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おうちにかえりたい編
お茶会 前編
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ジニーは無事にお家に帰した。ついでにメイド長や厨房に顔を出して、時々世話になるかもと挨拶はしておいた。
オスカーに戻ったばかりなのにとぼやかれたけれど、諦めてもらう。ついでにローガンへの伝言を頼んだが、なにすんのと言わんばかりの表情をされた。
偽姫様のほうも何事もなかったようで重畳。ついでに確かめた少年たちの動向も間違っていなかった。
ただ、レオンはウィリアムがいないって事を知らせてこなかった。
急に北方に発ったと言われた。狐につままれたような顔になったのは仕方がない。誰にも挨拶にこないとは、よっぽど急いでいたんだろう。
そう思って、少し頭を抱えたくなった。
そのくらいは親しいだろうと無意識に考えていた。
ずいぶんと好意的なことで。
ため息一つでそれを忘れてしまおう。
急に北方に発つとは異常事態ではないだろうか。従者も置いていくと言うのならば強行軍なんだろうな。ソランには悪いが、彼にはそれほどの体力はまだない。
あるいは、今後のために残した可能性も否めない。
ランカスターの方は、休むの休まないのと大げんかをしたあげくにイリューが一時下げられたという話だ。
……ブラック労働よくない。
苦言の手紙とよく寝られるお茶を届けさせた。メリッサとランカスターは共通の知人を介しての知り会いということで頼んだ。
彼女はイリューとも知り会いらしい。
幼なじみの弟で、とぼそぼそと釈明していた。なるほど、それでイリューがこの部屋に来たときに通されたのか。
きちんと本人を保証できる人がいた。
何かあったら彼女が責任を取らされた。という意味でもある。
寝る準備をしていたときに、ユリアがメリッサの幼なじみのかたは最近亡くなったようなので、つっこまないでくださいね、と釘を刺してきた。
……そう。イリューは全くそんな話はしていなかった。
兄弟を亡くすことは、どんな気持ちなのかしら。
私の兄弟はまだ生きている。死の淵に立ったけれど、まだ、生きていた。
もし、と思うだけで、心が冷える。私が私でなくなるような、あの感覚をまだ覚えている。
慌てたようにユリアに寝台に押し込まれたけど、どんな顔をしていたんだろうか。
「悪い夢が去るお薬です」
なんかものすごい悪いお薬みたいに聞こえるんだけど。一時期、お世話になった眠り薬だろうか。
ぐいぐいと押しつけてくるので、諦めて飲んだ。
「夜は優しいのですから、ゆっくりお眠りください」
誰かの手が頭を撫でた気がした。
翌日の昼にはジニーがやってきた、あるいは今後も顔を出すらしいという一報が城内を駆け巡ったらしい。主に女性間で。なんとなく浮ついている雰囲気がする。
どこかで強化しただろうか?
首をかしげる私にユリアが言いにくそうに、理由を説明した。
「姫様が手入れされてつやつやなので、結果ジニーもきらきらしてました。
困っていたら声をかけ、微笑まれたら笑顔を返し、手を振られたら振って上げたらしいですね」
「そうだけど。いつもと変わらないよね」
「確かにそうですね。割増のきらきらでしょうか」
二人で首をひねってもしかたない。昼食後は誰かが、食器などを片付けに行っている。基本的にこの時間に部屋に残るのはユリアだけだ。
部屋の外には護衛がいるが、最近は二人に増えた。その上、庭のほうにも一人立っている。
庭の方は暇って顔でよく鍛錬とか座ってたりとかする。本を読んでるのも見かけた。
どうも非番の黄の騎士団の人らしい。仕事じゃないし、庭は開放されているからとごねてこうなったらしい。
彼らが護衛に付こうとすると近衛ともめるからね。
ライルの采配なんだか、下が勝手にやっているのかはわからないけど。
時々、内緒で飲み物や軽食を提供しては餌付け中だ。4,5人くらいで入れ替わりらしいが、顔を覚えることは出来なかった。一応、姫君は顔を出さないことになっているので。
「なにか、動きはあったかしら?」
「朝はありませんでしたね。なにかあるとしたら、マリーゴールドが帰ってきてから教えてくれるでしょう」
相当、ご機嫌斜めでしょうね。
ユリアがげんなりした顔をしていた。マリーゴールドは機嫌が悪いと物言いがちょっときつくなる。いつも押さえている部分の制御が甘くなるという感じで。
ごめんね、庇うと余計ダメなのがわかったから窘めるくらいにしとくわ。
それでも時々涙目で逃げていくので、困るんだけど。
「二番目の妹(レイラ)みたいな雰囲気がするのよね」
そんな話をしていたら、遠くからだだだっと今まで聞いたことのない音が聞こえてくる。
ばあんと扉が開いた。
涙目のマリーゴールドが。
「こんな侮辱はありませんわっ!」
と叫んだ。
なにがあったわけ? と冷静に聞くのは姫様らしくないかと困惑を顔を維持する。
まあ、絡まれたんだろうけど。
「リボン曲がっているわ」
ユリアが呆然とどうでも良いことを言い出した。いや、確かにきちっとしている彼女らしくない。
「いいんですのっ! 姫様に使われるジニー様が可哀想とか何様のつもりですのっ!」
え、そっち方面。とちょっと面食らったのはある。素敵だから取り上げようとかその方面?
無理。仮にも王妃直属だよ。と正直な感想が出てくる。相手によってはやってやっても良いけど。
「ふさわしいとかそう言う話ではないじゃない。どこから、聞いたの?」
ユリアが呆れた顔を隠さない。
そこでマリーゴールドがわたしの存在に気がついた。いつもは昼食後は寝室にいることが多いから油断していたんだろう。
「申しわけございません」
きっちりと猫をかぶった。先ほどまでが幻かと思うほど淑女に化けている。うん、すごいな。
「聖女様から直接お言葉を賜りましたわ」
そんな淑女が早速言いつけているけどね。中々、良い性格しているわ。
困ったような顔は維持するけど、簡単にひっかかりすぎではないだろうか。都合が良すぎてちょっと躊躇う。
もう少し、ジニーには焦らしてもらうことにしよう。
鳥籠もまだ用意できていないし。
「三日後にお茶会をするので是非いらしてくださいと。後ほど招待状を送るとのことでした」
他の用件もあったらしい。
相変わらず急だが、これは意図的なものだろう。
「そう、ありがとう。悪いけれど、任せるわ」
衣装その他については人任せで良いから楽と言えば楽だ。
「お任せください」
打ち負かしてやります、と聞こえたのはきっと気のせいだと思う。思いたい。
「あ、服選定会もしなきゃですね。ごらんになります?」
「任せるわ」
そっちはやりたくない。大人しく部屋に引っ込んでおくので好きにしてちょうだい。
以前、資料室で借りた本でも読もう。
手紙も書いておきたい。レオンにウィルいないじゃないと不満をぶつけても許されるだろう。ついでにお茶会の件も伝えておこう。悪いと思うなら当日エスコートしに来いと。
窓を開けて外の護衛をちょいちょいと呼ぶ。彼は居間の方を気にしながらすっと寄ってきた。練度が高いなぁ。
これを抜けて本人を襲うのは奇襲以外、疲れそうな気がする。
「これをレオン殿に。秘密ですよ?」
彼は黙って肯いて去って行った。きちんとこちらの意図をさっしてくれるのが、ちょっと羨ましい。
居間では楽しげな笑い声とおしゃべりが聞こえてくる。ああ、女の子だなとなんとも言えない表情になったのもしかたない。
レオンからの返信は花束につけられたメッセージカードだった。早朝に窓際にあったので、気がついたのは私だけだった。
残念ながらユリアは夜更かし傾向で、朝は遅い。彼女に言わせれば、おかしいくらい早起きな私が悪いらしい。
知らせなかったのは悪かった。
変な誤解されたから部下に手紙を渡すのはやめてくれ。
そう書いてあった。誤解内容については記載はなかったので、首をかしげるだけだった。
赤いバラと白い小さな花を数輪、青と黒のリボンで花を作って結んであった。
器用だなとしげしげ見てしまう。あと字が綺麗だ。紙は何かの切れ端みたいなのに。裏側を見れば何かを書いて上から塗りつぶした跡がある。透かせば何か読めるかな。
「……暁の?」
なんかの暗号かしら?
お茶会までの間にランカスターから、ちょっと反省する、という内容の手紙が届いたり、イリューが元の場所に戻ったりという事があったが大体は平穏だった。
ついでにレオンからはエスコートって何事!? みたいな手紙も来たけど、黙殺した。まあ、冗談のような本気のような、どちらでもいいんだ。ちょっとジャックとの関係性を見たかっただけだから。
第一回衣装選定会議は白熱したようで、各自目当ての服は手にいれてはいたがちょっとだけぎくしゃくしていた。
ユリアが疲れたような顔で、久しぶりに女の社会を覗きましたと言っていた。
付き合わなくて正解だ。
そう思っていたらお茶会の前にやってきた。
「……これに白熱していたの?」
「そうです。似合わない色は簡単に終わりましたし、分配も和気藹々としていましたよ。きゃあきゃあと楽しかったです。そこは」
そこは、にとても力が入っていた。ユリアとひそひそと話し合って言う間にちゃくちゃくと服が並べられている。
各自自信のコーディネートを並べられてどれがよいかと決めねばならないらしい。
軋轢を残しそうなことやめて欲しいんだけど。
ちなみにユリアは辞退したそうだ。悟りを開いたような顔なので、きっと何か言われたんだろう。
容赦ないな。
店(じっか)に帰りますと言われても困るのでほどほどにして欲しい。
今日はお茶会のため、落ち着いた色にしたい、袖が汚れないように短い方がいい、など色々理由を付けて一点に絞った。なお、マリーゴールドが押した淡い赤のドレスにした。装飾品が多かったので、他の衣装から持ってきたり、髪型は選ばれなかった侍女に頼んだりと気を遣う。
私、お姫様生活そんなに送ってないので、こういう采配は苦手なのよ。兵士とか扱うほうが気楽だ。
部屋を出た時点でどっと疲れていた。今日はユリアだけを連れて行く。護衛はジャックらしい。
部屋で選ぶ一部始終を見ていたジャックはさすがに同情的な視線を向けてきた。
「お美しいですよ」
なぜだろうか。ものすごく労われたような気がする。
先導するように歩き出すのがちょっといつもと違う気がした。
レオンは来なかったな。まあ、いいか。
オスカーに戻ったばかりなのにとぼやかれたけれど、諦めてもらう。ついでにローガンへの伝言を頼んだが、なにすんのと言わんばかりの表情をされた。
偽姫様のほうも何事もなかったようで重畳。ついでに確かめた少年たちの動向も間違っていなかった。
ただ、レオンはウィリアムがいないって事を知らせてこなかった。
急に北方に発ったと言われた。狐につままれたような顔になったのは仕方がない。誰にも挨拶にこないとは、よっぽど急いでいたんだろう。
そう思って、少し頭を抱えたくなった。
そのくらいは親しいだろうと無意識に考えていた。
ずいぶんと好意的なことで。
ため息一つでそれを忘れてしまおう。
急に北方に発つとは異常事態ではないだろうか。従者も置いていくと言うのならば強行軍なんだろうな。ソランには悪いが、彼にはそれほどの体力はまだない。
あるいは、今後のために残した可能性も否めない。
ランカスターの方は、休むの休まないのと大げんかをしたあげくにイリューが一時下げられたという話だ。
……ブラック労働よくない。
苦言の手紙とよく寝られるお茶を届けさせた。メリッサとランカスターは共通の知人を介しての知り会いということで頼んだ。
彼女はイリューとも知り会いらしい。
幼なじみの弟で、とぼそぼそと釈明していた。なるほど、それでイリューがこの部屋に来たときに通されたのか。
きちんと本人を保証できる人がいた。
何かあったら彼女が責任を取らされた。という意味でもある。
寝る準備をしていたときに、ユリアがメリッサの幼なじみのかたは最近亡くなったようなので、つっこまないでくださいね、と釘を刺してきた。
……そう。イリューは全くそんな話はしていなかった。
兄弟を亡くすことは、どんな気持ちなのかしら。
私の兄弟はまだ生きている。死の淵に立ったけれど、まだ、生きていた。
もし、と思うだけで、心が冷える。私が私でなくなるような、あの感覚をまだ覚えている。
慌てたようにユリアに寝台に押し込まれたけど、どんな顔をしていたんだろうか。
「悪い夢が去るお薬です」
なんかものすごい悪いお薬みたいに聞こえるんだけど。一時期、お世話になった眠り薬だろうか。
ぐいぐいと押しつけてくるので、諦めて飲んだ。
「夜は優しいのですから、ゆっくりお眠りください」
誰かの手が頭を撫でた気がした。
翌日の昼にはジニーがやってきた、あるいは今後も顔を出すらしいという一報が城内を駆け巡ったらしい。主に女性間で。なんとなく浮ついている雰囲気がする。
どこかで強化しただろうか?
首をかしげる私にユリアが言いにくそうに、理由を説明した。
「姫様が手入れされてつやつやなので、結果ジニーもきらきらしてました。
困っていたら声をかけ、微笑まれたら笑顔を返し、手を振られたら振って上げたらしいですね」
「そうだけど。いつもと変わらないよね」
「確かにそうですね。割増のきらきらでしょうか」
二人で首をひねってもしかたない。昼食後は誰かが、食器などを片付けに行っている。基本的にこの時間に部屋に残るのはユリアだけだ。
部屋の外には護衛がいるが、最近は二人に増えた。その上、庭のほうにも一人立っている。
庭の方は暇って顔でよく鍛錬とか座ってたりとかする。本を読んでるのも見かけた。
どうも非番の黄の騎士団の人らしい。仕事じゃないし、庭は開放されているからとごねてこうなったらしい。
彼らが護衛に付こうとすると近衛ともめるからね。
ライルの采配なんだか、下が勝手にやっているのかはわからないけど。
時々、内緒で飲み物や軽食を提供しては餌付け中だ。4,5人くらいで入れ替わりらしいが、顔を覚えることは出来なかった。一応、姫君は顔を出さないことになっているので。
「なにか、動きはあったかしら?」
「朝はありませんでしたね。なにかあるとしたら、マリーゴールドが帰ってきてから教えてくれるでしょう」
相当、ご機嫌斜めでしょうね。
ユリアがげんなりした顔をしていた。マリーゴールドは機嫌が悪いと物言いがちょっときつくなる。いつも押さえている部分の制御が甘くなるという感じで。
ごめんね、庇うと余計ダメなのがわかったから窘めるくらいにしとくわ。
それでも時々涙目で逃げていくので、困るんだけど。
「二番目の妹(レイラ)みたいな雰囲気がするのよね」
そんな話をしていたら、遠くからだだだっと今まで聞いたことのない音が聞こえてくる。
ばあんと扉が開いた。
涙目のマリーゴールドが。
「こんな侮辱はありませんわっ!」
と叫んだ。
なにがあったわけ? と冷静に聞くのは姫様らしくないかと困惑を顔を維持する。
まあ、絡まれたんだろうけど。
「リボン曲がっているわ」
ユリアが呆然とどうでも良いことを言い出した。いや、確かにきちっとしている彼女らしくない。
「いいんですのっ! 姫様に使われるジニー様が可哀想とか何様のつもりですのっ!」
え、そっち方面。とちょっと面食らったのはある。素敵だから取り上げようとかその方面?
無理。仮にも王妃直属だよ。と正直な感想が出てくる。相手によってはやってやっても良いけど。
「ふさわしいとかそう言う話ではないじゃない。どこから、聞いたの?」
ユリアが呆れた顔を隠さない。
そこでマリーゴールドがわたしの存在に気がついた。いつもは昼食後は寝室にいることが多いから油断していたんだろう。
「申しわけございません」
きっちりと猫をかぶった。先ほどまでが幻かと思うほど淑女に化けている。うん、すごいな。
「聖女様から直接お言葉を賜りましたわ」
そんな淑女が早速言いつけているけどね。中々、良い性格しているわ。
困ったような顔は維持するけど、簡単にひっかかりすぎではないだろうか。都合が良すぎてちょっと躊躇う。
もう少し、ジニーには焦らしてもらうことにしよう。
鳥籠もまだ用意できていないし。
「三日後にお茶会をするので是非いらしてくださいと。後ほど招待状を送るとのことでした」
他の用件もあったらしい。
相変わらず急だが、これは意図的なものだろう。
「そう、ありがとう。悪いけれど、任せるわ」
衣装その他については人任せで良いから楽と言えば楽だ。
「お任せください」
打ち負かしてやります、と聞こえたのはきっと気のせいだと思う。思いたい。
「あ、服選定会もしなきゃですね。ごらんになります?」
「任せるわ」
そっちはやりたくない。大人しく部屋に引っ込んでおくので好きにしてちょうだい。
以前、資料室で借りた本でも読もう。
手紙も書いておきたい。レオンにウィルいないじゃないと不満をぶつけても許されるだろう。ついでにお茶会の件も伝えておこう。悪いと思うなら当日エスコートしに来いと。
窓を開けて外の護衛をちょいちょいと呼ぶ。彼は居間の方を気にしながらすっと寄ってきた。練度が高いなぁ。
これを抜けて本人を襲うのは奇襲以外、疲れそうな気がする。
「これをレオン殿に。秘密ですよ?」
彼は黙って肯いて去って行った。きちんとこちらの意図をさっしてくれるのが、ちょっと羨ましい。
居間では楽しげな笑い声とおしゃべりが聞こえてくる。ああ、女の子だなとなんとも言えない表情になったのもしかたない。
レオンからの返信は花束につけられたメッセージカードだった。早朝に窓際にあったので、気がついたのは私だけだった。
残念ながらユリアは夜更かし傾向で、朝は遅い。彼女に言わせれば、おかしいくらい早起きな私が悪いらしい。
知らせなかったのは悪かった。
変な誤解されたから部下に手紙を渡すのはやめてくれ。
そう書いてあった。誤解内容については記載はなかったので、首をかしげるだけだった。
赤いバラと白い小さな花を数輪、青と黒のリボンで花を作って結んであった。
器用だなとしげしげ見てしまう。あと字が綺麗だ。紙は何かの切れ端みたいなのに。裏側を見れば何かを書いて上から塗りつぶした跡がある。透かせば何か読めるかな。
「……暁の?」
なんかの暗号かしら?
お茶会までの間にランカスターから、ちょっと反省する、という内容の手紙が届いたり、イリューが元の場所に戻ったりという事があったが大体は平穏だった。
ついでにレオンからはエスコートって何事!? みたいな手紙も来たけど、黙殺した。まあ、冗談のような本気のような、どちらでもいいんだ。ちょっとジャックとの関係性を見たかっただけだから。
第一回衣装選定会議は白熱したようで、各自目当ての服は手にいれてはいたがちょっとだけぎくしゃくしていた。
ユリアが疲れたような顔で、久しぶりに女の社会を覗きましたと言っていた。
付き合わなくて正解だ。
そう思っていたらお茶会の前にやってきた。
「……これに白熱していたの?」
「そうです。似合わない色は簡単に終わりましたし、分配も和気藹々としていましたよ。きゃあきゃあと楽しかったです。そこは」
そこは、にとても力が入っていた。ユリアとひそひそと話し合って言う間にちゃくちゃくと服が並べられている。
各自自信のコーディネートを並べられてどれがよいかと決めねばならないらしい。
軋轢を残しそうなことやめて欲しいんだけど。
ちなみにユリアは辞退したそうだ。悟りを開いたような顔なので、きっと何か言われたんだろう。
容赦ないな。
店(じっか)に帰りますと言われても困るのでほどほどにして欲しい。
今日はお茶会のため、落ち着いた色にしたい、袖が汚れないように短い方がいい、など色々理由を付けて一点に絞った。なお、マリーゴールドが押した淡い赤のドレスにした。装飾品が多かったので、他の衣装から持ってきたり、髪型は選ばれなかった侍女に頼んだりと気を遣う。
私、お姫様生活そんなに送ってないので、こういう采配は苦手なのよ。兵士とか扱うほうが気楽だ。
部屋を出た時点でどっと疲れていた。今日はユリアだけを連れて行く。護衛はジャックらしい。
部屋で選ぶ一部始終を見ていたジャックはさすがに同情的な視線を向けてきた。
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なぜだろうか。ものすごく労われたような気がする。
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レオンは来なかったな。まあ、いいか。
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