【完結】白い結婚が成立した女神の愛し子は、隣国で狼に狙われる

らんか

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3.マイロのその後①

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 ミラがグランブスト伯爵家を出て、半年が経った。
 ラナとすぐに結婚したマイロは、結婚を機に伯爵位を継ぎ、前伯爵夫妻は引退して離れに住まいを移した。
 マイロは自分が伯爵となった事が誇らしく、伯爵夫人となったラナを連れては、得意気に色んなパーティに顔を出していた。
 ミラに押し付けていた書類仕事などは、片手間に少し行なうだけで、あとは執事に押し付け、悠々自適な毎日を過ごしている。
 
 今日も夜会に行くつもりで準備をしている所に、長年伯爵家に勤めている執事長が訪れ、声をかけてきた。

「失礼致します。本日は兼ねてより申し上げていた美術商の方が来られる日に御座います。
 伯爵家の大切な商品を扱う取引先ゆえ、旦那様にはぜひお立ち合い願いたいのですが」

 執事長の言葉に、マイロはチラッとそちらを向き、溜め息を吐く。

「俺は忙しいんだ。俺の代わりにお前が対応してくれ」

「いえ。本日来られるのは、各国を相手取る商会の商会長であり、西方のハルマス王国の商会組合長も兼任されておられる方。噂では貴族の方とも聞いております。
 それゆえ、以前よりこちらに来る際には、が直々にお相手されておりました。一介の使用人である私では相手にされませんでしょう」

「ハルマス王国の美術商と取引なんてしていたか?」

「はい。3年ほど前よりそこの美術商と取引を始めました。そこの美術商の他にも、色々な商会と繋がりを持つ事で、伯爵家の運営する商会の顧客層も広がり、業績も大幅に増加致しまして。特にこの美術商は、美術品だけでなく、いろんな商品を取り扱われておりますゆえ、各国で人気の高い商品も、最先端でうちの国に仕入れられるようになりました」

 執事長の説明を聞き、マイロは仕方なく会うことにして、本日の夜会は取りやめだとラナに報告に行く。

「え~! 夜会、楽しみにしていましたのに~!」

 夜会に行く気満々のラナが、頬を膨らませてマイロに拗ねてみせた。

「仕方ないだろ。あぁ、丁度いい。お前も立ち会え。各国の人気商品を取り扱っているらしいんだ。うちの国にはまだ出回っていない物が色々あるらしいから、お前も欲しいものを選べ。夜会やパーティーに付けていけるものだと宣伝にもなるし、自慢出来るだろ?」

「まぁ! それは素晴らしいですわね!」

 マイロの提案に、ラナは目を輝かせながら、大喜びで頷いた。

 美術商がやって来たと報告を受け、マイロはラナを連れ立って商人の待つ部屋に入る。

「ようこそ。グランブスト伯爵家当主のマイロ・グランブストだ。隣にいるのは、妻のラナ。父より爵位を受け継いで間がないので、貴殿と会うのは初めてだな。これからよろしく頼むよ」

「ごきげんよう。妻のラナに御座いますわ。
 他国で人気の商品を色々扱っていると聞きましてよ。どんな物があるのかとても楽しみだわ」

 夫婦の挨拶を目を細めてジッと見ていた美術商人は、次の瞬間には笑顔で挨拶をする。

「初めまして。ハルマス王国で美術商を営んでおりますヨゼス・アーベルと申します。
 いつもと取り引きをさせて頂いておりましたが、これからはご当主様が直々に取り引きの場に来られると?」

 ヨゼスがそう尋ねると、マイロは自信ありげに頷く。

「ああ、そうだ。さっそくだが、品物を見せてもらおうか。妻も楽しみにしているのでね」

「……かしこまりました」

 美術商は煌びやかな宝石を纏わせたドレスや、装飾品などを次々と並べていく。

「なんて素敵なの!」

 ラナは目を輝かせながら、どの商品にも釘付けとなっている。

「これらはハルマス王国で採れた希少価値のある宝石をベースに、色々なカットで施された代物で御座います。
 この宝石は、他国にもあまり出回っておらず、その分大変価値のある物で御座いますきゆえ、いち早くこちらに持って来た次第です」

 ヨゼスの巧みな話術に、マイロとラナは興奮を隠せない。この宝石を取り扱ったドレスや装飾品は、この国でもとても人気が出るだろう。
 ましてや、まだ何処の国にも出回っていない希少価値のある宝石を、いち早く我が商会が取り扱うという優越感は何物にも代え難い。

「この宝石、すぐにうちが買い取ろう! 他にもまだ出回っていない宝石があるならそれも買い取る! この宝石の独占契約をさせてくれ!」

 マイロはそう言って、すぐに宝石の独占契約を取り交わした。

「ありがとうございました。今後もぜひご贔屓にして下さい」

 美術商のヨゼスはそう言って、伯爵家を後にする。


「いい美術商じゃないか! 母上は、何処であんないい美術商を見つけたんだ? 母上から聞いた事なかったけど、さすがは俺の母上だな!」

「御義母様ったら、とても商才がございましたのね! もっと早く教えて頂きたかったわ!」

 マイロ夫妻は嬉しそうにそう言って、購入した宝石の原石を、すぐに加工して商品にするよう執事長に申しつける。
 執事長は、何か言いたげであったが、マイロ達は気にする事なく、言いたい事を言ってから自室に戻って行った。


 その頃、グランブスト伯爵家を後にしたヨゼスは、振り向いて伯爵家をジッと見ていた。

「なるほど。の言った通り、全く目利きの出来ない者たちであったな。    
 物の価値も分からない者など相手にはしていられない。
 私がここに来る事は、もうないな」

 そう言って、再度伯爵家に背を向けて早々にその場から立ち去っていった。

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