ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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おまけ

ある弟の話 4

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「やっぱ、見学しに行けばよかった」

 息も絶え絶えに笑いながらレオンは言う。
 結果報告としてフィンレーとソランが顔を出していた。その姉はここに出入りはできないので来ることはないし、レオンの関与を知らされることもないだろう。

「女装必須なんだけど」

「あ、俺、結構綺麗よ?」

 レオンはそう言ってしなをつくる。嫌そうな顔でフィンレーは目を背けた。ソランもはぁ?と言いたげである。ちょっぴり傷ついたが自業自得なのは理解している。
 レオンは部下からはウケが良かったんだけどなと思いながら居住まいをただした。

「それで、結局どうするんだい?」

「姉は、当主になる決意をしました」

「へぇ? 促したわけでもなく?」

 予定ではそう仕向けるようになったはずだ。きちんと場は整えてあったはずで、その気になりやすいように考えてもいた。
 その予定は弟のお気に入りをゴミ呼ばわりされてキレたヴァージニアがぶっ飛ばした。そして、考えていない方向に着地したのは笑うしかない。

「女性で騎士が立派に務まるなら、当主だってできるかもって思ったらしいね。
 元々、当主の規定に性別は入っていないんだってさ。姉様は、性別など入れずとも男だろと思って作った規定なんじゃないかって言ってたけど、ほんと?」

「どうだろうな。魔王が長期で眠る前は女性当主もそれなりにいたよ。
 魔王が魔物を放つ間隔が短かったようで、若い男が少なくなり代わりに女性がという話のようなんだけど、古いからどこまで正しいかは不明」

「なんで、男がいないんです?」

 人の世の果てにいたはずのソランがきょとんとした顔で聞く。

「死ぬから」

 レオンは言葉を選ばなかった。言葉を飾ったところで意味はない。この地で生きていくなら常にある問題だ。
 それを盾に保つ独立性をどう見るべきかはわからない。

 これから先のことは、魔女と女王が決めるであろうが付き合わされる方は無事で済む保証はない。
 いままでもこれからも。

「この国は長く平和だったから、今や戦死するほうが難しいんだけどね。そういう時代があったんだ。
 で、男が足りないから代わりに女をとやったことはある。今はそうじゃないけど、タイミングはいい」

「不足する予定でもあるってことですか」

「女王陛下が立ち、魔女がそれを後ろ盾している。
 今なら、女だからといわれ難い。しかも、お飾りではない魔王を討伐してきたような女王陛下とこれまで国を守護してきた国守りの魔女の意向。
 そのうえ、対立勢力は掃討したあととなれば反対意見を口にすることすら難しい」

「……対立勢力潰ししたの姉様じゃないと思う」

「俺も」

「見解に相違があるようだね。
 それはともかく、女性をあらゆる分野に入れさせるということはこれからも続くと思うよ。逆に男をそれまで女性の領域だと思っていたところに入れるのもね」

「ああ、兄様がそういう方針だったから同じようにするってことか」

「職業選択の自由だっけ? エルナの王様は面白いことを考える。後継の問題は荒れるかもしれないけど、合わないのは合わないんだから」

「なんで俺見られた?」

「ソランが、貴族の当主出来ると思えない」

「俺もそう思う。陛下の元で剣でも振り回してたほうがいい」

「俺の希望もそうですけど……。陛下がそうしろっていうならやりますよ」

「領民の皆様がかわいそうな気がするからやめたほうがいいよ。
 無理に連れ戻されなかったというところに適性を感じたほうがいい」

「え、なんで、俺、悪口言われて?」

「近いうちに検討会が開かれて、資料提出を求められると思うから今回用意したものをそのまま出せばいいよ。あとの根回しはご本人がするだろう」

「俺、悪口言われたんですけどぉ?」

 スルーされてソランは大変不満そうだった。
 レオンはフィンレーと目くばせをした。

「褒めてる」

「うんうん。褒めてる」

「嘘つけっ!」

「ほらほら、ここ病人いるから落ち着いて」

「おまえらが余計なことばっかり言うからだろっ!
 もう、俺帰る。
 姉さんのことはありがとうございましたっ! 借りはいつか返します」

 怒りながらもきちんと礼を言うところでソランは育ちが良いなとレオンは思う。家族仲もある程度は修復されたようで、それほど悪いことではなかっただろう。

「……それにしても」

「なに?」

「見たかった」

 フィンレーが呆れたようにレオンを見てため息をついた。
 レオンはユリアをちゃんと説得できなかったことに悔いが残る。警戒されて当日の朝から晩までユリアが居座っていたのだ。
 私もジニーのかっこいいとこ見たかったのにとぼやいていたので、一緒に行かないかと誘ってみたのだが、ぐらついてどうにか持ちこたえていたようだ。
 後でデートだしと。

 そのあとでユリアがジニーとのデート個所について、あれこれ言っていたのはある種の嫌がらせであったのだろう。
 気分はのろけを聞いているようなものだが、ユリアには別に恋人がいる。これでいいのだろうかと思うが、口を出す問題ではないだろう。

「そう思うなら、早く治しなよ」

「そういえば、例の本は?」

 レオンは気まずくなって別の話題に移行した。

「初稿を製本して、国に送る。シエル嬢は泣いて嫌がったけど、確定。あとで挿絵画家を用意するつもり」

「……かわいそうに」

 国内どころか国外に流通が確定してしまった。それも王族ご用達。
 ある程度は夢見ただろうが、それを超えているだろう。心の準備もなく、外に出される。かわいそう以外に言うことがない。
 フィンレーは楽し気である。

 シエルには災難だろう。女王陛下とその弟の都合に振り回されているのだから。

「ジニーとのデート3回ならって言ってた」

「……それでいいのか」

「いいみたい。姉様は最近デートが多いって悪い男みたいなこと言ってた。何又なんだろ」

「そういえば、俺、ジニーに似てるって言われたことあるんだけど」

「へ?」

「そんなバイタリティ俺にはない」

 レオンとジニーは全く違うし、似ているところを見つけるのも難しいように思えた。
 彼女がいったいどこにジニーの面影を見たのか、謎である。

「……へー。どこまで鈍いんだろ。この人」

「ん?」

「なんでもない。
 たぶん、時期でもないんだと思うし」

「なにが」

 フィンレーは内緒と言って意味ありげに笑った。

「せいぜい、悩んでいて? そのほうが良さそうだ」

 レオンの困惑を知ってフィンレーは機嫌よく立ち去っていった。
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