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おまけ
ある弟の話 3
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あのね、あなたがいくら年下で幼いようにふるまってももう15なのよ。それほど子供でもないの。気をつけなさいね。
そう姉に諭されたのは割と最近だ。
フィンレーは一応は気をつけているつもりだったのだ。だから、二人きりでも会わない。必要以上に近寄らない。
そして、婚約すると聞いたあとからは会ってもいない。
ソランの姉であるシエルを初めて見たのは、姉弟揃っていたときのことだった。連れ立って仲良く歩いていたから、うちの兄弟みたいと思ったものだ。
そういうときはソランも弟の顔をするのかとちょっとおかしくもあった。少しだけ姉の機嫌を伺うような雰囲気は、フィンレーと同じような時がある。
手を振ったのは気まぐれで、弟に確認した後に振り返してくれたことは印象に残っている。弟(ソラン)の意向を尊重しようとするところでやっぱり仲がいいのだろうと思ったのだ。
その時は、それまでだった。
ソランはフィンレーに姉を紹介することもなかった。年が離れていたということもあるだろうが、そもそもそんな考えすらなかったようだった。
ただ、ジニーを紹介することになったと頭を抱えていたが。
フィンレーからそれを聞いたヴァージニアは面白がって、そのうち偶然を装って会ってあげるよと笑っていた。紹介してもらう前に辺境送りにしてしまうからねと。
その言葉の通り、砦に戻るウィリアムに少し遅れてソランは北方に旅立っていった。人だけで戻るウィリアムと違って、ソランは追加人員や備品の追加などと一緒だった。
ソランはウィリアムの従者という立場でしかないが、その立場があれば多少は悪さをするものが少ないであろうと見込んでのことらしい。
本人は何も知らされず、俺も一緒に行けたのにとぼやいていたそうだが。
それから一月もしないうちに事件は起きた。
フィンレーはレオンに新聞を持っていくことがあった。ついでに先に目を通すようにもしている。全部、毎日読むのは疲れるがたまには読むのもいい。ちゃんと全部覚えてはいないが、知らないということのほうが不利であると思い始めていた。
そうして気になるところだけつまみ食いしていたところに一つの新聞が目に留まった。
その新聞は、たまに小説を載せることがあった。発行も週に一度、話を載せるのは月に一回程度だったが紙面を一つ使う力の入れようだった。新人発掘を目的としているとレオンが言っていたなとぼんやり思い出した。
人形めいているが、柔らかい頬に愛嬌があった。
「大丈夫?」
落ち着いた声をかけられてはっと気がつく。彼の腕の中であったことに。
「だ、大丈夫です」
「危ないよ。ほら、手を貸して」
そう言って、エスコートへと形を変えてくれる。触れられたところが火傷でもしたかのように熱かった。
「……ねぇ、ローガン。これ、どう思う?」
最後まで読んで、フィンレーはローガンを捕まえて新聞を突き出した。ちょうど、店にいてよかったとフィンレーは思った。そうでなければ、手あたり次第に聞かなければならなかった。
自意識過剰かもしれないが、フィンレーにはこの相手役が自分に似ている気がしているのだ。
「は? ……あー、フィンレー様もついにデビューしたんだな」
ざっくりと目を通したローガンはあっさりと言った。
「僕も?」
「ここ二か月連続ジニーがモデルであろう男がヒーローしてた。
その前はアイザック様っぽい感じ。聞いたところによると常連はジャックだったらしいぞ」
「発禁になんないのっ!? 検閲は!?」
「おいおい。本人だって明言しているわけじゃないんだから、お目こぼしするもんだろ。それに悪い印象のあるって話じゃない。ジニーは、面白がってたよ。まあ、アイザック様は顔をしかめていたけどな」
「僕は嫌だよ」
「出版社に殴り込みでもしてこい」
「わかった」
「は? あ、ちょ、まてっ」
「僕はね、彼女以外を」
「誰かイーサン様連れてこい! 大至急!」
そんな声を遠くからフィンレーは聞いていた。
視界も体も動かないのに意識だけは残されている。
「少し落ち着け。悪気はないはずだ。知らないんだから」
ローガンが困り果てたような声をしていた。
「すぐ遮断したから、被害は少ないだろうが、周囲で自制をなくす奴が出るぞ」
ローガンはぼやいて、あ、しまったと呟いていた。
「ちょっとあいつの部屋、見張ってろ。なんかやらかすかもしれん。
ほんと、特別手当もらわないと割に合わない。手のかかる姉弟だ」
「ほっといてよ」
「ルークが、泣く。それで八つ当たりされるのは俺。よし、滅しようとか言いだすんだ。採算度返しの兄バカだから」
「……ほっといてよ」
「問い合わせはしてやる。
相手からの謝罪もちゃんともらうし、回収させてもいい。だけど、相手を殺すな」
「許せない」
「次は許さないと言っておく程度でやめとけ」
「……やだ」
「はぁ。イーサン様、早く来ないかな」
ローガンは手に負えないと言いたげなため息をつく。
「僕の奥さんは一人だけなんだ」
「そーだな。誰も否定してないよ。似てるだけの別人。それも許せないって言うなら、ヴァージニアに言ってこい」
「……」
「気にするだろうな。助けられなかったって。誰がどうしたって間に合わなかったんだ。でも気に病むだろうし、この先ずっと申し訳なさそうな顔しかしないぞ」
「ひどい」
「肖像権とか出して黙らせるから、今回は我慢しろ」
「……会ってから考える」
フィンレーはそう辛うじて言えた。
思い返してもひどかった。
フィンレーはその時の失態に頭が痛い。冷静に考えれば、似たような容姿の別人を書いただけ。しかもかなり真っ当な人物に書かれていた。
間違ってもプリンがと言いそうにない。わずかな匂わせも存在しなかったのだが、相手がそれを知らなかったということでもなかったらしい。
偶然ではなく意図的に、プリンについて書いてない。
そこまで言及されていたら、ちょっと危なかった。フィンレーはこの件に関しての自制は期待していない。
作者が生きているのは、ちょっとだけ勘がよく避けただけに過ぎない。
その作者はすぐに見つかった。というより、本人が出頭してきた。
青ざめるを通り越し白い顔で現れたのは見たことがある令嬢だった。ソランのお姉さんと呟くと怒涛のように弟は関係ない咎は自分一人がと訴えてきた。その延長線上にいかにフィンレーが自分の主役の相手にふさわしかったのかということを滔々と述べた。
それこそが自分の罪科であるのに。
あ、この人、ほんと、悪気なかったのだ。とすとんとフィンレーが納得できたのもそこで。
だから弱みに付け込んだのだ。
「じゃあさ、ハッピーエンドにしてよ」
と。
途中で失われた彼女をどこかに残しておきたかった。幸せになりましたと嘘でも。
その後、色々思い出を語るという理由で呼び出しては進捗を尋ねたり、用もなく出歩いたりもした。取材だのなんだのと言って。
途中は決して見せてくれなかったが、出来上がりを楽しみにしていたのだ。
「姉は来れませんので、俺が代理できました」
ソランが怒りを抑えながら、殴り込みをかけてくるなんてフィンレーは想定していなかった。
「な、なんで?」
「婚約するので、他の男と一緒にいるわけにはいかないんです。ご存じでしょうが、姉は妙齢の女性ですので」
「し、しってたけど、うん。だから、会わないけど、なんで、そんな怒って?」
「うちは、女王陛下の派閥じゃないんです。
それなのに、殿下と親し気であれば離反を疑われます。それを違うというならば、同じ派閥の誰かとすぐに結婚でもして離反の意志がないと証明しなければいけないんです」
「え」
「俺も、家を出た身ですので、殿下だけを責めるつもりもありませんが、恨み言ぐらい言ってもいいでしょう? 本人はしかたないからと笑うんですから」
「望んでときいたよ」
「あのバカ姉……。頼めば、破談にしていただけますか?」
「僕が出ると僕はお姉さんの婚約者になるって話にならない? 別にいいけど」
「……良くないので、別の人に言います」
「なぜ」
「なんか、姉が不幸になりそうなので。
姉からの冥途の土産です。怨念籠っていると思いますよ」
冷ややかに言ってソランが渡してきたのは一つの箱だった。
「姉の新しい婚約者は、こんなものなんの役にも立たないと捨てるように言うような男です。言われる前に全部預けたかったんでしょう。あなたのために書いたから」
「こんなに?」
「では、姉の頼みは終わりました」
「待って。僕も」
「役に立たないのですっこんでてください」
「ひどっ!」
「悪いと思うなら、有用な援軍を考えてください。それでは」
言い捨ててソランは去っていった。
フィンレーはそれを追えなった。
彼女の話を聞いてくれたのが、嬉しかった。一人では思い出すのも怖かった好きだったところ、思い出も聞いてくれたから。
しかし、もう、聞いてくれないのだ。
わかっていたが、見ないふりをしていた。
利用しているだけだけど、それでも。
また、聞いてほしい。
フィンレーは箱を一時置いて、外に出ることにした。
役に立つのは、きっと、あの人である。
そう姉に諭されたのは割と最近だ。
フィンレーは一応は気をつけているつもりだったのだ。だから、二人きりでも会わない。必要以上に近寄らない。
そして、婚約すると聞いたあとからは会ってもいない。
ソランの姉であるシエルを初めて見たのは、姉弟揃っていたときのことだった。連れ立って仲良く歩いていたから、うちの兄弟みたいと思ったものだ。
そういうときはソランも弟の顔をするのかとちょっとおかしくもあった。少しだけ姉の機嫌を伺うような雰囲気は、フィンレーと同じような時がある。
手を振ったのは気まぐれで、弟に確認した後に振り返してくれたことは印象に残っている。弟(ソラン)の意向を尊重しようとするところでやっぱり仲がいいのだろうと思ったのだ。
その時は、それまでだった。
ソランはフィンレーに姉を紹介することもなかった。年が離れていたということもあるだろうが、そもそもそんな考えすらなかったようだった。
ただ、ジニーを紹介することになったと頭を抱えていたが。
フィンレーからそれを聞いたヴァージニアは面白がって、そのうち偶然を装って会ってあげるよと笑っていた。紹介してもらう前に辺境送りにしてしまうからねと。
その言葉の通り、砦に戻るウィリアムに少し遅れてソランは北方に旅立っていった。人だけで戻るウィリアムと違って、ソランは追加人員や備品の追加などと一緒だった。
ソランはウィリアムの従者という立場でしかないが、その立場があれば多少は悪さをするものが少ないであろうと見込んでのことらしい。
本人は何も知らされず、俺も一緒に行けたのにとぼやいていたそうだが。
それから一月もしないうちに事件は起きた。
フィンレーはレオンに新聞を持っていくことがあった。ついでに先に目を通すようにもしている。全部、毎日読むのは疲れるがたまには読むのもいい。ちゃんと全部覚えてはいないが、知らないということのほうが不利であると思い始めていた。
そうして気になるところだけつまみ食いしていたところに一つの新聞が目に留まった。
その新聞は、たまに小説を載せることがあった。発行も週に一度、話を載せるのは月に一回程度だったが紙面を一つ使う力の入れようだった。新人発掘を目的としているとレオンが言っていたなとぼんやり思い出した。
人形めいているが、柔らかい頬に愛嬌があった。
「大丈夫?」
落ち着いた声をかけられてはっと気がつく。彼の腕の中であったことに。
「だ、大丈夫です」
「危ないよ。ほら、手を貸して」
そう言って、エスコートへと形を変えてくれる。触れられたところが火傷でもしたかのように熱かった。
「……ねぇ、ローガン。これ、どう思う?」
最後まで読んで、フィンレーはローガンを捕まえて新聞を突き出した。ちょうど、店にいてよかったとフィンレーは思った。そうでなければ、手あたり次第に聞かなければならなかった。
自意識過剰かもしれないが、フィンレーにはこの相手役が自分に似ている気がしているのだ。
「は? ……あー、フィンレー様もついにデビューしたんだな」
ざっくりと目を通したローガンはあっさりと言った。
「僕も?」
「ここ二か月連続ジニーがモデルであろう男がヒーローしてた。
その前はアイザック様っぽい感じ。聞いたところによると常連はジャックだったらしいぞ」
「発禁になんないのっ!? 検閲は!?」
「おいおい。本人だって明言しているわけじゃないんだから、お目こぼしするもんだろ。それに悪い印象のあるって話じゃない。ジニーは、面白がってたよ。まあ、アイザック様は顔をしかめていたけどな」
「僕は嫌だよ」
「出版社に殴り込みでもしてこい」
「わかった」
「は? あ、ちょ、まてっ」
「僕はね、彼女以外を」
「誰かイーサン様連れてこい! 大至急!」
そんな声を遠くからフィンレーは聞いていた。
視界も体も動かないのに意識だけは残されている。
「少し落ち着け。悪気はないはずだ。知らないんだから」
ローガンが困り果てたような声をしていた。
「すぐ遮断したから、被害は少ないだろうが、周囲で自制をなくす奴が出るぞ」
ローガンはぼやいて、あ、しまったと呟いていた。
「ちょっとあいつの部屋、見張ってろ。なんかやらかすかもしれん。
ほんと、特別手当もらわないと割に合わない。手のかかる姉弟だ」
「ほっといてよ」
「ルークが、泣く。それで八つ当たりされるのは俺。よし、滅しようとか言いだすんだ。採算度返しの兄バカだから」
「……ほっといてよ」
「問い合わせはしてやる。
相手からの謝罪もちゃんともらうし、回収させてもいい。だけど、相手を殺すな」
「許せない」
「次は許さないと言っておく程度でやめとけ」
「……やだ」
「はぁ。イーサン様、早く来ないかな」
ローガンは手に負えないと言いたげなため息をつく。
「僕の奥さんは一人だけなんだ」
「そーだな。誰も否定してないよ。似てるだけの別人。それも許せないって言うなら、ヴァージニアに言ってこい」
「……」
「気にするだろうな。助けられなかったって。誰がどうしたって間に合わなかったんだ。でも気に病むだろうし、この先ずっと申し訳なさそうな顔しかしないぞ」
「ひどい」
「肖像権とか出して黙らせるから、今回は我慢しろ」
「……会ってから考える」
フィンレーはそう辛うじて言えた。
思い返してもひどかった。
フィンレーはその時の失態に頭が痛い。冷静に考えれば、似たような容姿の別人を書いただけ。しかもかなり真っ当な人物に書かれていた。
間違ってもプリンがと言いそうにない。わずかな匂わせも存在しなかったのだが、相手がそれを知らなかったということでもなかったらしい。
偶然ではなく意図的に、プリンについて書いてない。
そこまで言及されていたら、ちょっと危なかった。フィンレーはこの件に関しての自制は期待していない。
作者が生きているのは、ちょっとだけ勘がよく避けただけに過ぎない。
その作者はすぐに見つかった。というより、本人が出頭してきた。
青ざめるを通り越し白い顔で現れたのは見たことがある令嬢だった。ソランのお姉さんと呟くと怒涛のように弟は関係ない咎は自分一人がと訴えてきた。その延長線上にいかにフィンレーが自分の主役の相手にふさわしかったのかということを滔々と述べた。
それこそが自分の罪科であるのに。
あ、この人、ほんと、悪気なかったのだ。とすとんとフィンレーが納得できたのもそこで。
だから弱みに付け込んだのだ。
「じゃあさ、ハッピーエンドにしてよ」
と。
途中で失われた彼女をどこかに残しておきたかった。幸せになりましたと嘘でも。
その後、色々思い出を語るという理由で呼び出しては進捗を尋ねたり、用もなく出歩いたりもした。取材だのなんだのと言って。
途中は決して見せてくれなかったが、出来上がりを楽しみにしていたのだ。
「姉は来れませんので、俺が代理できました」
ソランが怒りを抑えながら、殴り込みをかけてくるなんてフィンレーは想定していなかった。
「な、なんで?」
「婚約するので、他の男と一緒にいるわけにはいかないんです。ご存じでしょうが、姉は妙齢の女性ですので」
「し、しってたけど、うん。だから、会わないけど、なんで、そんな怒って?」
「うちは、女王陛下の派閥じゃないんです。
それなのに、殿下と親し気であれば離反を疑われます。それを違うというならば、同じ派閥の誰かとすぐに結婚でもして離反の意志がないと証明しなければいけないんです」
「え」
「俺も、家を出た身ですので、殿下だけを責めるつもりもありませんが、恨み言ぐらい言ってもいいでしょう? 本人はしかたないからと笑うんですから」
「望んでときいたよ」
「あのバカ姉……。頼めば、破談にしていただけますか?」
「僕が出ると僕はお姉さんの婚約者になるって話にならない? 別にいいけど」
「……良くないので、別の人に言います」
「なぜ」
「なんか、姉が不幸になりそうなので。
姉からの冥途の土産です。怨念籠っていると思いますよ」
冷ややかに言ってソランが渡してきたのは一つの箱だった。
「姉の新しい婚約者は、こんなものなんの役にも立たないと捨てるように言うような男です。言われる前に全部預けたかったんでしょう。あなたのために書いたから」
「こんなに?」
「では、姉の頼みは終わりました」
「待って。僕も」
「役に立たないのですっこんでてください」
「ひどっ!」
「悪いと思うなら、有用な援軍を考えてください。それでは」
言い捨ててソランは去っていった。
フィンレーはそれを追えなった。
彼女の話を聞いてくれたのが、嬉しかった。一人では思い出すのも怖かった好きだったところ、思い出も聞いてくれたから。
しかし、もう、聞いてくれないのだ。
わかっていたが、見ないふりをしていた。
利用しているだけだけど、それでも。
また、聞いてほしい。
フィンレーは箱を一時置いて、外に出ることにした。
役に立つのは、きっと、あの人である。
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