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おうちにかえりたい編
その男、要注意につき 後編
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「だいたいは」
躊躇はなく、目を逸らしもしない。
ふぅん?
私のことを調べて、知って、それでも、なにも持たずに、人目のないところに来ると。
死にたいのかな?
そのぐらい、悪いことをしたと思ってはいると考えればいいのか。それとも私の後ろをきにしているかしら。
兄様のことまで知っているとしたら、この態度もわからなくもない。
「許しはしないけれど、あれは大したことではなかったの。
お互いに忘れましょう?」
彼の瞳の中の私が笑う。
あごに置いたままの手を頬に添える。そのまま頭を近づけた。
狼狽した表情と赤くなる顔を意外に思った。まあ、こういうのは勢いが大事。
「え、ちょ、ちょ……」
ごちん。といい音がした。
……ちょっと痛かった。
ぶつけたおでこを押さえながら立ち上がる。
「頭を打って忘れちゃったわ」
ね。
レオンは狐につままれたような顔でおでこを撫でている。赤くなっていた。
「ヴァージニア様」
ユリアが、呆れたように名を呼んだ。
「なぁに?」
「キスでもするかと思いました。うわーえげつない。めったざしだねっ! と思ったんですよ」
……それも考えたんだけどね。
良く覚えのある気配を感じたのでやめたよ。
置いてきたことを怒っているところにさらに追い打ちをかけたら、降りると言い出しかねない。
まだ、困るんだ。
オスカーが視界に入った。思ったよりは早かった。汗をかかずとはいかないくらいには急いだってことか。
「しないわよ。まだ、誰ともしたことがないのだもの」
これは本当。
信じがたいことを聞いたと見られるのはちょっと心外なんだけど。
家族は勘定に入れません。
同性もいれない。入れないったら入れないの。
賢明にも誰もそれを問うことはなかった。
「予定通り、送っていただきましょうか?」
あらためて庭を見れば、さりげなく配置されている使用人のふりをした騎士が、心配そうにこちらを見ている。
庭師のふりをしているものなど、立ち上がって腰に手をかけている。
殺気がだだ漏れの騎士がいればそうなるだろう。
オスカーも少しくらい抑えればいいのに。
「戻るわ。静まりなさい」
大きく息を吐いて。
「承知しました」
すぐに押さえ込めるのは優秀だと思うんだけど。その目が、裏切るのよね。
煮えたぎる怒りをぶつけられるのは遠慮したい。
ちらとレオンを見れば慌てたように首を横に振っていた。やめて、むり、と聞こえてきそうな顔だ。
こちらの考えが読めたというより、似た思考をしがちなんだろう。
にこりと笑えば、何かを飲み込んだように真顔になった。
「お手をどうぞ」
そして、何事もなかったように手を差し出す。
ごまかして、なんとかするつもりかな。
庭を案内して談笑してきましたという風を装い、にこやかに笑う。お互いの嘘を見ながら、そんなものないように振る舞って。
そうね、ちょっと楽しいわ。
「これは俺の考えでしかないので、それを念頭に置いて欲しいのですが」
前を向いたまま独り言のように彼は言う。
「王の周りに行けば行くほど、おかしくなっているんです。俺だってそうでした。ある日、突然、見えていなかった不都合が見えた」
淡々と感情を交えずに。
「側に行かれるときは気を付けてください」
そう言ったときだけ視線をこちらに向けた。心配のように見えたのだけど気のせいだろうか。
そうか。最初からおかしかったわけではない。しかし、おかしいと認知されていないままにここまで来てしまった。
人に出来ることではない。
できるなら、それこそ魔女か魔王だが、どちらも北方にいる。
ならば神しかおらず、最近の動向からすれば女神の加護が悪さをしていたという可能性が高い。
彼女にとって都合のよいように、操作されていた。
そう考えれば、一連のことはわかる気がした。
ならば、今から夢は覚める。
ランカスターやレオンは彼女から遠かったんだろう。覚めるのが早かった。
まあ、残念ながら、遅いんだ。
そして、新しい目的が出来た。
最終的に女神ぶん殴って、終わりにしようか。うん、そうしよう。闇の神におねがいしよう。
二度目もやらかしてくれたな。今度は容赦しない。
王は、正気ではなかったなんて言い訳しそうなので黙殺予定だ。
話を聞くとか聞かないではない。
許しを請え、なんて言う必要ない。
責任をとって首を落とすのが王の役目と兄様も言っていた。ここらで一度断絶していただこう。
魔女の血縁もふさわしくない。
しかたないから私がもらってあげてもよいけど、それにはもうちょっと準備がいるわね。
とりあえずは、彼女の外堀を埋めていくか。
「大丈夫」
「……それって踏みつぶすから平気って事ですね。俺、巻き込まないでくださいね」
大丈夫、それってフラグって言うらしいから。
「せっかく、使える人が手に入ったんですもの。利用しないわけないじゃない」
「普通言わないでしょう」
「あら、言わなくても伝わるならはっきり言った方が良いじゃない」
レオンは苦り切った表情で、舌打ちをして、黙った。
既に部屋の前だ。
これ以上の話は出来ない。
「ありがとう」
「いえ、騎士の勤めですので」
にこやかな笑顔、そうね、60点はあげるわ。ちょっと胡散臭いところが減点ね。
レオンは当たり前のように手を取り、そっと口づけた。
勇気あるなと思う。
純粋に感心する。
さて、姫君に戻らなくては。疲れたから、休むとでも言えばいいだろう。
「……何であの人、あんなにジニーみたいな雰囲気なんでしょうかね」
ユリアが首をかしげていたけど、まあ、似た者同士なんじゃないかしら。
つまりはあれも嘘。
夢がないから、言わないけどね。
躊躇はなく、目を逸らしもしない。
ふぅん?
私のことを調べて、知って、それでも、なにも持たずに、人目のないところに来ると。
死にたいのかな?
そのぐらい、悪いことをしたと思ってはいると考えればいいのか。それとも私の後ろをきにしているかしら。
兄様のことまで知っているとしたら、この態度もわからなくもない。
「許しはしないけれど、あれは大したことではなかったの。
お互いに忘れましょう?」
彼の瞳の中の私が笑う。
あごに置いたままの手を頬に添える。そのまま頭を近づけた。
狼狽した表情と赤くなる顔を意外に思った。まあ、こういうのは勢いが大事。
「え、ちょ、ちょ……」
ごちん。といい音がした。
……ちょっと痛かった。
ぶつけたおでこを押さえながら立ち上がる。
「頭を打って忘れちゃったわ」
ね。
レオンは狐につままれたような顔でおでこを撫でている。赤くなっていた。
「ヴァージニア様」
ユリアが、呆れたように名を呼んだ。
「なぁに?」
「キスでもするかと思いました。うわーえげつない。めったざしだねっ! と思ったんですよ」
……それも考えたんだけどね。
良く覚えのある気配を感じたのでやめたよ。
置いてきたことを怒っているところにさらに追い打ちをかけたら、降りると言い出しかねない。
まだ、困るんだ。
オスカーが視界に入った。思ったよりは早かった。汗をかかずとはいかないくらいには急いだってことか。
「しないわよ。まだ、誰ともしたことがないのだもの」
これは本当。
信じがたいことを聞いたと見られるのはちょっと心外なんだけど。
家族は勘定に入れません。
同性もいれない。入れないったら入れないの。
賢明にも誰もそれを問うことはなかった。
「予定通り、送っていただきましょうか?」
あらためて庭を見れば、さりげなく配置されている使用人のふりをした騎士が、心配そうにこちらを見ている。
庭師のふりをしているものなど、立ち上がって腰に手をかけている。
殺気がだだ漏れの騎士がいればそうなるだろう。
オスカーも少しくらい抑えればいいのに。
「戻るわ。静まりなさい」
大きく息を吐いて。
「承知しました」
すぐに押さえ込めるのは優秀だと思うんだけど。その目が、裏切るのよね。
煮えたぎる怒りをぶつけられるのは遠慮したい。
ちらとレオンを見れば慌てたように首を横に振っていた。やめて、むり、と聞こえてきそうな顔だ。
こちらの考えが読めたというより、似た思考をしがちなんだろう。
にこりと笑えば、何かを飲み込んだように真顔になった。
「お手をどうぞ」
そして、何事もなかったように手を差し出す。
ごまかして、なんとかするつもりかな。
庭を案内して談笑してきましたという風を装い、にこやかに笑う。お互いの嘘を見ながら、そんなものないように振る舞って。
そうね、ちょっと楽しいわ。
「これは俺の考えでしかないので、それを念頭に置いて欲しいのですが」
前を向いたまま独り言のように彼は言う。
「王の周りに行けば行くほど、おかしくなっているんです。俺だってそうでした。ある日、突然、見えていなかった不都合が見えた」
淡々と感情を交えずに。
「側に行かれるときは気を付けてください」
そう言ったときだけ視線をこちらに向けた。心配のように見えたのだけど気のせいだろうか。
そうか。最初からおかしかったわけではない。しかし、おかしいと認知されていないままにここまで来てしまった。
人に出来ることではない。
できるなら、それこそ魔女か魔王だが、どちらも北方にいる。
ならば神しかおらず、最近の動向からすれば女神の加護が悪さをしていたという可能性が高い。
彼女にとって都合のよいように、操作されていた。
そう考えれば、一連のことはわかる気がした。
ならば、今から夢は覚める。
ランカスターやレオンは彼女から遠かったんだろう。覚めるのが早かった。
まあ、残念ながら、遅いんだ。
そして、新しい目的が出来た。
最終的に女神ぶん殴って、終わりにしようか。うん、そうしよう。闇の神におねがいしよう。
二度目もやらかしてくれたな。今度は容赦しない。
王は、正気ではなかったなんて言い訳しそうなので黙殺予定だ。
話を聞くとか聞かないではない。
許しを請え、なんて言う必要ない。
責任をとって首を落とすのが王の役目と兄様も言っていた。ここらで一度断絶していただこう。
魔女の血縁もふさわしくない。
しかたないから私がもらってあげてもよいけど、それにはもうちょっと準備がいるわね。
とりあえずは、彼女の外堀を埋めていくか。
「大丈夫」
「……それって踏みつぶすから平気って事ですね。俺、巻き込まないでくださいね」
大丈夫、それってフラグって言うらしいから。
「せっかく、使える人が手に入ったんですもの。利用しないわけないじゃない」
「普通言わないでしょう」
「あら、言わなくても伝わるならはっきり言った方が良いじゃない」
レオンは苦り切った表情で、舌打ちをして、黙った。
既に部屋の前だ。
これ以上の話は出来ない。
「ありがとう」
「いえ、騎士の勤めですので」
にこやかな笑顔、そうね、60点はあげるわ。ちょっと胡散臭いところが減点ね。
レオンは当たり前のように手を取り、そっと口づけた。
勇気あるなと思う。
純粋に感心する。
さて、姫君に戻らなくては。疲れたから、休むとでも言えばいいだろう。
「……何であの人、あんなにジニーみたいな雰囲気なんでしょうかね」
ユリアが首をかしげていたけど、まあ、似た者同士なんじゃないかしら。
つまりはあれも嘘。
夢がないから、言わないけどね。
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