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うみのもの 前編
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うーみーと叫んだあの日から3年。久しぶりにアトスの実家がある海の町を訪れた。
お互いの領地が王都を挟んで向こう側にあるので、用事があれば大体王都で集まって済ませていた。なのでなかなか行く機会がなかったんだ。
「ほら、あれがお父さんが生まれた町ですよ」
「とと、きらきら」
そろそろ二歳になる息子、馬車の窓にかぶりつき。あれ、すごい、と喜んでいる。
まだ小さいからお留守番とも思ったけど、アトスの大叔父という方が最近体調が悪いらしく一目見たいと手紙が来た。それなら家族旅行もいいだろうとゆったり日程で訪問となったのである。
なんか、うちの叔父とも付き合いあるらしいし……。あの人なにしてんだろ。
「長旅になってしまったね。
身内がわがまま言って申し訳ない」
アトスから何度も聞いた言葉に返事ではなく頭をなでることにした。アトスは腑に落ちない顔をしながらもされるがままになっている。息子もマネしたいのか手を伸ばしていた。
かわいいとかわいいが合わさって、とても、かわいい。
「先に用があったんだから、ついでだし大丈夫」
「そうですが」
「それに商談は、顔を見てするのが一番」
「お手柔らかにね。あといきなり桶が飛んでくるかもしれないから、俺より先に行かないでね」
「気をつけます」
なぜ、桶なのか。大叔父さんは貝の養殖をしている。桶一杯に貝を入れて剝いて加工食品を出荷したりしているそうだ。で、時々、変わった真珠もどきが出てくることがあるそうだ。
それを前にもらったときから狙っていた。
これこそ、次の、イケてる流行にする素材!
名物も海と魚しかないというアトスの実家にちょっとだけ産業があれば、大事なご子息をいただいた恩は返せるかなと思う。
アトスも地元に居たらそれはそれで別に有名になってそうだし。
町が見えてからけっこうかかって実際の町に入った。息子が飽きて、歩いていく、きっとすぐ!というのには手を焼いた。海の男の歌でごまかしたけど……。海の男はみんな歌える、などと本に書かれている。あれ、叔父の創作で、実際はないと知っているから微妙な気持ちだ。
本当はアトスの実家に先に行く予定だったんだけど、あまりにも海というので先に港に寄らせてもらった。
馬車を降りて港に向かう。
「とと、うみ、すき」
初めて見る海に息子もご満悦。どころか、ふねーのるのー、やなのー、ほかのとこいかないったらいかないのっ! と妙に饒舌になってきた。いつもは二単語くらいしか言わないのに、きらきらすごい、きれい、ふねおっきいのるの! かっこいい! と出るわ出るわ。
いつもめんどくさがって喋ってないんじゃないだろうか。
冷ややかな母の対応に気がついたのか息子ちょっと大人しくなる。かわりにアトスにぎゅっとしがみついちゃったりして……。
「少しなら」
「荷物置いてから。ちゃんとご挨拶してからじゃないと失礼でしょう? ほら、リオネル行くよ」
「だっこ」
聞き分けがよかった。ここからぐずると長い。ただ、だっこ。約二歳児にして、夫の家系の体質を継いでいるのか大きい。重い。
思わず、馬車までの道のりを考えてしまった。
「ととがするね」
アトスが有無を言わせず抱き上げているからほっとした。
「かたぐるま」
「やめてね?」
それすると2mオーバーになる。目立つどころじゃない。
「うみのひと、おっきいの」
「そうだね」
「よーこそーって」
「そっか」
前もそうだったけど、歓迎してくれているのはわかる。ちょっと大きくてびっくりするけど。うちの領地の人わりと小柄だからさ……。
まあ、そんなやり取りをしながら滞在先であるアトスの実家に向かった。
ついたら一族全員そろってんじゃないかという人数がいた。たぶん、非番の従業員とかもいそう……。
少々、表情が引きつっちゃったのがばれてないといいな。迫力が、違う。
ひとまずは到着の挨拶としばらく滞在するのでよろしくお願いします、それからお土産もありますという話を済ませる。
この辺りの話は領主であるアトスのお父さん、つまり義父としている。私の立場が領主代行なので、私が主体になるのだけど。
そういう建前と儀礼的な会話はサクッと切り上げられ、視線が息子に集中している。あ、そうですよね。孫ですよね。と思って私の前に出す。
本人は、うん? とよくわかってない顔をしている。
「まあまあまあ、リオちゃん! よく来てくれたわね!」
一番先に声をかけてきたのは、義母のフィルスさん。
「おまねきいただきありがとうございます。たのしみにしてました」
リオネルはこれでいいい? という感じにこっちを見てくるので頷いておいた。息子、よくやった。毎日特訓した甲斐があった。
「礼儀正しいのね。さあ、こちらで少し休みましょうね」
「ふね! のりたい!」
……いきなり言い出した。
ちゃんと一度、お部屋に入りましょうね、お船は明日ねと来る途中にも言い聞かせていたのに……。
「まあ!
きいたかしらっ!」
義母、すんごい笑顔。義父もうんうんと嬉しそうにうなずいている。
アトスがあーと額に手をあてていた……。お船は明日と念入りに言っていたのはアトスの方だった。これを予想していたのかもしれない。
「へい、姉御。
ご用意しますぜ!」
「坊ちゃん、どの船がいいか教えてくれますかい?」
「ふむ、素質があるのかな」
……乗り気だ。みんな乗り気過ぎる。前のめりどころか、息子、連れていかれた。いいのか、母いなくていいのかっ! という気分ではあるけど、義父母にはすでに何度も会い懐いてはいる。今一番小さい孫なので可愛がり方が手慣れている。アトスの兄弟の甥姪はもう10歳以上だから、赤ちゃん来たーっと皆がわいわいするという……。
「じゃあ、お任せしますね。リオネルもおじいちゃん、おばあちゃんの話ちゃんと聞くのよ」
「うん!」
そこは、はい、だ。教育的指導を飛ばす雰囲気でもないので見送ったが、帰ってきてからお話しないとな……。
「……あー、甘やかさないでくださいねー」
一応、言っておいた。一応。
「ごめん」
アトスが申し訳なさそうな顔してた。止める間も、その気もなかったのは私も一緒だ。
あの勢いはうちにない。のんびり気質、時々狂気、というのがうちだから……。
「いいですよ……。布綺麗といった瞬間の父みたいななんかでしょうし」
義姉に同じようなことした記憶がなくもない。そして、姪にも……。
残された私たち二人は人の減った屋敷でのんびりさせてもらうことにした。この旅行中二人きりというのもなかったし。
まあ、やってたのは刺繍やら繕い物やらでいつもと変わらなかったんだけど。
お互いの領地が王都を挟んで向こう側にあるので、用事があれば大体王都で集まって済ませていた。なのでなかなか行く機会がなかったんだ。
「ほら、あれがお父さんが生まれた町ですよ」
「とと、きらきら」
そろそろ二歳になる息子、馬車の窓にかぶりつき。あれ、すごい、と喜んでいる。
まだ小さいからお留守番とも思ったけど、アトスの大叔父という方が最近体調が悪いらしく一目見たいと手紙が来た。それなら家族旅行もいいだろうとゆったり日程で訪問となったのである。
なんか、うちの叔父とも付き合いあるらしいし……。あの人なにしてんだろ。
「長旅になってしまったね。
身内がわがまま言って申し訳ない」
アトスから何度も聞いた言葉に返事ではなく頭をなでることにした。アトスは腑に落ちない顔をしながらもされるがままになっている。息子もマネしたいのか手を伸ばしていた。
かわいいとかわいいが合わさって、とても、かわいい。
「先に用があったんだから、ついでだし大丈夫」
「そうですが」
「それに商談は、顔を見てするのが一番」
「お手柔らかにね。あといきなり桶が飛んでくるかもしれないから、俺より先に行かないでね」
「気をつけます」
なぜ、桶なのか。大叔父さんは貝の養殖をしている。桶一杯に貝を入れて剝いて加工食品を出荷したりしているそうだ。で、時々、変わった真珠もどきが出てくることがあるそうだ。
それを前にもらったときから狙っていた。
これこそ、次の、イケてる流行にする素材!
名物も海と魚しかないというアトスの実家にちょっとだけ産業があれば、大事なご子息をいただいた恩は返せるかなと思う。
アトスも地元に居たらそれはそれで別に有名になってそうだし。
町が見えてからけっこうかかって実際の町に入った。息子が飽きて、歩いていく、きっとすぐ!というのには手を焼いた。海の男の歌でごまかしたけど……。海の男はみんな歌える、などと本に書かれている。あれ、叔父の創作で、実際はないと知っているから微妙な気持ちだ。
本当はアトスの実家に先に行く予定だったんだけど、あまりにも海というので先に港に寄らせてもらった。
馬車を降りて港に向かう。
「とと、うみ、すき」
初めて見る海に息子もご満悦。どころか、ふねーのるのー、やなのー、ほかのとこいかないったらいかないのっ! と妙に饒舌になってきた。いつもは二単語くらいしか言わないのに、きらきらすごい、きれい、ふねおっきいのるの! かっこいい! と出るわ出るわ。
いつもめんどくさがって喋ってないんじゃないだろうか。
冷ややかな母の対応に気がついたのか息子ちょっと大人しくなる。かわりにアトスにぎゅっとしがみついちゃったりして……。
「少しなら」
「荷物置いてから。ちゃんとご挨拶してからじゃないと失礼でしょう? ほら、リオネル行くよ」
「だっこ」
聞き分けがよかった。ここからぐずると長い。ただ、だっこ。約二歳児にして、夫の家系の体質を継いでいるのか大きい。重い。
思わず、馬車までの道のりを考えてしまった。
「ととがするね」
アトスが有無を言わせず抱き上げているからほっとした。
「かたぐるま」
「やめてね?」
それすると2mオーバーになる。目立つどころじゃない。
「うみのひと、おっきいの」
「そうだね」
「よーこそーって」
「そっか」
前もそうだったけど、歓迎してくれているのはわかる。ちょっと大きくてびっくりするけど。うちの領地の人わりと小柄だからさ……。
まあ、そんなやり取りをしながら滞在先であるアトスの実家に向かった。
ついたら一族全員そろってんじゃないかという人数がいた。たぶん、非番の従業員とかもいそう……。
少々、表情が引きつっちゃったのがばれてないといいな。迫力が、違う。
ひとまずは到着の挨拶としばらく滞在するのでよろしくお願いします、それからお土産もありますという話を済ませる。
この辺りの話は領主であるアトスのお父さん、つまり義父としている。私の立場が領主代行なので、私が主体になるのだけど。
そういう建前と儀礼的な会話はサクッと切り上げられ、視線が息子に集中している。あ、そうですよね。孫ですよね。と思って私の前に出す。
本人は、うん? とよくわかってない顔をしている。
「まあまあまあ、リオちゃん! よく来てくれたわね!」
一番先に声をかけてきたのは、義母のフィルスさん。
「おまねきいただきありがとうございます。たのしみにしてました」
リオネルはこれでいいい? という感じにこっちを見てくるので頷いておいた。息子、よくやった。毎日特訓した甲斐があった。
「礼儀正しいのね。さあ、こちらで少し休みましょうね」
「ふね! のりたい!」
……いきなり言い出した。
ちゃんと一度、お部屋に入りましょうね、お船は明日ねと来る途中にも言い聞かせていたのに……。
「まあ!
きいたかしらっ!」
義母、すんごい笑顔。義父もうんうんと嬉しそうにうなずいている。
アトスがあーと額に手をあてていた……。お船は明日と念入りに言っていたのはアトスの方だった。これを予想していたのかもしれない。
「へい、姉御。
ご用意しますぜ!」
「坊ちゃん、どの船がいいか教えてくれますかい?」
「ふむ、素質があるのかな」
……乗り気だ。みんな乗り気過ぎる。前のめりどころか、息子、連れていかれた。いいのか、母いなくていいのかっ! という気分ではあるけど、義父母にはすでに何度も会い懐いてはいる。今一番小さい孫なので可愛がり方が手慣れている。アトスの兄弟の甥姪はもう10歳以上だから、赤ちゃん来たーっと皆がわいわいするという……。
「じゃあ、お任せしますね。リオネルもおじいちゃん、おばあちゃんの話ちゃんと聞くのよ」
「うん!」
そこは、はい、だ。教育的指導を飛ばす雰囲気でもないので見送ったが、帰ってきてからお話しないとな……。
「……あー、甘やかさないでくださいねー」
一応、言っておいた。一応。
「ごめん」
アトスが申し訳なさそうな顔してた。止める間も、その気もなかったのは私も一緒だ。
あの勢いはうちにない。のんびり気質、時々狂気、というのがうちだから……。
「いいですよ……。布綺麗といった瞬間の父みたいななんかでしょうし」
義姉に同じようなことした記憶がなくもない。そして、姪にも……。
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