ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おうちにかえりたい編

王妃様は暗躍出来ない 前編

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 王妃の冠を手にしたけれど、やはりすることはない。

 特に仕事はないらしい。王と会う事もない。一度面会を申し込んだが、音沙汰無しのまま今日で三日目。

 しかし、お飾りとはいえ王妃となったからには、と言うわけでもないが侍女が増えた。良家の子女なのだが、やる気はないらしい。もっぱらジニーが現れるかに注意が逸れている。

 ジニーの格好をしたオスカーが一度遭遇して、這々の体で逃げ出していた。微笑んだだけで勘違いされそうだったとの証言である。

 仕方ないのでジニーを城下に下げたことにした。自動的にオスカーもこちらには付いていない。城にはいるので困ったら手助けしてくれるらしいが、あまり期待すんなと言っていた。

 こちらの手駒を減らす方法なら中々やりおるな、と言ったところ。
 護衛は別のものがついている。
 これも困ったことになっているが仕事はしてくれる。こちらは逆にサボれよと言いたい。

 結果、ユリアはジンジャー役のままで、私も姫様のままだ。女というのは見ていないようで見ていたりする。化粧の違いやちょっとした違和感で感づかれたりもするものだ。

 入れ替わりのことはばれていないとは思うが、私たちの行動制限をかけてきたと見た方が良いかも。
 ジンジャーはわりと好きに出歩いていたが今は出歩ける状態ではない。
 この役に立たない侍女たちがいる以上、部屋を空けたくはないからだ。漁られないとも限らない。

 しかし、この部屋にこもっても良い事はない。

「どうしたものかしら」

 手慰みにする刺繍の手を止めて、小さく呟く。ユリアが聞きつけたようにうっすらと笑った。
 絞めていいですかとこの数日で何度聞いたか。さすがに殺人事件は困ると言ったら、ばれないようにやりますと言っていた。

 中々にストレスが溜まっているらしい。
 限界になって契約終了を言われては困ってしまうから、何とかしたいところではある。

 姉様は愚か者も役に立つものよ。と笑って言ってらした。
 どう扱うかで御しやすいかどうか見分けるの。だから、仕掛けられたら警戒しなさい。

 さて、それを踏まえてこの役に立たない人たちをどうしたものか。

 部屋の中を見回す。扉の内側に立つ護衛騎士はきらきらしていた。近衛兵団の副団長の肩書きを持つジャックと言う男。
 ユリアにちょっかいを出しては、反応を見ている。

 最初にユリアが素っ気なくしたのがいけなかった。他の侍女たちのようにぽーっと見とれていれば良かったのだ。

 手に入らないものを欲しがるタイプ。
 しかも、ちょっかいを出すことで相手が困ることを知っていても放置する。

 俺が助ければいいじゃんと言い放ったときからユリアの敵となったのだが、彼は知らない。

 顔はいいじゃないと言えば、私はジニー様のような方がよいですっ! と力説された。
 ……うん。ユリアもそうだったの。気がつかなかった。

 失言に気がついたのかユリアは気まずそうだった。

 あれは現実に存在しないから良いのであって現実にいたら嫌になると思うよ。とは言っておいたけど、どこまで響いているやら。

 うーん、でも、ちょっとオスカーを気にしているように見えたんだよね。時々、ぽーっと見て首を振って現実に戻ろうとしているの見てたもの。

 式典の時に正装させて真面目な顔で立たせようとしたら、ユリアが真っ赤な顔で全否定していたし。あの時は思わずオスカーと二人で顔を見合わせてしまった。

 何人堕とすつもりですかってのもすごい言い方ではある。褒められてないよね。人を女誑しみたいに言わないで欲しい。
 不可抗力だ。

 うつむきがちでも物憂げで色気が溢れていたと言われていたらしい。これも侍女たちのうわさ話から知ったことだ。

 色気。
 私にはないな。

 ……それはさておき、それなりにジャックという人は人気があるそうだ。お話をしたがるくらいには。

 邪魔者同士、仲良くお話していてもらう方が良いだろう。

 ユリアと小声で打ち合わせをして、ジャック攻略に挑む。
 護衛騎士は二人。扉の向こう側にいる人も呼び出してもらった。

「書庫に?」

 面食らったような顔をされた。当たり前だろう。今まで一度も移動を申し出たことがない。

「ええ、その間の留守を任せたいのです」

 ユリアがちらりと他の侍女たちを見る。目線でいいたいことは伝わったようだが、難色を示される。

 護衛騎士は二人一組で、どちらかが常に扉の内側と外側に立つことになっている。ジャックの相棒は日替わりである。

 今日は見たことのない青年だった。名乗られた気もするけど、もう忘れた。全部、騎士様で通すつもりなので困りはしないだろう。たぶん。
 ……でも誰かに似ているような気もする。

「しかし、カイルに任せるのは」

 自分が付いていくと言い出しそうだ。

「弟も呼んで良ければ、大丈夫じゃないかな」

 のんびりとした声で青年が助け船を出してくれた。

「えー」

 テンションだだ下がり。
 そんな、えー、だった。
 貴人の前でそんな態度ってどうなのよ。ウィルがものすごくまともに見えてきた。姫様の前ではそれなりに取り繕っていたんだなって。

 カイルと呼ばれた青年はぱちりとウィンクをしてみせたから、こっちもあんまり真面目じゃなさそうなんだよな。

「お願いします」

 私からもだめ押しをしておこう。あまり、命令はしたくない。そんな印象をつけたくないのだ。

「姫になんかあったら俺たちが死ぬの。良く覚えておいてね」

 ユリアの方にそう言う。出ればなにかあるかもしれないとはっきり言っている。
 やっぱり毎日付けているだけあってそれなりには強いらしい。そして、カイルはそんなに腕が立つほうじゃないらしい。

 そして、城内も危険のようだ。

「あら、姫君を守って死ぬのは浪漫ではありませんの?」

 ……ユリア、君のそう言うところが、興味を引かせるんだと思うんだ。ジンジャーもそんなこと言いそうだけどね。
 あとで困るのはユリアだと思うんだよ。

 彼はジンジャーの顔をユリアで覚えてしまったから、窓口は固定される。

「ライルを連れてきて、それからだ」

 ……おや? 困った子が来ることになった。

 急遽、私はベールを被る事にした。外では恥ずかしいなどと言ったが、さすがに並ぶとバレそうな予感がする。

 ライル少年は、おずおずとした様子でやってきた。
 そして、おそらくは兄であるカイルを見て目をつり上げた。なぜ巻き込まれたかわかったのだろう。

「よろしくね」

 彼が何か言い出す前にユリアがにこりと笑った。多少は練習しただけあって似た感じにはなっている、はずである。化粧でもかなり寄せたからいけるはず。

「う、うん」

 真っ赤になって黙ったから効果はあったようだ。

「年上ねぇ」

「ば、ちがっ!」

 ぼそぼそ言い合っている兄弟。兄にはちゃんと反抗期しているのか。ちょっと安心した。物わかりが良すぎて物騒になってしまった妹が一匹いるのでちょっと心配だったんだ。

 その一方で生ぬるい視線を向けられたけど、知りません。

 いやぁ、そうかなぁと思う時もあったけど今後も気のせいとして扱う事にしています。

 実態を知ったらトラウマものでしょう?

「じゃ、行ってらっしゃい」

 妙ににこやかに送り出された。……あとでカイル、ライル兄弟が絞められないか不安になってくる。
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