ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おうちにかえりたい編

ひとり。 後編

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 朝食はサンドイッチ。眠い目をこすってなぜにこんなことをと思いながら、厨房に顔を出して作ってきた。
 砥石と言われていたことを忘れていたせいでもあるんだけど。
 色々あって忘れかけていたメイド長へのねぎらいの一品も頼んでおいた。胃痛に聞くというお茶と眠りにつきやすくなるという話のお茶。どちらも伝聞なのは私がお世話になったことがないからだ。

 おいしくないと聞いたので、花の砂糖漬けも少し付けた。一緒に食べてはいけませんと重々しい先達の一言を添えて。

 そんな事を思い返しながら、両手でもってぱくっとしたら、驚愕の目で見られた。え、なに? 手で掴んで食べないの?
 いつもよりお上品に小さめと意識したけど。

「……姫様って、あんまりお姫様って感じしない」

 ぼそぼそとソランがライルに言って制裁されていた。……否定はしないが、やはりそれは身内だけでやってくれんかね?

 少年たちは少し離れたところに三人で座って食べている。同席はさすがに無理と断られた。

 結果、財務卿(ランカスター)と二人並んで食べているわけだ。向かい合うのは動揺されてしまい、それに落ち着いたがもう一人座れそうなくらいは空いている。

「おいしいですよ?」

「毒味を済ませずに食べるのは……」

 ……あ、そっち。

「ジンジャーが作ってくれました。ええと、では、こちらを食べます?」

 食べかけで悪いが、それなりにお偉いさんだった。場合によっては兄様より偉かったからね。

 うーん。
 固まった。これは、あれだ。

「フリーズ」

 と兄様が言っていた。うんともすんとも言わないって。
 目の前で手を振ってみたけれど、動かない。

「申しわけございません。こちらをどうぞ。今のは姫様が悪いですからね」

 ユリアが介入してきた。

「ごめんなさい」

 どこがわるいのよっ!と言える場面でもない。しょげた顔でサンドイッチを食べる。ほどほどおいしい。具材が良いっていいね。

 ぺらっぺらのハムとかどう切ったのか悩みながら食べるのも嫌いではないけど。

「い、いえっ。驚いただけで」

 再起動した。
 何となく無言で食べている。平和だ。

 姫様としては二つ目のサンドイッチは可能であるか、と悩みながらユリアがいれてくれたお茶を飲む。
 前よりちょっとおいしくなった気がする。
 それより隣からの視線にどう応えるのが正解なんだろうか?

 どうしました?と言いたげに微かに微笑んで、首をかしげる。

「姫は、お迎えを待たれているのですか?」

 意外な質問が財務卿(ランカスター)からされた。
 黙って耐えているというのが一般的噂。国に帰ればいいのにとか、国に帰れない厄介者なのだとか色々言われている。

「どうして、そう思うのですか?」

「私には年の離れた妹がいます。婚家で、こんな扱いされたら、実家に帰ってこいと怒鳴り込みに行きます」

 ……後ろで、ソランとイリューが肯いている。ライルだけがそうなのと首をかしげている。彼には姉妹がいないらしい。ああ、だからジンジャーに翻弄されるのか。

 となると示唆されたのは、穏便な手段としてのお迎えじゃあないんだろうな。

「仲がよろしいですね。待ってはいませんよ。帰ろうと思えば、帰れます」

 という事実だけは伝えておこう。変に隠し立てすると良くない気はする。
 気が進まなくても、これだけは絶対、良くないと思ったことは避けろと兄様にはうるさく言われている。
 確かに、最悪なことが起こったりするから侮れない勘なんだ。

「うるさがられているだけですが、ね。そうですか。お待ちではない」

 彼は少し思案するようにお茶のカップをゆらしている。

「わかりました。殿下の予算はありますので、購入したいものがあればご相談ください」

「あるの? 予算」

 逆にびっくりした。
 持ち出しというかローガン頼みの所があったから、あった方がいいんだけど。手を付けるといろんな所から絡まれそうな予感がする。

「文句は言わせません。貴方には価値がある」

 この国に来て初めて、ヴァージニアが可哀想な姫様、悪役以外の評価を受けた気がする。
 持たせてもらったものを評価したにしてもなかったことにされていた今までとは比べものにならない。

 この時に無意識に笑ったみたいなんだけど、ユリアに後ほど確認されるまで気がつかなかった。


 もう少し話をしたかったが、財務卿(ランカスター)は護衛に隠れて出てきたということでイリューと一緒に帰って行った。

「姫様、あ、妃殿下って呼んだ方が良い?」

 ソランは残りのサンドイッチを抱えている。うむ。食べたまえ。

「妃殿下、って気持ちはしないわ」

「姫様。俺、いや、私たちにまで朝食をありがとうございます」

 ソランとライルが頭を下げた。
 ふたりのあたまをそっと撫でて、感触が違うなと思う。本当にシーバに似てた。

「気にしないで。ごめんね。大変なことばかりで」

 頭を上げた二人は顔を見合わせて神妙な表情で、膝をついた。

「今までの非礼をお詫びいたします」

「噂の通りの可哀想なお姫様かと思ってたんだ。本当にごめんなさい」

 ほんと、良い子たちで困ってしまう。
 だから、君たちが、どこまで気がついたか確認はしないであげる。

「いいのよ」

 私に悟られないように気を付けて欲しい。良い男のなるのを見られないのは残念じゃない?

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