ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おうちにかえりたい編

騎士の帰還 前編

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 式典からさらに数日がたった。
 ちなみにあの日はオスカーからものすごい説教を食らった後に出かけることは不可能だった。
 いや、確かに置いていったよ。止めようと思えば止められたことだったからね。わかってないのはユリアだけ。レオンだって実は知っていて用意したと言われてもおかしくない。

 ジニーであったら一緒に連れて行っただろうけど、最近来たばかりのオスカーの前ではあの話はしなかっただろう。そう説明しても不服という顔をしていた。素直に心配したとか言えばいんじゃないかと言えば、頭を抱えていたけど。
 違ったかな。

 とにかく、その日から部屋に籠城している。

 ジャックやらその上の騎士団長からの謝罪という名の嫌味がやってきて嫌になったからだ。そちらの不手際をこっちのせいにするなと遠回しに言ってやった。
 ユリアではなく、私が言ったからとても驚いたような顔をしていた。

 言われるままのお姫様は、もうおしまいなのよ。
 とは言っても、言われてふさぎ込んでいると体裁を整えての籠城である。ふふっ、メイドたちからの心証はさぞかし悪いでしょうね。

 私に付いている侍女たちにもだいぶ冷たくあしらわれている。必要最低限の話のみで、しかも冷たい対応で戸惑っていた。

 私は会わなかったけど、一度、レオンが詫びの品として花束を持ってきた。そのときは逆に歓迎していたようで、落差に震えそうでした。とユリアが申告していた。

 無難に白系でまとめて黒のリボンで結ぶとか、わかってやってるのかね。それで光の神への供物を思い出したけど。
 手配したい意志は侍女たちに伝えたものの、彼女たちもどのように手配すればいいのかは知らないようで調べてあらためて報告してくれるそうだ。

 今のところ、静かなものだ。
 ここだけぽつりと取り残されたように。
 仕掛けるには、とても都合が良い。

 だから、ユリアを寝室に呼んで話をすることにした。

「ジニーを戻すんですか?」

 小声で驚くという器用な事をユリアはやってのけた。

「足場も固まってきたし、そろそろ、中枢に探りを入れたいの。ジニーなら最適でしょう?」

「ですが、ちょっと心配ですね」

 言ってからユリアは部屋の外への扉に視線を向ける。

「あの子たちは落ち着いているから大丈夫じゃない?」

 そう言ってもユリアの眉間のしわは寄ったままだ。

「試してみます? 姫様の用事で呼び出されて、挨拶しに来たって言う設定で」

「あれ、出すの?」

「しかたないんじゃないですか」

 偽姫様再来。
 今度は音声も付くよ。

 そんなわけで、早朝にオスカーを呼び出した。彼も一応、朝は鍛錬に出ているらしい。朝早くに出歩いてもおかしくはない。

「俺、夜型なんですけどね」

 苦情を言われたが、無視する。夜には夜で、昼型とか言い出すだろうから。
 ジニーを戻すかどうか決めるために一度試すと説明すれば、顔をしかめた。

 一度オスカーに城から出てもらって、ジニーに変装し、城にもう一度入る。
 で、途中で私と入れ替わり、城から非正規の方法で出て、戻ってくると。

「……俺がひたすらめんどくさいだけじゃないですか」

 最初と違って、それなりに知られているのだから黙って出入りできるはずもない。私が、オスカーの振りをするのは無理なので諦めていただきたい。

「秘密の通路教えてくれるなら、一人でするけど」

 この間の道は、城内のみなので使えない。残念である。

「それはダメ」

 二人揃って言わなくても。
 ごにょごにょと今度は私に聞かせたくない話を二人でしている。断片は聞こえなくもないけど、なんというか、いちゃついているようにしか見えない。
 ユリアがいつものユリアなのが幸いである。
 ジンジャーに化けた後だったら、自分がいちゃついているのを客観的に見るはめになる。何が悲しくてオスカーといちゃつくのか。
 私にだって選ぶ権利はあるだろう。

 決着がついたらしい。

 暇だったので、お茶をいれ終わるくらいには時間がかかった。

「ユリア、姫が入れた方がおいしいってどういうこと?」

 オスカーがお茶を飲んでは言わなくても良いことを言ってユリアの怒りを買っているが、どうも楽しんでいる節がある。
 まあ、痴話喧嘩なんて始めなければいいんだ。
 物理的に部屋が崩壊する。

「通行証はどうなってるの?」

「預けてあるからあっちで入れ替わる事にしますよ」

「じゃ、よろしく」

 こっちは気が滅入るバラバラ死体組み立てがあるんだ。
 偽姫が入っている箱をのぞき込んだオスカーがうわーという顔をして去って行った。

 ……オスカーってジニーの姿でふらふらしているのは、容認するんだ。ジンジャーでもちょっと心配みたいな顔していたことがあったけど。
 まあ、ジニーだし。

「なんか、殴りたい」

「奇遇ですね。私も思いました」

 たぶん、理由は違う。
 私は頭を持ち上げて、見つめてみる。

「似てる?」

「……ちょっと気持ち悪いほど似てるんですけど、何でそこまで入れ込むことになったんですか」

 傾けるとちゃんと目も閉じる。ただ、今見るとまだ明るい青だった。今は、闇のように暗い青。

「本当は顔はなかったらしいんだけど、冗談半分で作り始めたら、ここが違うとかここはこうだとか色々あってこうなったらしいわ」

 私も伝聞でしかない。
 ユリアも私が人形の製作に関わっていないことで納得がいったらしい。

「姫様なら、顔なんて点でいいじゃないとか言いそうで」

「……そうね」

 否定出来ない。
 まあ、ともかく役に立って良かったとおもうことにしよう。もう一度、似た偽物を箱に戻す。
 決行は二日後とひっそり連絡が来た。


 昼食後、思うよりも簡単に入れ替わって、ジニーとして自室に戻ってきた。
 まあ、かねてからのご希望のように、ユリアを労ってやろう。今は、他の侍女はいない時間で、護衛は部屋の外にしかいない。今までは室内にもいたけれど、お断りしたんだ。
 近衛は今、私に強くでることができないのでごり押しだ。

「おいで」

「は、はいっ!」

 で、目の前でぴしっと固まっているんだけど。ええとジニーってどうするんだっけ? ちょっと忘れてたな。
 ええと。これを言えば良かったんだっけ。

「可愛いね」

 少し控えめに笑ったら、ユリアが両手で顔を覆った。

「死ぬ。今までチラ見でよかった。直撃しんどい」

 ……。
 あれ?
 首まで真っ赤なんだけど。どういうことなの?

「ローガン様が本気のジニーがすごいって言ってたの思い出しました」

「あのさ、大丈夫?」

「大丈夫ではありませんが、逆効果なので放置で結構です。身悶えます」

 ……いや、ぶつぶつと大丈夫、まだ平気といっているのが怖いのだけど。

「このままでは話どころか卒倒しますよ」

「えー」

 慣れているはずのユリアでもこれってまずいよね。
 こんなだったかな。

「普通の表情で、よろしくお願いします。是非とも、笑顔を振りまかないでください」

「えー」

「賭けても良いですよ、他の侍女たちも落ち着くなんて無理ですって」

「じゃあ、招集かけようか?」

「姫にはもう挨拶済みという設定で良いですか?」

「うん」

 ユリアが妙な顔をしていたけど、なんだろう?
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