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おうちにかえりたい編
閑話 ある代役たちの悩み
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「いってらっしゃい」
オスカーは仮の主君を見送る。軽薄そうな笑みを貼り付けて。そんな顔しているなと姫様は文句をつけていたが、無視している。
白い目でユリアは見ていたが、改める気配はない。
その姿が扉の向こうに行き、見えなくなって彼はどかっとソファに座る。
「姫様が俺を殺しに来ている」
頭を抱えている。
まあ、ユリアもあれは姫様が悪いと思っている。
ジンジャーとして可愛いを作って、オスカーに最終確認をしたのだ。
「悪意はありませんよ」
オスカーは顔を上げてじろりと睨む。
ユリアは肩をすくめた。
向かいのソファに座り、少しは彼の主張もきてやろうと思う。オスカーが血迷ったら、ユリアが出来ることはほとんどない。
「だからタチが悪い」
オスカーは心底嫌そうに言う。
彼女の微笑みを求める者たちに言ったら刺されること請け合いである。
姫様が執拗に確かめるには理由がある。
自分に魅力はないのだと思っている節がある。だから、素の自分を武装で偽っている部分はあった。
彼女は可愛いに弱い。
言って欲しいときに失われた言葉だから余計に求めていると言っても過言ではない。故郷にいた頃は抑圧されていたのだろうなぁと最近の行動を見ていると思う。
ただし、性格が無慈悲なところは変わりない。
「ねぇ、かわいい? て、上目遣いとか、死ぬ。惚れたら殺されるのにうっかり堕とされそう」
そうなれば彼女に使い潰されるか、それとも別のことで命かけるか、である。
オスカーはわりとまともなのだなとユリアはちょっと驚いた。ちゃんと生きていたいらしい。
心酔としか言いようのない状態の人たちを何度か見てきた。
その人たちと比べればオスカーのちょっとした態度の悪さも気にならなくなる。姫様は元々礼儀にもうるさくないので気にしてもいないようだ。
「何その顔。俺は平和に生きていきたい。使い潰されるなんてごめんだ」
ローガン商会に雇われているのも給金が良いわりに危険が少ないからと言っていた。堅実、慎重と態度と見た目が一致していない。
性格はともかく使えると商会長には評価されている。
それもあってユリアは一緒に仕事はしたくないが、能力は評価していた。
「まあ、姫様はそのあたり躊躇しないから」
より目的を達成しやすい方法を選びがちだ。最良のために誰かがいなくなっても仕方ないと考える。
そこに情はあるが、考慮しない。
彼女の兄が欠けなく達成することを良しとするのとは対照的だ。今は歯止めがないのだから、好き放題するのだろう。
ユリアはちょっとだけ、この国に同情する。
「俺は俺の命の方が大事」
オスカーはきっぱりと言い切った。
ユリアもその点は同意する。たぶん、そんな気持ちでなければ、自分を使い潰してしまう。
「あなたに初めて好意を持てたわ」
「そりゃ、どーも」
ユリアはにこりと微笑んだ。
オスカーは耳まで赤くして、口元を押さえた。
「……反則だよな。ほんっと、勘弁してくれよ」
ぼやいた声をユリアは無視することにした。
姫様そっくりに化けていたことをすっかり忘れていた。
「仕事、仕事だ仕事」
ぶつぶつと念じているのが、おかしい。
「お茶でも飲みましょう? 用意して」
仕事と言うなら仕事を頼もう。
ユリアは姫様の仕草をまねる。
「……はい」
オスカーは何か言いかけたが、頭を振って穏やかな表情を浮かべた。
……なんだ。やればできるじゃない。
ちょっとだけきゅんとした。
ユリアはちょっぴりジニーに入れあげている自覚はある。姫様の代役状態で、ジニーになった姫様に傅かれでもしたら、かなりまずい。
オスカーを笑っていられる状態ではないのだ。
この一件以降なんとなく、仲良くなっていくのだが、それはもう少し先の話。
オスカーは仮の主君を見送る。軽薄そうな笑みを貼り付けて。そんな顔しているなと姫様は文句をつけていたが、無視している。
白い目でユリアは見ていたが、改める気配はない。
その姿が扉の向こうに行き、見えなくなって彼はどかっとソファに座る。
「姫様が俺を殺しに来ている」
頭を抱えている。
まあ、ユリアもあれは姫様が悪いと思っている。
ジンジャーとして可愛いを作って、オスカーに最終確認をしたのだ。
「悪意はありませんよ」
オスカーは顔を上げてじろりと睨む。
ユリアは肩をすくめた。
向かいのソファに座り、少しは彼の主張もきてやろうと思う。オスカーが血迷ったら、ユリアが出来ることはほとんどない。
「だからタチが悪い」
オスカーは心底嫌そうに言う。
彼女の微笑みを求める者たちに言ったら刺されること請け合いである。
姫様が執拗に確かめるには理由がある。
自分に魅力はないのだと思っている節がある。だから、素の自分を武装で偽っている部分はあった。
彼女は可愛いに弱い。
言って欲しいときに失われた言葉だから余計に求めていると言っても過言ではない。故郷にいた頃は抑圧されていたのだろうなぁと最近の行動を見ていると思う。
ただし、性格が無慈悲なところは変わりない。
「ねぇ、かわいい? て、上目遣いとか、死ぬ。惚れたら殺されるのにうっかり堕とされそう」
そうなれば彼女に使い潰されるか、それとも別のことで命かけるか、である。
オスカーはわりとまともなのだなとユリアはちょっと驚いた。ちゃんと生きていたいらしい。
心酔としか言いようのない状態の人たちを何度か見てきた。
その人たちと比べればオスカーのちょっとした態度の悪さも気にならなくなる。姫様は元々礼儀にもうるさくないので気にしてもいないようだ。
「何その顔。俺は平和に生きていきたい。使い潰されるなんてごめんだ」
ローガン商会に雇われているのも給金が良いわりに危険が少ないからと言っていた。堅実、慎重と態度と見た目が一致していない。
性格はともかく使えると商会長には評価されている。
それもあってユリアは一緒に仕事はしたくないが、能力は評価していた。
「まあ、姫様はそのあたり躊躇しないから」
より目的を達成しやすい方法を選びがちだ。最良のために誰かがいなくなっても仕方ないと考える。
そこに情はあるが、考慮しない。
彼女の兄が欠けなく達成することを良しとするのとは対照的だ。今は歯止めがないのだから、好き放題するのだろう。
ユリアはちょっとだけ、この国に同情する。
「俺は俺の命の方が大事」
オスカーはきっぱりと言い切った。
ユリアもその点は同意する。たぶん、そんな気持ちでなければ、自分を使い潰してしまう。
「あなたに初めて好意を持てたわ」
「そりゃ、どーも」
ユリアはにこりと微笑んだ。
オスカーは耳まで赤くして、口元を押さえた。
「……反則だよな。ほんっと、勘弁してくれよ」
ぼやいた声をユリアは無視することにした。
姫様そっくりに化けていたことをすっかり忘れていた。
「仕事、仕事だ仕事」
ぶつぶつと念じているのが、おかしい。
「お茶でも飲みましょう? 用意して」
仕事と言うなら仕事を頼もう。
ユリアは姫様の仕草をまねる。
「……はい」
オスカーは何か言いかけたが、頭を振って穏やかな表情を浮かべた。
……なんだ。やればできるじゃない。
ちょっとだけきゅんとした。
ユリアはちょっぴりジニーに入れあげている自覚はある。姫様の代役状態で、ジニーになった姫様に傅かれでもしたら、かなりまずい。
オスカーを笑っていられる状態ではないのだ。
この一件以降なんとなく、仲良くなっていくのだが、それはもう少し先の話。
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