ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おうちにかえりたい編

姫様はまだおうちに帰れない

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 新たなる王の誕生は、静寂をもって受け入れられた。
 神々の祝福らしきものまで現れたら人に出来ることなどない。
 さらに私の婚姻の無効を宣言された。

 元より、闇の神の承認がなかったことを問題視された、ということになっているが元王を王配にするわけにはいかないからだ。

 呆然としている元王はそのまま監禁される。王の条件を満たさず、王位を継いだ罪を問われる。
 魔女との契約は必須事項なのだ。
 知らないと言っていたと聞いたが、本当に知らないとすればいつから計画されていたのだろうか。

 先王たるおっさんの執念深さを感じる。
 元々王の子ではないらしい。それなりの家からの娘からは、中々子供に恵まれない状態が続いていたそうで焦って、ということらしい。
 らしいばかりなのは、証言を確かめるすべがないからだ。

 先代の王妃もその他妃も既に亡い。
 王弟も同じような背景らしい。

 実子は魔女のみ。先王の妹の子がウィリアムだったが、入念に隠されたようだ。
 先代の魔女が、先王の妹、つまりはウィリアムの母だった。

 聞けばなるほどなと思う。
 穏便ではないものの内乱に近い状態から王位の交代を狙っていたようだ。

 聖女の乱入が筋書きを狂わせてきた。
 さらに、隠居を迫られて苦し紛れで出した提案が私との婚姻となれば、巻き込まれたとしか思えない。

 ついでに言えば、来るとは思わなかった、と強固に主張された。
 まあ、大方の見方としては私は幼なじみのところに囲われると思われていたから。全部、投げてきたけど。

 私の扱いについては、魔女と認識の齟齬により、王とするとか代理の王とするかについて決着がついていない。

 ウィルはさっさと北方に去って行った。本来のやるべきことを放り投げてきたと今度はソランを連れて行った。
 ついでに求婚されたが保留にしてある。
 ソランからは数年後も未婚だったらもらってやると言われた。

 王弟もその立場が微妙になり軟禁状態だ。

 現在、アイザック兄様に軍をまとめる仕事をお願いしている。今のままではどうにもならない。
 黒も黄も騎士団長がいない。
 ジャックがこき使われているらしい。苦情の手紙がやってきた。

 ユリアはまだ帰ってこない。
 オスカーから聞いたには、患者が言うことを聞かなくて困ると訴えているらしい。まあ、それはいいんだ。

 フィンレーは料理長と仲良くなり、なぜかメイド長とカイルが側に控えているという状況に。知らなかったけど、メイド長とカイルは婚約者なのだそうだ。
 ライルに聞けば、はぁ?と言ってたので家族も知らないらしい。
 いいのか、それ。

 ライルはジャックの補佐として復帰したようだ。時々、熱烈に見られているので、色々継続中のようだ。……大丈夫か?

 聖女様については、闇の神より通達があったので、時々ジニーになって会っている。落ち着いているようで、どこかおかしいのはそのまま。なにか赤毛に執着をされているような気もする。

 ランカスターとメリッサは先日婚約したそうだ。なにがあった。
 イリューが複雑そうな顔で報告してきた。
 俺の姉さんになるはずだったんですよ。でも、世話してくれる人がいた方が良いんで、きっと良かったんです。と。
 ちょっとだけ責任を感じる。確かに世話するように言った気がする。倒れたらまずいよね、と。

 イリューは青の騎士団に改めて入るそうだ。兄が見た場所に立ちたいと。ふと思いついて聞けば、兄も赤毛だったそうだ。そういえば、姫様に似た色ですねと言われた。
 遠い母方の血縁かもしれない。

 神官たちは神官たちの集いを結成し、共同の孤児院を建設する計画を立てている。北方から流れてきた孤児が多く連れてこられたことに起因していた。
 事情を聞きにイーサンに会えば、ついでに学校も作りますかと問題が山盛りにされた。

 ……なにか、私が考えていた王とは全く違うのだが。
 兄様が複数の妃による会議制をとっている理由を知った気がする。一人で決断するなど無理だ。

 元王のちょっと神経質そうな筆跡を見ていると彼なりに真面目にやっていたのだなと思う。夏の女神のあれこれがなければ、もうちょっとマシな関係になっただろうか。
 感傷めいているが、少し仕事に疲れているのだ。


「……片付けても新たに問題しか発生しない」

 毎朝、執務室と決めた部屋に行くのが嫌になる。
 減らしたはずの書類が増加している。
 同じようにうんざりした顔のフィンレーが後から入ってきた。兄様にべったりだったので、書類仕事は覚えたらしい。任せられないが、相談には役に立つ。

 あの日から半月しか立ってないのにこの有様だ。
 私が今、忙しいのは半年以上放置されていた北方関連についてだ。他のことはきちんと処理されていたので、しばらくはそのままで良い。
 まるで、忘れ去られていたように手つかずだった。

 ウィルもやることがあると戻るわけだ。途中でいなくなったのは逃がされただけでなく、本当に大変な状況だったからだ。
 それでも一時的でも戻ってきたのは……。

「ブラック労働反対」

 それ以上考えたくなくて、そんなことを口走ってしまう。

「そーだね。ねーさま。でも、やらないと人が死ぬから」

「……うー」

 死んだような目でフィンレーとため息をつく。そんなのどうでもよい、なんて言えたらよかったのだが。魔女と魔王の問題を片付けるまでは帰れない。帰ったらなにをされるかわからないし、一瞬で更地になるかもしれないんだ。

 わたしもちょっと丸くなったような気もする。
 私に色々やってた人たちはさらっと更迭したり、家を取りつぶしたり、牢屋にぶち込んだりしたけど。穏便と言えば穏便だ。
 正規の法に則ったやり方で済ませている。
 なのに恐れられているとは一体。お優しいでしょうに。

 お茶をことりと置かれる。

「ありがとう。あなたは、戻らなくて良いの?」

「お役に立てる所にいた方が良いでしょう」

 愛嬌あるタマゴ紳士ディラスは私の補佐としてついている。正確に言えば執事的な立場である。おそろしくスケジュール管理がうまい。
 黄の騎士団に戻られるのも困る。

 戻られたら数時間の睡眠や食事の時間すらなくなる。
 本気でありがたい。

 早く落ち着いてほしいものだ。

 私はため息をついて遠い故郷に帰ることを夢見た。
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