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過保護なもの
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怒涛の社交界デビューから半月。ドレスの返却作業も終え、各種打ち上げなども行った後だというのに私はまだ忙しい。
二か月もの間、休み返上だったので店員たちに交代でお休みをとってもらっていためだ。人手が足りない分私が店番している時間が長い。本当は閉めたいんだけど、まだまだ、社交界デビューで初王都というお嬢様がたが残っていて来店予約が詰まりに詰まっている。
私も休めるのはいつのことか。
店の主が休むのは一番最後であるので、最後にがっつり休みを取ってやると思っていた。
その前に、体調不良になった。数日休んでみても気持ち悪いわ、体がしんどいわということで昔から付き合いのある医者に往診を頼むことになった。
診察してもらったら、びっくりなことを言われた。
「おめでた、ですかね」
「……へ?」
数年はないとなんか思ってた。同席していたアトスもびっくりした顔で。
いままで子供もそのうちにね、なんて話程度しかしてなかった。具体性ゼロ。
心構えも何もない。
それでも、このお腹の中にいるのか。そっかぁ……。
「しばらくは安静にしているように」
困ったやつだなという顔で医者が言い置いて帰って行った。
「ええと、なにから、始めればいいのかな」
「ご両親に報告と仕事を減らすことからですね」
アトスはとても事務的な返答をしてきたけど、たぶん、事態の咀嚼ができてない感じだ。え、え? ええ? みたいな顔なんだもの。
「触れてもいいですか」
「いいけど、今はぺったんこだよ」
まあ、少々のぜい肉はあるけど。
恐々と触れられると何かくすぐったい。
「……君が来てくれてうれしいよ」
優しい声に胸の奥が暖かくなる。それから、ちょっとためらったように抱きしめてくれた。
何か言いたいけど何を言えばいいのかわからないんだと正直に告白してくれるのも大層愛らしいと思うんだけど、私だけだろうか。
喜ばしいことと受け取ってもらっているだけで十分だと返しておいたけど。
少しだけ、私には懸念があるのだが、それは心にしまっておこう。
我が夫、普通に大きいのである。そして、アトスの実家の男性というのも大きい。
お義母さんもうちの息子たちをだっこするの苦労したわとか、生まれてすぐから食欲旺盛でげっそりしちゃったのよねとか、聞いてたんだ。そうなんですね、と軽く流していたが今になって重みを増す。あれは覚悟しておけよ、という親切心だったのかもしれない。うちはむしろ食が細くて軽くてと母は言っていた。
どっちの血がでてくるかな……。
女の子かもしれないし、と保険をかけたいところだけど、アトスの親族の女性も身長が高い。
……ま、まあ、生まれた後に考えよう。
それはそれとしてその日から少しばかりアトスが過保護になった。ある程度たってから周囲には話をするつもりが、なんかバレバレなくらいである。
店長が居なくても困らないシフトが勝手に組まれ、裏方で休みながらできる業務で、といい感じの巣になった部屋に詰められた。
……うごけるよっ!? というと柔らかに穏やかに今が大事な時ですからねと子持ちの店員に詰められる……。経験者の重みがずっしりときた。
医師を呼んだ日から数日して、兄がやってきた。
「調子どう?」
ものすっごい心配という顔で。義姉さんに乳母の伝手がないか手紙を送っていたから、経由して知ったんだろう。
いや、なんか、兄に報告するのも照れるのでね……。
「御覧の通り、過保護されてる」
「確かに」
「暇だから、秋のドレスを作ることにした」
「なになに?」
「これ」
兄にデザイン画のほうを見せた。この季節、一番おいしいものと言えばこれ!
「……かぼちゃ?」
「そう、おいしそうでしょう」
オレンジ色で裾がふわっとすぼまった形。マーメイドドレスの変形みたいなイメージですすめている。蔓の緑の縁取りと朝露のガラスを縫い付ける予定。
「遊んでんなぁ……。義弟は?」
「帳簿その他、店に出る以外のお仕事をお任せ中。今、職人と打合せじゃないかな。
事前に知らせてくれれば時間空けたのに」
「まあ、別の時にお祝い言っておく。
なんか、なぁ。あの後ろを引っ付いていたクレアがなぁ」
しみじみと言われた。
くっ。と思うけど、兄が結婚したときに同じことを言ったような気がしないでもないから甘んじて聞いておく。
「ほんと、大丈夫かぁ?」
とか言いながら、色々持ってきたものを並べてきた。義姉さんが食べられないときに使っていた飴とか、ハーブティとか、ボディオイルとか。この兄もだいぶ甘い。
それから、義姉からの伝言があった。乳母の心当たりはあるから後で連絡してくれるそうだ。
「俺、クレアは自分で育てるとか言うと思ってた」
「店主だけだったら、そうかも。
でも、当主代行見習いだし、今後も考えるとそれは難しいよね」
そもそも、私たちにも乳母はいた。家業忙しいし、そういうものだと育った。別に、両親と交流なしってわけでもないし。なお、私にも乳兄弟もいるけど、それぞれ別の道を歩んでいる。
「……悪かったな」
「えぇ? もし、領主にならないにしても乳母を考えたと思うよ」
「なんで?」
「考えてみて、アトスの家系、みんな大きいよ?」
「そーだ、なー」
最後、声のトーンが下がった。気がついたらしい。小さいころから大きかった、みたいな人との子である。我が家、国内平均値。体がついていく気がしない。
人手増量したい。
「うっかり腰やられそうな気がする」
「ぎっくり腰は癖になるっていうしね……」
顔を見合わせて情けなさそうに笑う。体力にはそれなりに自信があっても筋力に自信はない。そういう家系である。徹夜はできるんだけどなぁ……。
「体大事にな。
父さんたちに連絡は?」
「手紙でしたから、そのうち届くよ。でも、もう秋も終わりだし、もし顔を見に来るなら春先じゃないかな」
「そうだな。
なにかあったらうちに連絡するように。遠慮すんなってアトスにも言っておくよ」
「頼りにしてます。お兄様」
「……おう」
ちょっと気味悪いな、って顔した。
使える伝手はつかっておかないと、だ。
こうして、かぼちゃのドレスと共に秋は終わり、冬の始まりの雪がちらつくようになった。
二か月もの間、休み返上だったので店員たちに交代でお休みをとってもらっていためだ。人手が足りない分私が店番している時間が長い。本当は閉めたいんだけど、まだまだ、社交界デビューで初王都というお嬢様がたが残っていて来店予約が詰まりに詰まっている。
私も休めるのはいつのことか。
店の主が休むのは一番最後であるので、最後にがっつり休みを取ってやると思っていた。
その前に、体調不良になった。数日休んでみても気持ち悪いわ、体がしんどいわということで昔から付き合いのある医者に往診を頼むことになった。
診察してもらったら、びっくりなことを言われた。
「おめでた、ですかね」
「……へ?」
数年はないとなんか思ってた。同席していたアトスもびっくりした顔で。
いままで子供もそのうちにね、なんて話程度しかしてなかった。具体性ゼロ。
心構えも何もない。
それでも、このお腹の中にいるのか。そっかぁ……。
「しばらくは安静にしているように」
困ったやつだなという顔で医者が言い置いて帰って行った。
「ええと、なにから、始めればいいのかな」
「ご両親に報告と仕事を減らすことからですね」
アトスはとても事務的な返答をしてきたけど、たぶん、事態の咀嚼ができてない感じだ。え、え? ええ? みたいな顔なんだもの。
「触れてもいいですか」
「いいけど、今はぺったんこだよ」
まあ、少々のぜい肉はあるけど。
恐々と触れられると何かくすぐったい。
「……君が来てくれてうれしいよ」
優しい声に胸の奥が暖かくなる。それから、ちょっとためらったように抱きしめてくれた。
何か言いたいけど何を言えばいいのかわからないんだと正直に告白してくれるのも大層愛らしいと思うんだけど、私だけだろうか。
喜ばしいことと受け取ってもらっているだけで十分だと返しておいたけど。
少しだけ、私には懸念があるのだが、それは心にしまっておこう。
我が夫、普通に大きいのである。そして、アトスの実家の男性というのも大きい。
お義母さんもうちの息子たちをだっこするの苦労したわとか、生まれてすぐから食欲旺盛でげっそりしちゃったのよねとか、聞いてたんだ。そうなんですね、と軽く流していたが今になって重みを増す。あれは覚悟しておけよ、という親切心だったのかもしれない。うちはむしろ食が細くて軽くてと母は言っていた。
どっちの血がでてくるかな……。
女の子かもしれないし、と保険をかけたいところだけど、アトスの親族の女性も身長が高い。
……ま、まあ、生まれた後に考えよう。
それはそれとしてその日から少しばかりアトスが過保護になった。ある程度たってから周囲には話をするつもりが、なんかバレバレなくらいである。
店長が居なくても困らないシフトが勝手に組まれ、裏方で休みながらできる業務で、といい感じの巣になった部屋に詰められた。
……うごけるよっ!? というと柔らかに穏やかに今が大事な時ですからねと子持ちの店員に詰められる……。経験者の重みがずっしりときた。
医師を呼んだ日から数日して、兄がやってきた。
「調子どう?」
ものすっごい心配という顔で。義姉さんに乳母の伝手がないか手紙を送っていたから、経由して知ったんだろう。
いや、なんか、兄に報告するのも照れるのでね……。
「御覧の通り、過保護されてる」
「確かに」
「暇だから、秋のドレスを作ることにした」
「なになに?」
「これ」
兄にデザイン画のほうを見せた。この季節、一番おいしいものと言えばこれ!
「……かぼちゃ?」
「そう、おいしそうでしょう」
オレンジ色で裾がふわっとすぼまった形。マーメイドドレスの変形みたいなイメージですすめている。蔓の緑の縁取りと朝露のガラスを縫い付ける予定。
「遊んでんなぁ……。義弟は?」
「帳簿その他、店に出る以外のお仕事をお任せ中。今、職人と打合せじゃないかな。
事前に知らせてくれれば時間空けたのに」
「まあ、別の時にお祝い言っておく。
なんか、なぁ。あの後ろを引っ付いていたクレアがなぁ」
しみじみと言われた。
くっ。と思うけど、兄が結婚したときに同じことを言ったような気がしないでもないから甘んじて聞いておく。
「ほんと、大丈夫かぁ?」
とか言いながら、色々持ってきたものを並べてきた。義姉さんが食べられないときに使っていた飴とか、ハーブティとか、ボディオイルとか。この兄もだいぶ甘い。
それから、義姉からの伝言があった。乳母の心当たりはあるから後で連絡してくれるそうだ。
「俺、クレアは自分で育てるとか言うと思ってた」
「店主だけだったら、そうかも。
でも、当主代行見習いだし、今後も考えるとそれは難しいよね」
そもそも、私たちにも乳母はいた。家業忙しいし、そういうものだと育った。別に、両親と交流なしってわけでもないし。なお、私にも乳兄弟もいるけど、それぞれ別の道を歩んでいる。
「……悪かったな」
「えぇ? もし、領主にならないにしても乳母を考えたと思うよ」
「なんで?」
「考えてみて、アトスの家系、みんな大きいよ?」
「そーだ、なー」
最後、声のトーンが下がった。気がついたらしい。小さいころから大きかった、みたいな人との子である。我が家、国内平均値。体がついていく気がしない。
人手増量したい。
「うっかり腰やられそうな気がする」
「ぎっくり腰は癖になるっていうしね……」
顔を見合わせて情けなさそうに笑う。体力にはそれなりに自信があっても筋力に自信はない。そういう家系である。徹夜はできるんだけどなぁ……。
「体大事にな。
父さんたちに連絡は?」
「手紙でしたから、そのうち届くよ。でも、もう秋も終わりだし、もし顔を見に来るなら春先じゃないかな」
「そうだな。
なにかあったらうちに連絡するように。遠慮すんなってアトスにも言っておくよ」
「頼りにしてます。お兄様」
「……おう」
ちょっと気味悪いな、って顔した。
使える伝手はつかっておかないと、だ。
こうして、かぼちゃのドレスと共に秋は終わり、冬の始まりの雪がちらつくようになった。
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