も増えませんし、構いませんが、僕が出せる金額はこれですよ?

 絶望したって顔されても。

 うーん。
 妃殿下の費用がまるっと残ってはいるんですよ。
 そのまま流用はちょっと難しいので、代理人立てて、え、ちょ、ちょっとーっ!

陽月の3巡目

 ……陛下のやる気を舐めてた。
 斜め上にぶっ飛んでるのね。わかった。理解した。おーけー。

 で、このおっさんを女装させて嫁にするって正気ですか? 正気なんですね。
 マジで手段選んでらんないくらいマジでやばいんですね?

 わかりました。そこそこいけてるオバサンくらいには頑張ってみます。お仲間を募ってもよろしいですか?
 事情説明も? しときますよ。口止め料ははずんでくださいね。
 ああ、なんなら、……言うな?
 白けた顔で追っ払うだなんてっ!

 はい、では、大変、不自由かと思いますが、よろしくお願いします。
 お肌も綺麗ですし、ちょっとばかりダイエットすればいけるいける。大丈夫大丈夫。

 怖くないですよー逃げないでくださいねー。

陽月の4巡目

 展開が早すぎてついていけないけど、婚約状態まで持ち込んだ。
 予算、予算とせっつかれているので、投げやりに書類をえいって投げてやった。
 投げやりだけに。

 なんか、いらっ☆としたんですよね。
 なんなんですかね。

 おっさんはいけてるオヤジにクラスチェンジし、そこそこ妖艶な美魔女に化けました。怖いわぁ。
 声はごまかせないので、黙っていてもらっています。

 陛下は年上好きとか言われてますがね。違うんじゃないかなぁ。

氷月の3巡目

 暇。
 というわけではないけど、口から暇と出てきた。
 陛下の呼び出しない。
 というか、新しい嫁に夢中。その研究結果にうきうきしているのが遠目でもわかる。

 ……むかつく。

 何か書類に不備でも作ってしまおうかと脳裏をよぎるんだけど、それはさすがにプライドが許さない。

 ああ、でも、暇だ。

氷月の5巡目

 ……今年最後の日だった。
 でも、仕事だった。

 ブラック仕事はいけないのだと目の下に隈を作りながら、陛下が虚ろに笑う。

 ところで、結婚してくれないか? って?

 ……は?

 フィー様はよろしいので?
 いや、とても仲良いじゃないですか。え、あれ、男の友情だからと力説されても。

 僕はええと、このままでは無理なのでご遠慮ください?

 ショック! みたいな顔でふらふらと外出て行った陛下がちょっと心配だ。
 護衛がついているから大丈夫、か?

 ほっぺたが赤い。

 僕は、まあ、つまりは女なんだけど、お家の都合で男で通しているし、出生届けですら偽っている。
 ばれたらお家が消えるね。

 ま、最初から陛下はご存じだったけど。
 ああ、でも、あれもこれも女と思ってのことだったのか……?

花月の3巡目

 えー、実家がなくなり、僕も死んだ事になりました。
 意味がわからないのですが、別の家の養子になりました。

 両親は名前を変えて裕福な庶民として暮らしていくそうです。兄弟いなかったので、それでよいみたい……って。
 家名は王家が預かるそうで。

 悪いな、おまえを取られるの困るからさって。

 なに言ってるんでしょうね。
 新財務卿の娘にするとか意味わからないでしょう。

 僕は怒ってますからねっ!

暁月の4巡目

 なんですか。なんなんですか。
 兄弟をけしかけてくるとか卑怯じゃないですか。
 兄様がしょんぼりしているのとか言わせないでください。食欲ないのとか幼女に言わせて良いと思ってンですか!

 で、なんで寝込んでるんです?

 過労。

 ……ええと、なぜ?

 なぁんも考えたくなかったと。
 へらへら笑って言われると何でか殴りたくなります。

 あー、ちょっとは、悪いとは思ってますよ。

 だから、まあ、いいですよ。

 絆されちゃったんだから仕方ないんですよ。きっとそうなんですって。

 うわわっ! ちょ、ちょっとー!

 お医者様ーっ! はやくきてーっ!


雨月の1巡目

 ……まあ、雨は仕方ないですね。
 良いですよ。なんでも六月の花嫁は、幸せになれるとか言うのですって?

 意外にロマンチストですよね。ええ、知ってましたよ。

 あなたの夢にも願いにも、力の及ぶ限り、お手伝いします。

 ねえ、信頼してるって、頼りにしてるって、言って欲しいの。

 情けない顔しないの。

 ちゃんと大好きですよ。

 旦那様。

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