ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おうちにかえりたい編

どこまでが本気かそれが問題。後編

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 それからそれほど間を置かずに使者がやってきたようだ。私は着替えをしていたのでわからなかった。
 簡易なドレスを身につけて装飾品もほぼ無しにした。ちょっと参ってる感は出ていると思う。

 王が来る前には居間に戻り、花束を手に取る。
 カードが挟まっているのに気がついた。

「……悪趣味」

 可愛い君に。

 それだけ書いてあった。お遊びに付き合うとは言っていたが、どこまでする気なのか。何か、理由はあるんだろう。
 私の知らない、まだわかっていない理由。

「姫様、無表情が怖いです。笑顔、笑顔ですよ-」

 ユリアがわたしの手からカードと花束を取り上げる。カードの文字を見たのか、えー、みたいな顔をしている。

「口説かれてますよ。どうします?」

 気のせいじゃないかな。
 きっと、たぶん、おそらく、そうだといいなぁ……。

 オスカーからの、なにしてんだ、おまえら、的視線が痛い。そろそろ王の到着である。

「久しいな」

 王は護衛を三人連れていた。一人だけ見たことがある顔があったが、名前までは覚えていない。

 無言で礼を取る。

 王にソファを勧め、私も向かい側に座った。なんだか不満そうな顔をされたんだけど、なぜだ。

 王の背後には護衛が立つ。扉の前にはオスカーが立ち、念のためか庭に出る方にも一人立ったようだ。
 ユリアは壁際にいる。いつもならお茶などの準備をするが、今日はお茶も出すわけにも行かない。
 王ともなれば毒味は必須だ。従者も従僕も執事も連れてないとかうちの兄様か。兄様は護衛も連れてないけど。
 兄様のほうがおかしいんだと思う。

「妙な噂を聞いた」

 王はそう切り出した。
 少し、こちらの様子を探るようにな視線を感じた。

「なんでしょう?」

 笑顔を貼り付けた。私は可憐なの。可愛いの。笑ってごまかせる。それを全面に押し出して。
 オスカーがそつなく顔を逸らし、王の後ろに立つ護衛たちもそれとなく視線を外していく。顔が赤いから効果は抜群だったようだ。

「アイリーンの悪い噂を流していると」

「まあ」

 悲しいというように目を伏せる。きゅっと両手で服を握るのも忘れない。

「わたしは、ここにずっと居りました。お話しする方もおりませんわ」

 小さく、囁くように。
 はっきりと発音しがちなんだけど、ちょっと気弱に揺れるように。

 ……苦手というより、強気に、揺るぎないようにと作っていた私とは相性が悪い。長時間は持たないから早く帰ってくれないかな。
 自分の領域に異物がいるのは不快だ。

「そうか、貴方たちの仲を違わせたいものもいるのだろうな。気に留めておこう」

 仲が良いと思ってらっしゃるので?
 そもそもどこが仲が良いと勘違いする場所があったんだろうか。

「最近お茶会をしたとか。妃同士が仲が良いのは良いことだと思う」

 いや、だから、それで仲が良いってなんで思えるの。
 ……そういえば、ここ、女性の身内いないんだっけ。綺麗に作られた女性像に騙されてるんじゃなかろうな。
 げんなりとした顔を出したくないので、ずっとうつむいたままだった。それがダメだったのかもしれない。

 急に隣に座ってきた。
 思わず立ち上がりそうになったが、設定、設定! と思いとどまる。驚いたように見るが、近い。
 体温を感じるほどに近いのは、ちょっと……。

 でも、まあ、顔は良いほうだよな。好みじゃないけど。

「あまり構わず寂しい思いをさせたな。時間を作ると言ったのに約束を違えてすまない」

 壮絶に現実から逃げていたら、手を握られていた。
 握るな。同意を取れ。そして、さらに寄ってくるな。

「美しい貴方に、思いを寄せる者も多いと聞こえてくる。近くに寄せてはいけないよ?」

 肩に触れて抱き寄せるとかなにそれ。
 触るな。

「貴方は私の妃なんだから」

 今すぐに、肉塊になりたい?

 私に触れて良いのは……。

 ユリアがまだ持っていた黄色の花束が、目に留まった。

「……お戯れを」

 すっと頭が冷えた。
 幼い頃からの刷り込みとは偉大だ。忘れたつもりで、ちょっとしたことで出てくる。幼なじみがなにをしたのか、ここに来てようやく理解してきた気がした。
 遠く遠く見えないほどに離れてやっと。

 やんわりと押し返して距離を取ろう。

「きちんとわきまえている方々です。臣下をそのように言われるのはいかがなものでしょうか」

 小さくてもきちんと訂正しておくことにしよう。私から寄ったわけでもないし、相手もそこまでの気持ちはないだろうと。

「少し、不安になっただけだよ。そう怒るものではない。さて、明日、昼食を共にしよう。アイリーンも呼ぶので仲良くな」

 無理言うな。
 表情には出なかったようで、儚い笑みが張り付いていた。逆に怖いとユリアにあとで言われたけど知るものか。

 それだけで、帰るかと思えばこんなことを言い出した。

「貴方は私の妃なのだから安心しているといい」

 ……なにを?
 首をかしげ、なにかしらとわからない振りをしてみる。いや、わかんないし。
 逆に毒殺だの暗殺者だのの危機が増すような現状で、なにを安心しろと。雇用関係上、裏切らないと確信しているオスカーとユリアが居なければ、中々に危険な状況だ。

 この人がこうじゃなければ、レオンにも罠をかける必要もなかった。
 なんか、むかむかしてきた。

「あまり煩わしいものがいたら知らせるといい。対処しよう」

「お心遣い感謝いたします」

 とかいっておけば、ご満悦なんでしょう?
 どこかでもこう言う手合いに会ったわ。顔が良いからって調子に乗って。先代って普通のおっさんだったから、なぜこんな息子なのか納得がいかない。
 似てるところあるの?

 ん?

 似てないんだ。まじまじと王を見るが、辛うじて目の色が同じかも?くらいしか感じない。
 そう言えば、家系図に彼らの名はあっただろうか。
 先代は白髪といったら白銀と訂正されたんだ。血が濃すぎて、他の色が出てこない、とも。

「どうした」

「失礼しました」

 ……なにを思ったか抱き寄せてきたので、恥ずかしがっている風で抵抗しておいた。
 普通のお姫様って、大変なのね。私、物理的に排除してきたからわからなかったわ。なにか対策考えておかないと意図しないときにやらかしそう。

 うーん。鳥肌。

 うつむいている間に立ち去ってくれたのは幸いだ。
 ユリアがばたんと音を立てて扉を閉めてきた。二度と来るな的な意図を感じるが、それは不敬とか言われるヤツ。

「……案外冷静ですね」

「修羅場になるかと思いました」

 オスカーが剣の柄に手をおいたままだ。

「ちょっと考え事をしていたから、かしら」

「なにを?」

 ユリアがきょとんとした顔で、首をかしげる。なぜか、かわいさに磨きがかかっている気がするのだけど。
 ちらっとオスカーを見れば、目を逸らされた。
 ああ、そう。

 何かかはわからないけど後ろめたいことがあるのね。

「うーん、今は何とも言えないわ。すこぉし、探ってからね」

 あの、兄弟は、本当に王の血縁か否か、なんて気軽に言って良いことではないでしょうし。



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