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聖女と魔王と魔女編
護衛騎士は暗躍する4
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「もう、役目を終えたじじいを追い立てるなど意味がないだろう」
意外にしっかりと返ってきた。
穏やかとさえ言える表情に殴り倒したくなる。
「人を散々振り回しといてそのいいぐさ」
「付き合わせたのは悪かった。来るとは思わなかったんだよ」
……。
人のことなんだと思ってるんだろうか。新生活、結婚生活にそれなりにうきうきしてきた私がバカみたいじゃない。
はぁっとため息をつく。
そうでもしないともうちょっと力を込めたくなる。肋骨折ると心臓刺さるから駄目なんだよな。
じゃあ、逃亡防止に足の骨でも。
「……もう処置済み」
先々代の王のぐるぐる巻きの下の足には添木があった。最初はきれいな包帯で巻かれていたのであろうが少し汚れている。
「切り落とせと仰せでしたが、ユリア殿がふざけんな誰が延命治療すると思ってるわけぇ? と言うと忠告したらこうなりました」
「兄様もユリアの言うことは聞くようになったね」
しみじみと強くなったなと感じる。強くしたのは誰だという話には目をつぶっておく。得難い経験だろう。
「二番目の奥方に来ていただけないでしょうかね」
「ユリアは先約があるよ。それに兄様みたいなのは嫌いだろうし」
死にたがりに見えるようだ。ちょっと違うのだけど、まあ、やってることは同じようなので認識の溝は埋まりそうにない。
そこをなんとかと言いだしそうな護衛を制し、先々代の王に注意を戻す。
不満そうな顔をしているのは、常に優先されてきた弊害であろう。
「何か御用?」
「それで、儂をどうするんだ」
「お部屋へご案内しましょう」
楽しい断罪の時間だ。
昨日の段階で先々代の王の部屋は確保していた。まあ、倉庫なんだけど。そこに予備のマットレスとシーツを敷いただけ。寒々しく暗いが牢屋よりましだろう。
私のベッドメイクの技術にウィリアムは驚いていたようだった。まあ、普通のお姫様はそんなことしない。
「床はかわいそうって言ったウィルに感謝するといいよ」
私は石の床で十分だと思ったんだけどね。それは人道的にどうかという話をするようなピュアさがちょっと眩しい。
すぐに正当な王として振舞えそうだ。早急に私の王冠を預けたいところだ。もちろん、結婚以外の手段で。
先代女王としてのんびりとした余生を歩みたいものである。
そうするためには先の処理が多すぎるのは問題だ。
部屋に置いてもらった椅子に座って足を組む。イリューは運び込んだことを告げるためにウィリアム達のところに行ってもらった。難色を示したが、命令して強制で。
「さて、お話しましょうか」
穏やかに、和解できるといいのだけど。
「……何を話すのだ」
「今、たのしい?」
「なに?」
「あなたの息子は二人とも死ぬの。私が殺すけど。
そう仕向けて、そういう結果が出るの。自分の手を汚しもせず、望みが手に入って嬉しい?」
この国にとって王家の血を残すというのは大事な話だ。その中から魔女が生まれ、魔王を監視する役目を負っているのだから。それを穢す行為は死よりも重い。
という建前と托卵されてイラつくということの合わせ技の内心はぐちゃぐちゃしていそうではある。最低でも十数年はこの結末に向けて準備していたと思うとぞっとする。
そして、それに利用されるのかと思うとむっとするが、私は私の理由と殺意で殺すので良しとする。それはそれ、これはこれだ。
「どうしたの?」
返答もないことに疑問をもって問いかけるが、それからしばらくの間、沈黙があった。
「……死ぬのか」
「ええ。きちんと殺してあげるから安心して。
ねえ、たのしいでしょ?」
望んだ未来を引き寄せたはずなのに、彼は苦い表情だった。
「今は幽閉していると聞いたが」
「先代の王は逃げ出したもの。許す必要はないわ。
今王都を空けているけど、その間にもう一人も王位を狙うでしょう? ならば、潰すことに躊躇もない」
情けをかけて、逃げた。
王位を簒奪されそうになった。
どちらもその死で贖うのはそれほどおかしなことでもない。
それなのに彼は愕然としたような顔をしている。意味が分からないな。
「ウィリアムが王になればよかったのだ」
「そうね」
俺は王の器じゃないと断るような男だから、似合っただろう。
私も王様やりたくない、だけど、これは面倒だからって話だ。魔女はそのあたりわかってて私に王冠をかぶせたのだろう。
権力に溺れるタイプでも、一人で抱え込んで病むほうでもないと。
「でも、時は戻らない。あなたの娘は私を選んだ。
私が王なのだから、私が裁定するの。この結果はあなたが望んだ先にある」
「違う」
「いいえ。あなたが望んで、願って、こうなった。
ああ、私がいなくても、きっとこうなったわよ。
彼はあなたが思うよりもずっと、完璧主義者だもの」
自らの主に傷をつけないように、汚名をかぶせ、名を歴史に残させる。そのくらいはやってのける。少しばかり罪悪感はあるようで、仕方ないよと言う。望みを果たさせるための通過地点として、切り捨てる。
彼にとって主とは自らの目的を果たすための駒でもあったのではないか。だからこそ、その先は見たくなかったかもしれない。
……まあ、あの人のことはよくわからないので、やはりどこかで幸せにやってほしいと思うが。
とにかく、先代の王に温情をかけた私は優しいほうだろう。利用できる手駒としてだとしても、別人として生きることを提示した。
まあ、王弟のほうは許さないことにしているのだけど。
……それにしても、魔女が王冠を乗っけるまではこの男は自信満々だったのに今は違うのはなぜだろう。逃げ出したのも不可解ではあるし。
見つけた経緯とかは私も知らないから、兄様に確認しないと。
「一応、私の意向は伝えたわ。
あとはご家族で話し合って? 意見は多少は聞き入れてあげる」
王族であるから、絞首も斬首もどうかと思うし。毒殺ならスペシャリストを紹介してあげることもできる。
至れり尽くせりではないか。
「……誰と、話すのだ」
「魔女はそのうち来るし、ウィルもまあ、呼んだから顔を見せるだろうし、先代はもうちょっとしたら来るんじゃないかしら」
恨み言の一つや二つ聞いてあげるのが務めじゃないかしらね?
意外にしっかりと返ってきた。
穏やかとさえ言える表情に殴り倒したくなる。
「人を散々振り回しといてそのいいぐさ」
「付き合わせたのは悪かった。来るとは思わなかったんだよ」
……。
人のことなんだと思ってるんだろうか。新生活、結婚生活にそれなりにうきうきしてきた私がバカみたいじゃない。
はぁっとため息をつく。
そうでもしないともうちょっと力を込めたくなる。肋骨折ると心臓刺さるから駄目なんだよな。
じゃあ、逃亡防止に足の骨でも。
「……もう処置済み」
先々代の王のぐるぐる巻きの下の足には添木があった。最初はきれいな包帯で巻かれていたのであろうが少し汚れている。
「切り落とせと仰せでしたが、ユリア殿がふざけんな誰が延命治療すると思ってるわけぇ? と言うと忠告したらこうなりました」
「兄様もユリアの言うことは聞くようになったね」
しみじみと強くなったなと感じる。強くしたのは誰だという話には目をつぶっておく。得難い経験だろう。
「二番目の奥方に来ていただけないでしょうかね」
「ユリアは先約があるよ。それに兄様みたいなのは嫌いだろうし」
死にたがりに見えるようだ。ちょっと違うのだけど、まあ、やってることは同じようなので認識の溝は埋まりそうにない。
そこをなんとかと言いだしそうな護衛を制し、先々代の王に注意を戻す。
不満そうな顔をしているのは、常に優先されてきた弊害であろう。
「何か御用?」
「それで、儂をどうするんだ」
「お部屋へご案内しましょう」
楽しい断罪の時間だ。
昨日の段階で先々代の王の部屋は確保していた。まあ、倉庫なんだけど。そこに予備のマットレスとシーツを敷いただけ。寒々しく暗いが牢屋よりましだろう。
私のベッドメイクの技術にウィリアムは驚いていたようだった。まあ、普通のお姫様はそんなことしない。
「床はかわいそうって言ったウィルに感謝するといいよ」
私は石の床で十分だと思ったんだけどね。それは人道的にどうかという話をするようなピュアさがちょっと眩しい。
すぐに正当な王として振舞えそうだ。早急に私の王冠を預けたいところだ。もちろん、結婚以外の手段で。
先代女王としてのんびりとした余生を歩みたいものである。
そうするためには先の処理が多すぎるのは問題だ。
部屋に置いてもらった椅子に座って足を組む。イリューは運び込んだことを告げるためにウィリアム達のところに行ってもらった。難色を示したが、命令して強制で。
「さて、お話しましょうか」
穏やかに、和解できるといいのだけど。
「……何を話すのだ」
「今、たのしい?」
「なに?」
「あなたの息子は二人とも死ぬの。私が殺すけど。
そう仕向けて、そういう結果が出るの。自分の手を汚しもせず、望みが手に入って嬉しい?」
この国にとって王家の血を残すというのは大事な話だ。その中から魔女が生まれ、魔王を監視する役目を負っているのだから。それを穢す行為は死よりも重い。
という建前と托卵されてイラつくということの合わせ技の内心はぐちゃぐちゃしていそうではある。最低でも十数年はこの結末に向けて準備していたと思うとぞっとする。
そして、それに利用されるのかと思うとむっとするが、私は私の理由と殺意で殺すので良しとする。それはそれ、これはこれだ。
「どうしたの?」
返答もないことに疑問をもって問いかけるが、それからしばらくの間、沈黙があった。
「……死ぬのか」
「ええ。きちんと殺してあげるから安心して。
ねえ、たのしいでしょ?」
望んだ未来を引き寄せたはずなのに、彼は苦い表情だった。
「今は幽閉していると聞いたが」
「先代の王は逃げ出したもの。許す必要はないわ。
今王都を空けているけど、その間にもう一人も王位を狙うでしょう? ならば、潰すことに躊躇もない」
情けをかけて、逃げた。
王位を簒奪されそうになった。
どちらもその死で贖うのはそれほどおかしなことでもない。
それなのに彼は愕然としたような顔をしている。意味が分からないな。
「ウィリアムが王になればよかったのだ」
「そうね」
俺は王の器じゃないと断るような男だから、似合っただろう。
私も王様やりたくない、だけど、これは面倒だからって話だ。魔女はそのあたりわかってて私に王冠をかぶせたのだろう。
権力に溺れるタイプでも、一人で抱え込んで病むほうでもないと。
「でも、時は戻らない。あなたの娘は私を選んだ。
私が王なのだから、私が裁定するの。この結果はあなたが望んだ先にある」
「違う」
「いいえ。あなたが望んで、願って、こうなった。
ああ、私がいなくても、きっとこうなったわよ。
彼はあなたが思うよりもずっと、完璧主義者だもの」
自らの主に傷をつけないように、汚名をかぶせ、名を歴史に残させる。そのくらいはやってのける。少しばかり罪悪感はあるようで、仕方ないよと言う。望みを果たさせるための通過地点として、切り捨てる。
彼にとって主とは自らの目的を果たすための駒でもあったのではないか。だからこそ、その先は見たくなかったかもしれない。
……まあ、あの人のことはよくわからないので、やはりどこかで幸せにやってほしいと思うが。
とにかく、先代の王に温情をかけた私は優しいほうだろう。利用できる手駒としてだとしても、別人として生きることを提示した。
まあ、王弟のほうは許さないことにしているのだけど。
……それにしても、魔女が王冠を乗っけるまではこの男は自信満々だったのに今は違うのはなぜだろう。逃げ出したのも不可解ではあるし。
見つけた経緯とかは私も知らないから、兄様に確認しないと。
「一応、私の意向は伝えたわ。
あとはご家族で話し合って? 意見は多少は聞き入れてあげる」
王族であるから、絞首も斬首もどうかと思うし。毒殺ならスペシャリストを紹介してあげることもできる。
至れり尽くせりではないか。
「……誰と、話すのだ」
「魔女はそのうち来るし、ウィルもまあ、呼んだから顔を見せるだろうし、先代はもうちょっとしたら来るんじゃないかしら」
恨み言の一つや二つ聞いてあげるのが務めじゃないかしらね?
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