【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか

文字の大きさ
4 / 11

第四話

しおりを挟む
 今日は教会での視察を兼ねた、奉仕活動の日だ。教会の敷地内にある孤児院に、手作りのクッキーを持って行く予定である。
 アルベルト様と一緒に教会に入ると、この教会の責任者である司祭様が迎えてくれた。

 この司祭様、少し白髪交じりの髪でお顔立ちは優しく清潔感があり、立ち居振る舞いはスマートで洗練されたマナーが魅力の、イチオシのおじ様なの。

 ああ、今日も本当に素敵!
 あの慈愛に満ちた笑顔が何とも言えないわぁ。いつもにこやかで、生まれてから一度も怒ったことなどないのではないかしら。
 

 「やぁ、司祭殿。今日もよろしく」

 「第二王子殿下、いつもありがとうございます。子供たちは御二方が来られるのを、いつも楽しみに待っていましたよ。
  ハミルトン伯爵令嬢、本日も宜しくお願いいたしますね」

 司祭様が今日も優しい笑顔で、そう言って下さる。

「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」

 優雅に返答しながらも、内心ではキャーキャーと喜びで騒ぎ立てていた。

「いつも、午後からいらっしゃるのに、本日はお昼前に来られるとは珍しいですね?」

 そう司祭様がおっしゃると、アルベルト様が
「たまには、子供たちの昼食風景でも見て行こうかと」
と、にこやかに返答する。

 司祭様は、「なるほど」と頷き、案内してくれた。
 

 孤児院に到着した際、此方に向かって大きな包みを持った一人の老婆が歩いてくる。

 何かしら?と思って見ていると、

「ママ! そんな荷物を持って! 転んだりしたらどうするの! そういう事は僕がするから!」
と、大きな声を出して、老婆に駆け寄る司祭様の姿があった。


 ん?

 ママ?


「ママ、僕に心配かけないで。ママに何かあったら、僕は生きてはいけないのだから」

「まぁ、この子ったら。いくつになっても子供なんだからねぇ。これくらいの荷物、大丈夫だよ。ほら、お前の好きなおかずを作ってきたんだよ。それから、新しい下着もそろそろいるんじゃないかと思ってね」

「わぁ! ありがとうママ! ママの手作り以外のものは僕、食べられないんだ! 下着も、いつも用意してくれてありがとうね、ママ大好きだよ」

 どうやら、司祭様の母君らしい。

 らしいが……。

 この会話は一体?

 私がその様子を呆然と見ていると、
「司祭殿はとても優秀でいい人なんだけど、母親への執着が強いのが、玉に瑕なんだ。
 何でも今でも眠る時は、母親に子守り歌を歌ってもらわないと眠れないらしいよ。
 あ、これは内緒だからね」
と、笑顔でアルベルト様が教えてくれた。


 え~っと、つまり、これは……

 マザコン?

 えっ! 子守り歌!? あの歳で!?


 私の中の司祭様のイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていくのが分かった。

 その隣りで「また、口……口が開きっぱなし……ククッ」と、肩を揺らし、顔を背けながら笑っているアルベルト様に構う余裕もなかった。

 私がその後、何をしても身が入らず、ぼーっとした様子だったので、その日の視察と奉仕活動は、そこそこに早々に切り上げて帰ることとなった。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

婚約破棄から始まる、ジャガイモ令嬢の優雅な畑生活

松本雀
恋愛
王太子から一方的な婚約破棄の書状を受け取ったその日、エリザベートは呟いた。 「婚約解消ですって?ありがたや~~!」 ◆◆◆ 殿下、覚えていらっしゃいますか? あなたが選んだ隣国の姫のことではなく、 ――私、侯爵令嬢エリザベートのことを。 あなたに婚約を破棄されて以来、私の人生は見違えるほど実り多くなりましたの。 優雅な所作で鍬を振り、ジャガイモを育て、恋をして。 私のことはご心配なく。土と恋の温もりは、宮廷の冷たい風よりずっと上等ですわ!

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...